【R18】俺は悪くねえ! ~愛しのお姫様が女騎士に変化しているのを知らずに後ろの穴を穿ってしまいました~

ももちく

文字の大きさ
120 / 261
第12章:陽が沈む地へ

第9話:外界へ

しおりを挟む
 時間を2月15日の朝に戻す。準備を整え終えたレオナルト=ヴィッダー一行は、幌付き馬車の荷台に乗り込んでいく。最初に足の悪いレオナルト=ヴィッダーを4人娘が協力し合って乗せる。その次はリリベル=ユーリィだ。先に乗り込んだリリベル=ユーリィはクルス=サンティーモ、エクレア=シュー、マリア=アコナイトに右手を差し伸べて、彼女らの右手を掴み、一気に荷台へと引っ張り込む。

「デーブ、こっちは良いわよっ。いつでも出発できるわっ」

「へいへいっ! じゃあ、お嬢様方、レオンは落として良いが、お嬢様方は落ちないようにしておいてくれよ!?」

「デーブ……。この旅の主役はあくまでも俺なんだぞ。俺を落としたら、そこで旅が終わるだろうがっ!」

「ハーハハッ! そんときゃ、レオンの代わりにお嬢様方が奮起してくれるさっ。さあて、冗談はここまで。はいよ、シルバー!!」

 デーブ=オクボーンは御者ぎょしゃ台にしっかりと座り、手綱をパチンと鋭く上下に振ってみせる。幌付き馬車に繋がれた4頭の馬がブルルルッ! といななき、カッポカッポと蹄を鳴らして、前進し始める。

「お土産は竜皇の珠玉で良いですよーーー! 皆さんの無事を祈ってますよーーー!」

 進み出した幌付き荷馬車に右腕を左右に大きく振りながら、フィルフェン第1王子は見送りをする。幌付き荷馬車が雑踏に消えていくまで、フィルフェン第1王子は右腕を振り続けた。まるで、もう彼らとは会えないのを惜しむかのようにだ。幌付き荷馬車が完全に見えなくなってしまった後、フィルフェン第1王子は腰の両側に両手を当ててつつ、ふぅ……と長いため息をついてみせる。

「さて、レオナルトくんが無事に戻ってくれる確率は10%以下。さらに竜皇の珠玉を手に入れれる確率も混ぜれば、彼の生存確率は0.1%です。先生はアイリスくんに相当に恨まれるかもしれませんが、先生はレオナルトくんを信じています……」



 フィルフェン=クレープスの思惑を余所に、レオナルト=ヴィッダー一行は幌付き荷馬車に揺られたまま、ウィーゼ王国の首都であるオールドヨークの外へと向かい、出発から2時間後には完全にそれを成し遂げる。首都の郊外をグルっと囲んでいる高さ10ミャートルの壁に設置してある門に到達したレオナルト=ヴィッダー一行は、門番に通行証を見せる。

「ふむ。ここから先は魔物モンスターが跋扈する土地へと入る。そんな装備で大丈夫か?」

「ご心配なく。準備は万端ですぜ。お役目、お疲れ様ですぜ」

 門番はウィーゼ王国が公式に発行している通行証を目視で確認しつつ、御者ぎょしゃ台に座るデーブ=オクボーンにウィーゼ王国の危険地帯に出る理由と準備はちゃんとしているのか? と問う。基本的に北ラメリア大陸にある町や村、そして首都はぐるっと壁に囲まれている。それは石造りであったり、木材を組み合わせたりしている壁だ。北ラメリアの集落の外には魔物モンスターが跋扈しており、そいつらが集落に入り込んでこないようにするための措置が取られている。

 特にどこの首都も3重の壁で囲まれている。ウィーゼ王国の首都は、外郭には田園地帯があり、内側に向かえば街がある。そして、王族・貴族が住んでいる区画は水が張ってある堀が壁となっている。3重の壁を用いて城塞と化しているのは首都くらいなものであり、外の世界は危険と隣合わせであった。

 それゆえに行商人は荷物を積んでいる荷馬車の他に、傭兵を乗せた荷馬車もセットで、キャラバンを形成しているのが基本であった。そして、その行商人たちが乗っている荷馬車とほぼほぼ変わらない大きさの幌付き馬車であるにも関わらず、傭兵たちの姿が見えないので、門番はそんな装備で大丈夫か? とデーブ=オクボーンに尋ねたのである。

「ふむ……。その方たちがそれで良いと言うのであれば、止めはしないが……。まあ、着のみ着のままで出戻りしないことを願っておこう」

 門番は自己責任だからなと念押しした後、壁に設置されている門をくぐって良いという許可をレオナルト=ヴィッダー一行に出す。デーブ=オクボーンは馬に鞭を入れて、幌付き荷馬車を再び動かせる。壁の向こう側には地平線が見えそうなほどの広がりを見せる平原があった。マリア=アコナイトは幌付き馬車の荷台から御者ぎょしゃ台の方へと移動し、パッと野原に咲く華のような笑顔を見せる。

「域外に出るのは久方振りニャン! 世界はこんなにも美しいのに、内も外も残酷なのですニャン!」

「何を名言ぽいことを言ってるんだ? 変に身を乗り出してると、転げまわることになっちまうぞ? さあ、荷台の方に戻っておけよ?」

 デーブ=オクボーンは自分の肩口から顔を出していたマリア=アコナイトに行儀良く座っておけと忠告する。マリア=アコナイトはニャハハ……と気恥ずかしそうに笑った後、荷台の方へと戻っていく。確かにマリア=アコナイトのように、ヒトによっては、域外も壁で囲まれた首都:オールドヨークにも残酷な現実が待っている。域外から一歩、外に出れば。そこには元々ヒトであったものの慣れの果てが転がっていた。

 域外に出て、道に沿って南西に進んでいるが、明らかに元ヒトであったモノの成れの果ての数が顕著に増えている。この辺りは冬にはうっすらとではあるが雪が積もる。そして、今は2月半ばということもあり、その雪も解け始めていた。そして、雪に埋もれていた亡骸が姿を現し始めている。

(今年も魔物モンスターにまで堕ちた奴らがたくさんいたってか……。喰うに困った野盗がさらに行きつく領域テリトリー。おいらはヒトから魔物モンスターにならなかっただけマシだったんだろうな……)

 デーブ=オクボーンはなるべくなら、平地に転がっている亡骸を4人娘たちには見せたくなかった。マリア=アコナイトの言っていたように世界は美しく、内も外も残酷だったからだ。しかし、幌付き馬車の荷台から聞こえてくる4人娘たち談笑が落ち込みかけていたデーブ=オクボーンの心を支えてくれた。

 デーブ=オクボーンはふぅ……と長い嘆息をした後、よしっ! と気合を入れ直し、手綱をしっかりと握り直す。1カ月に及ぶ長い道中は始まったばかりなのだ。こんな最初の最初の時点で暗い気持ちに堕ちている暇など無い。

「デーブさん。魔物モンスターが現れたら、遠慮なく言ってくださいねェ。ぼくとマリアさんが無双が如くに暴れてみせますゥ!」

「ふふ……っ。蝶の短刀バタフライ・ナイフが血を吸いたがっているニャン。さあ、コボルトどもよ、あたいがばったばったと切り伏せてみせるニャン!」

 デーブ=オクボーンはたくましすぎる男の娘と半猫半人ハーフ・ダ・ニャンの娘の言葉を受けて、苦笑せざるをえなかった。

「おーーーい。レオン。そのふたりに説教しておいてくれ。傷病人はレオンだけで十分だってなっ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

処理中です...