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第11章:自由を縛る鎖
第2話:野原に咲く花
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「チュッチュッチュ。肉ばかりでなく穀物も食べるべきでッチュウよ、お前ら。ヒトは肉のみに生きるにあらず。パンも食べよという言葉を知らないのでッチュウ?」
大きめのテーブルの隅に追いやられていた焼きたてパンにかぶりついていたのが蝙蝠羽付きの白いネズミことコッシロー=ネヅであった。彼はネズミらしく雑食であるため、肉類もばっちこいである。しかしながら、やはり本能としては穀物類に眼が行くらしく、焼きたてパンを主に処理してくれているのはコッシロー=ネヅであった。
オールドヨークから東に向かい、港町:モンドロールから大海原を出て、地上の楽園と呼ばれる島に到達した。そして、取るモノ取らずに帰ってきた。ここまでの道中、煮魚の鍋は食べたが、基本は干肉と芋スープに冷たく硬くなったパンだ。
ここまで質素な食生活を強いられれば、ヒトが求めるのは肉、肉、肉である。牛の肉は徒党の金庫番であるクルス=サンティーモに当然ながら却下された。豚肉、鶏肉、野菜ならどれだけでもどうぞということで、市場でデーブ=オクボーンが持てるだけ買い込んだのだ。
そして、せっかくなので宿屋の女将に調理してもらうのは半分程度で、あとの半分は自分たちでも調理して、パーティーを楽しむこととなった。揚げる行為はさすがに宿屋のリビングで出来ることではなかったので、そちらを宿屋の女将に頼むことになる。
次に鉄板焼きにすべきか、鍋パーティーにすべきかとデーブ=オクボーンとリリベル=ユーリィが口論しそうになるが、エクレア=シューが夏が鉄板焼きで、冬が鍋でしょ~~~との鶴の一声で決定してしまう。ちなみに今、デーブ=オクボーンがかぶりついている骨付き肉は市場に売っていたソレをそのままにかぶりついているのである。
「ふ~~~。やっと食前の骨付き肉を食べ終えたぜ……。さあ、本格的に鍋パーティーへと移行すっか!」
「すごいですゥ。あの肉の塊をまるでデザート感覚のように言っているのですゥ……」
クルス=サンティーモは失礼ながらも、さすがは豚ニンゲンだと思ってしまう。エクレア=シューが手羽先チキンを5本、骨までしゃぶるようにたいらげたが、それでも小鳥が餌をついばんでいるかのような錯覚にとらわれてしまうほどのデーブ=オクボーンの喰いっぷりである。
そんなデーブ=オクボーンは鼻歌混じりに豚しゃぶが終わった鍋に次々と食材を突っ込んでいく。まずは煮るのに時間がかかる鶏肉の塊をいくつか鍋の底に落としていく。そして、色とりどりの根野菜を鍋いっぱいに敷き並べていく。
「うどんはシメでいいよな?」
「ああ……。デーブに任せるよ」
レオナルト=ヴィッダーとしても、どこをどうツッコんでいいのかわからなくなっていた。煮込みうどん風にするのかどうかとデーブ=オクボーンが問いかけてきているのだが、鍋にぶっこまれている鶏肉、豚肉、野菜の量を勘案するに、デーブ=オクボーン以外は腹がはちきれそうになるのは目に見えていたのだ。それなのにデーブ=オクボーンはさらにうどんをどうするか? と問いかけてくる。レオナルト=ヴィッダーはデーブ=オクボーンの胃袋のサイズがどれほどなのかを考えること自体、やめてしまうしかなかった。
「どうせなら闇鍋にしてもよかったですね~~~」
鍋に蓋をされて、それが煮立つまでまっている間に、ぼそりと呟くようにエクレア=シューが言ってみせる。鍋を取り囲む面々からはあからさまに『ざわ……ざわ……』という擬音が流れてくる。
「エ、エクレア?? あなた、今なんて?」
「え? ええ?? あたし、何か変なこと言いました?」
リリベル=ユーリィが頬を引きつらせながら、自分のほうを見てくるので、エクレア=シューは戸惑ってしまう。彼女としては鍋パーティーにおけるある意味、お約束の一言であった。
しかし、悲しいかな……。実際に戦場で闇鍋を体験しているレオナルト=ヴィッダー、クルス=サンティーモ、デーブ=オクボーン、コッシロー=ネヅはあからさまに嫌そうな顔をしている。
ウィーゼ王国とバルト帝国の2年間にも及ぶ戦において、レオナルト=ヴィッダーたちは喉の渇きを潤すために小便まで飲まなければならない状況に追い込まれたのだ。そういう状況において、食事はどうなっていたかと言えば、語るまでもないかもしれない。
手元にあるものをとりあえず鍋にぶっこむのが日常だったのだ。毎日が闇鍋パーティーだったのだ、レオナルト=ヴィッダーたちは……。
そんなレオナルト=ヴィッダーたちが『闇鍋』というワードに忌避感を示すのも無理は無かった。それならば、リリベル=ユーリィが過剰反応したのはどういった由縁なのか? それを握る鍵は、彼女の兄がフィルフェン=クレープスであることだ、
「エクレアが冗談で言っているのは十分理解しているの。でも、わたしは闇鍋大好きな人物が昔、組んでいた徒党にいたので……」
リリベル=ユーリィはレオナルト=ヴィッダーに自分がアイリス=クレープスであることを感づかせてはならない事由があり、兄の名を直接的に出すわけにはいかずに、言葉を濁して、そういう人物が近くに居たと示して見せる。
「リリベル。おまえも闇鍋の被害者だったのか……。あれはツライよな……」
「うゥ……。闇鍋、嫌なんですゥ。いくら腹を満たすためでも、アレはやってはいけないことだったんですゥ」
「え、えっと……。あたし、何か開いてはいけない記憶の蓋を開いちゃいまし……た?」
「チュッチュッチュ。普通のお肉を食べれるのは幸せだということでッチュウ。エクレアは恵まれているのでッチュウ……」
鍋が煮立つまでの間、沈痛な空気が宿屋のリビングを支配することとなる。しかしながら、デーブ=オクボーンが、さあ出来上がったぞぉぉぉ! と沈痛な空気を吹き飛ばすような大声をあげつつ、鍋の蓋を取ると、今まで暗い顔をしていた面々は、パッと野原の花が一斉に咲いたかのような笑顔になってしまう。
赤、緑、黄色、そして豚肉。その底には鍋の旨味が凝縮された鶏肉が埋まっている。そんな鍋を見て、心が浮き立たない者など、誰一人としていなかった。皆は一斉に箸を鍋につっこみ、自分の小皿の中に次々と移し変えていく。
「ちょっと、レオ。肉ばっかり取らないで、野菜も食べなさいよ」
ここで嫁らしい行動に出たのがリリベル=ユーリィであった。彼女は隣に座るレオから小皿を奪い取り、肉野菜野菜野菜の割合に変えてしまう。レオナルト=ヴィッダーはガーーーン! といった子犬がおやつを取り上げられたかのような明らかに驚いた表情になるが、リリベル=ユーリィはニッコリと微笑み、盛りつけ終わった小皿をレオナルト=ヴィッダーに手渡す。
「あ、ありがとう、リリベル……」
「もうっ! そんなしょげた顔しないでっ! わたしの分のお肉をあげるからっ!」
リリベル=ユーリィは自分の小皿に盛っていた肉をレオナルト=ヴィッダーの小皿に乗せる。その瞬間、レオナルト=ヴィッダーの顔は喜びに満ち溢れるのであった。
大きめのテーブルの隅に追いやられていた焼きたてパンにかぶりついていたのが蝙蝠羽付きの白いネズミことコッシロー=ネヅであった。彼はネズミらしく雑食であるため、肉類もばっちこいである。しかしながら、やはり本能としては穀物類に眼が行くらしく、焼きたてパンを主に処理してくれているのはコッシロー=ネヅであった。
オールドヨークから東に向かい、港町:モンドロールから大海原を出て、地上の楽園と呼ばれる島に到達した。そして、取るモノ取らずに帰ってきた。ここまでの道中、煮魚の鍋は食べたが、基本は干肉と芋スープに冷たく硬くなったパンだ。
ここまで質素な食生活を強いられれば、ヒトが求めるのは肉、肉、肉である。牛の肉は徒党の金庫番であるクルス=サンティーモに当然ながら却下された。豚肉、鶏肉、野菜ならどれだけでもどうぞということで、市場でデーブ=オクボーンが持てるだけ買い込んだのだ。
そして、せっかくなので宿屋の女将に調理してもらうのは半分程度で、あとの半分は自分たちでも調理して、パーティーを楽しむこととなった。揚げる行為はさすがに宿屋のリビングで出来ることではなかったので、そちらを宿屋の女将に頼むことになる。
次に鉄板焼きにすべきか、鍋パーティーにすべきかとデーブ=オクボーンとリリベル=ユーリィが口論しそうになるが、エクレア=シューが夏が鉄板焼きで、冬が鍋でしょ~~~との鶴の一声で決定してしまう。ちなみに今、デーブ=オクボーンがかぶりついている骨付き肉は市場に売っていたソレをそのままにかぶりついているのである。
「ふ~~~。やっと食前の骨付き肉を食べ終えたぜ……。さあ、本格的に鍋パーティーへと移行すっか!」
「すごいですゥ。あの肉の塊をまるでデザート感覚のように言っているのですゥ……」
クルス=サンティーモは失礼ながらも、さすがは豚ニンゲンだと思ってしまう。エクレア=シューが手羽先チキンを5本、骨までしゃぶるようにたいらげたが、それでも小鳥が餌をついばんでいるかのような錯覚にとらわれてしまうほどのデーブ=オクボーンの喰いっぷりである。
そんなデーブ=オクボーンは鼻歌混じりに豚しゃぶが終わった鍋に次々と食材を突っ込んでいく。まずは煮るのに時間がかかる鶏肉の塊をいくつか鍋の底に落としていく。そして、色とりどりの根野菜を鍋いっぱいに敷き並べていく。
「うどんはシメでいいよな?」
「ああ……。デーブに任せるよ」
レオナルト=ヴィッダーとしても、どこをどうツッコんでいいのかわからなくなっていた。煮込みうどん風にするのかどうかとデーブ=オクボーンが問いかけてきているのだが、鍋にぶっこまれている鶏肉、豚肉、野菜の量を勘案するに、デーブ=オクボーン以外は腹がはちきれそうになるのは目に見えていたのだ。それなのにデーブ=オクボーンはさらにうどんをどうするか? と問いかけてくる。レオナルト=ヴィッダーはデーブ=オクボーンの胃袋のサイズがどれほどなのかを考えること自体、やめてしまうしかなかった。
「どうせなら闇鍋にしてもよかったですね~~~」
鍋に蓋をされて、それが煮立つまでまっている間に、ぼそりと呟くようにエクレア=シューが言ってみせる。鍋を取り囲む面々からはあからさまに『ざわ……ざわ……』という擬音が流れてくる。
「エ、エクレア?? あなた、今なんて?」
「え? ええ?? あたし、何か変なこと言いました?」
リリベル=ユーリィが頬を引きつらせながら、自分のほうを見てくるので、エクレア=シューは戸惑ってしまう。彼女としては鍋パーティーにおけるある意味、お約束の一言であった。
しかし、悲しいかな……。実際に戦場で闇鍋を体験しているレオナルト=ヴィッダー、クルス=サンティーモ、デーブ=オクボーン、コッシロー=ネヅはあからさまに嫌そうな顔をしている。
ウィーゼ王国とバルト帝国の2年間にも及ぶ戦において、レオナルト=ヴィッダーたちは喉の渇きを潤すために小便まで飲まなければならない状況に追い込まれたのだ。そういう状況において、食事はどうなっていたかと言えば、語るまでもないかもしれない。
手元にあるものをとりあえず鍋にぶっこむのが日常だったのだ。毎日が闇鍋パーティーだったのだ、レオナルト=ヴィッダーたちは……。
そんなレオナルト=ヴィッダーたちが『闇鍋』というワードに忌避感を示すのも無理は無かった。それならば、リリベル=ユーリィが過剰反応したのはどういった由縁なのか? それを握る鍵は、彼女の兄がフィルフェン=クレープスであることだ、
「エクレアが冗談で言っているのは十分理解しているの。でも、わたしは闇鍋大好きな人物が昔、組んでいた徒党にいたので……」
リリベル=ユーリィはレオナルト=ヴィッダーに自分がアイリス=クレープスであることを感づかせてはならない事由があり、兄の名を直接的に出すわけにはいかずに、言葉を濁して、そういう人物が近くに居たと示して見せる。
「リリベル。おまえも闇鍋の被害者だったのか……。あれはツライよな……」
「うゥ……。闇鍋、嫌なんですゥ。いくら腹を満たすためでも、アレはやってはいけないことだったんですゥ」
「え、えっと……。あたし、何か開いてはいけない記憶の蓋を開いちゃいまし……た?」
「チュッチュッチュ。普通のお肉を食べれるのは幸せだということでッチュウ。エクレアは恵まれているのでッチュウ……」
鍋が煮立つまでの間、沈痛な空気が宿屋のリビングを支配することとなる。しかしながら、デーブ=オクボーンが、さあ出来上がったぞぉぉぉ! と沈痛な空気を吹き飛ばすような大声をあげつつ、鍋の蓋を取ると、今まで暗い顔をしていた面々は、パッと野原の花が一斉に咲いたかのような笑顔になってしまう。
赤、緑、黄色、そして豚肉。その底には鍋の旨味が凝縮された鶏肉が埋まっている。そんな鍋を見て、心が浮き立たない者など、誰一人としていなかった。皆は一斉に箸を鍋につっこみ、自分の小皿の中に次々と移し変えていく。
「ちょっと、レオ。肉ばっかり取らないで、野菜も食べなさいよ」
ここで嫁らしい行動に出たのがリリベル=ユーリィであった。彼女は隣に座るレオから小皿を奪い取り、肉野菜野菜野菜の割合に変えてしまう。レオナルト=ヴィッダーはガーーーン! といった子犬がおやつを取り上げられたかのような明らかに驚いた表情になるが、リリベル=ユーリィはニッコリと微笑み、盛りつけ終わった小皿をレオナルト=ヴィッダーに手渡す。
「あ、ありがとう、リリベル……」
「もうっ! そんなしょげた顔しないでっ! わたしの分のお肉をあげるからっ!」
リリベル=ユーリィは自分の小皿に盛っていた肉をレオナルト=ヴィッダーの小皿に乗せる。その瞬間、レオナルト=ヴィッダーの顔は喜びに満ち溢れるのであった。
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