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第11章:自由を縛る鎖

第3話:三大欲求

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「もう喰えねえだ~~~」

 エクレア=シューは膨れ上がったお腹をぽんぽんと叩きながら、椅子の背もたれに身体を預ける形となる。いくら食べ盛りの18歳といえども、豚ニンゲンオークのようなデーブ=オクボーンに合わせての鍋の量は多すぎた。

「うぷっ。わたしももう限界。この鍋の汁を吸いまくったうどんに手をつけたいけど、無理……」

 次に降参の白旗をあげたのはリリベル=ユーリィであった。彼女は他の3人と1匹のペースに負けずと喰らい続けたが、ついにシメのうどんの前で力尽き、エクレア=シューと同じ格好となる。

「チュッチュッチュ。うどんが夢の中に出てきそうなんでッチュウ……」

 3番目の脱落者はコッシロー=ネヅであった。デーブ=オクボーンがシメとして、乾麺を鍋の中にぶっこんだは良いが、それが鍋の汁を存分に吸い上げ、膨れ上がり、うどんのほうがよっぽど鍋の中の面積を占めることとなる。そこに生卵を5つ落として、そのうちのひとつを半熟状態のままでうどんに絡めながら食べていたコッシロー=ネヅはギブアップを宣言する。

 残るはクルス=サンティーモ、レオナルト=ヴィッダー、デーブ=オクボーンである。今にも鍋からあふれ出しそうになっているうどんをたった3人で食べ切らなくてはいけない。3人は小皿にうどんを移してはズルズルと音を立てて、無言で食べ続けた。シメのうどんが半分を過ぎたところで、レオナルト=ヴィッダーが降参の意を示す。

「だめだ……。これ以上、食べたら、ズボンの革ベルトが弾け飛ぶ。ってか、クルス、おまえ、すごいな!?」

「いや、ぼくも限界ぎりぎりなんですけどォ。ウルト様から供された料理はしっかり食べ切れと教育されているので、どうしても箸を止めれないんですゥ」

 レオナルト=ヴィッダーの眼から見ても、クルス=サンティーモの腹は服の上からでもぽっこりと膨らんでいるのがわかる。クルス=サンティーモは男の娘であるのに、まるで妊娠4カ月くらいのでっぱったお腹となってしまっている。そんなクルス=サンティーモにトドメをさしたのエクレア=シューであった。クルス=サンティーモの右隣りに座るエクレア=シューが大きくなったでちゅね~~~という謎の赤ちゃん言葉を発しながら、クルス=サンティーモのお腹をさすったものだから、クルス=サンティーモは両手で口を押えることとなる。

「ったく。おめえら、俺様よりも5~6歳も若いってのに、なってねえ。そんなんじゃいつまでたっても大きくならねえぞ。特に胸がな!?」

 デーブ=オクボーンが明らかにリリベル=ユーリィの胸の方を見ながら、そう言ってみせる。だが、あからさまなセクハラを受けているリリベル=ユーリィはとうの昔にダウンしており、言い返す力も残っていなかった。リリベル=ユーリィはデーブ=オクボーンの小言を左から右へと受け流す。よろよろと足元をふらつかせながら、硬いベッドの上へ頭からダイブしてしまう。

 そんな尻をこちらに突き出して、ベッドに身体を放り投げているリリベル=ユーリィを見て、レオナルト=ヴィッダーは食欲を刺激させられてしまう。いや、言い間違えた。食欲では無く、性欲だ。

 こればかりはレオナルト=ヴィッダーは悪くない。食欲が満たされれば、つぎに脳が身体に発する信号は『睡眠欲』か『性欲』かのどちらかなのだ。女性の場合は睡眠欲がおおいに刺激されやすく、男の場合は性欲が刺激されやすいだけの話だ。満腹中枢がレッドサインを出したことで、レオナルト=ヴィッダーの食欲は完全に満たされることとなる。自分もベッドに転がりこんで、出来ることなら、リリベル=ユーリィの尻を枕にして、その尻枕の谷間に鼻先を突っ込みながら、眠りたい気持ちになってしまう。

(いかんいかんっ! 俺は何を考えてやがるっ! こうも簡単に邪念に捕らわれちまうから、俺は素戔嗚スサノオに心と身体を奪われちまうんだっ!)

 女性がエッチな気分になるには、雰囲気が大切だと言われている。翻って、男性はどうかと言われれば、直接的に五感に訴えかけられることが重要なのだ。視覚、嗅覚、聴覚が刺激されることが実は重要なのだ。いきなりおちんこさんを握られたところで、逆におちんこさんは委縮してしまうことがある。

 それよりも、眼でおっぱいを見て、嗅覚で相手の身体を伝う汗の匂いを嗅ぐ。さらに欲を言えば、聴覚で『抱いて?』と拾いあげることで、男はおちんこさんを棍棒サイズへと変貌させるのだ。

 風が吹いて、身体を刺激するだけでおちんこさんをそそり立たせることが出来るのは12~14歳くらいのお子ちゃまくらいなのだ。今、レオナルト=ヴィッダーは20歳である。ちょっとした冷たい風が裸体を刺激してからといって、いっきにエッチな気持ちになることは少なくなっていた。それよりも、こちらにクルス=サンティーモの天使のお尻には負けるが、それでも可愛らしい筋肉がひき締まったお尻を鎧下に着るズボンを通して、レオナルト=ヴィッダーの視覚に突き刺さっていることのほうが重要なのである。

 レオナルト=ヴィッダーの邪念はどうやっても膨れ上がってきていた。彼の右手に持つ箸の動きはとうの昔に止まっている。それよりも、リリベル=ユーリィの方をなるべく見ないようにまぶたを閉じて、頭を軽く左右に振りる。しかしながら、悪いとは思いつつもうっすらと眼を開けて、リリベル=ユーリィの尻を見る。これを何度か繰り返した後、レオナルト=ヴィッダーは椅子から立ち上がり、夜風で熱を冷ましてくると言い出す。

 クルス=サンティーモはこの時、レオナルト=ヴィッダーが邪念を振り払うために離席しようとしているとは、露とも思わなかった。だからこそ、自分の付き合うと言い出し、レオナルト=ヴィッダーの身体の左側を支えつつ、宿屋のリビングから階段の方に向かい、ギシギシと鳴る階段を降りていく。

 レオナルト=ヴィッダーは階段を降りきったあと、クルス=サンティーモに預けていた前腕固定型杖ロフストランドクラッチを返してもらい、すっかり暗くなってしまった街道を軽く散歩し始める。性欲が昂ってしまった時、どう発散するのが良いのかと問われれば、一番は身体を動かすことだ。

 筋トレでも良いし、ちょっと早足の散歩でも良い。とにかく、おちんこさんに流れこむ予定の血液を発散させるために、身体を動かすことで血のめぐりを良くさせることが肝心だ。寒風吹き抜けていくオールドヨークの街並みを見つつ、レオナルト=ヴィッダーとクルス=サンティーモは10分ほど、泊っている宿屋の周りをうろついてみる。

 この寒空だというのに、通称:立ちんぼをしているあでやかな服装に身を包む女性が他の宿屋の前で客引きをしている真っ最中であった。そんな彼女たちはまったくもってして、レオナルト=ヴィッダーに声をかけることは無かった……。レオナルト=ヴィッダーの散歩を邪魔する者は誰もいなかった。
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