【R18】俺は悪くねえ! ~愛しのお姫様が女騎士に変化しているのを知らずに後ろの穴を穿ってしまいました~

ももちく

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第14章;レオのかつての親友

第7話:三十六計逃げるに如かず

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 コッシロー=ネヅは言い方に棘はあるが、それでも相談では真摯に乗ってくれる。リリベル=ユーリィは意外だ……と感心せざるをえなくなる。しかしながら、いつも通り皮肉も絡めてくるので、時折カチンとくるこもある。それを差し置いても、皆から頭ごなしに身体を休ませておけと、突き放さられるよりかは、遥かにマシであった。

「チュッチュッチュ。不満に思うことは口から声にして吐き出すと楽になるでッチュウ。どうでッチュウ? 僕のような毒吐き相手でも、気分は晴れたでッチュウか?」

「うん、ありがと。かなり気が楽になったわ。これはおわびに天カスを山盛りで進呈した方が良い?」

「チュッチュッチュ。今日の相談料はサービスしておくでッチュウ。それよりも、この先、ジルバ=フリューゲルとの再戦は必ずやってくるでッチュウ。この徒党パーティの最大火力はリリベルなのでッチュウ」

「ええ、わかってるわ。皆がわたしに休んでおけってのは、あいつが再び現れた時に、わたしが万全の体勢であることが肝要ってことね。わたしはレオの盾と剣だけでなく、皆を護る騎士にならなきゃ」

 リリベル=ユーリィは心中にほのかな炎を宿す。しかし、その炎の勢いをこの時点で大きくすることはない。松明につくような炎ではなく、ろうそくに火を灯した感じだと言えば良いだろう。ほのかに温かく、それでいて、頭の中にまでその熱をもっていかない。リリベル=ユーリィは怒りで自分を見失わないようにしつつ、かつ、心の中にある火種を消してしまわないようにしながら、自身の回復に努めることになる。

 リリベル=ユーリィの心の中にある火種に感化されたのか、彼女の両腕に巻かれた緋喰い鳥の羽根製の包帯が癒しの力を増す。リリベル=ユーリィはコッシロー=ネヅに話を聞いてもらってから1日半後には、火傷はすっかり癒えてしまう。そして、包帯が取れた次の日には、薔薇乙女の細剣ローズヴァージン・レイピアを自由自在に操れるほどまでに戻ってきていた。

「皆、ありがとう。おかげ様でわたしの体調は万全よ。ジルバ=フリューゲルってのが襲ってきても、わたしが追い払ってみせる」

 リリベル=ユーリィは自分の身に放り投げられてきた、直径20センチュミャートル、高さ40センチュミャートルの薪用の木材を右手に持つ薔薇乙女の細剣ローズヴァージン・レイピアで切り刻んで見せる。ちょうど良い形に整えられた薪を見て、デーブ=オクボーンとエクレア=シューはパチパチと手放しでリリベル=ユーリィに拍手を送ってみせる。

「さすが転んでもただでは起きないリリベル様なのです~~~。剣技の冴えが、火傷を負う前より、鋭くなってません~~~?」

「それはわたしも感じていたことよ。腕先から指までの感覚が鋭くなってる気がするの。薔薇乙女の細剣ローズヴァージン・レイピアがよく手に馴染むっていうか。わかるかしら?」

「う~~~ん、よくわかりませ~~~ん。でも、リリベル様がそう言うのなら、そうなんだと思います~~~」

 リリベル=ユーリィが騎士に対して、エクレア=シューは魔術師である。根本的に扱う武器が違う。それゆえにエクレア=シューは安易に同意の言葉を口から出さなかった。分野がどうしても違うのである。それなのに、わかった振りをしないところがエクレア=シューらしくもあった。

「リリベル様が完治された今、あとはレオン様がベッドから出れるほどに回復してくれることを願うまでなのです~~~」

「レオンは眼を覚ましたことは覚ましたが、ありゃ、戦力として数えるのは酷ってもんだ……。前腕固定型杖ロフストランドクラッチ無しじゃ、まともに歩けない前の状態にまで戻っちまったしなあ……」

 レオナルト=ヴィッダーは皆を救うために素戔嗚スサノオに心と身体を差し出した。それゆえに、彼の身体に点在していた鉱物部分が一気に広がりを見せる。レオナルト=ヴィッダーは今や半人半ゴーレムと称しても、さほど問題なさそうなほどであった。

 コッシロー=ネヅの立てた予定では、あと二日で平屋建ての一軒家を出払い、ミシガン王国の首都であるジカーゴに向かう。ひとつのところで長く留まり続ければ、体勢を整え終えた敵が来襲してくる可能性があった。レオナルト=ヴィッダーが完治するまで、農業都市:ナックルヒルでゆっくり養生してはいられなかった。

「前途多難なのです~~~。ここで留まっても、旅を再開しても、襲われることには変わりは無いはずなのです~~~。ならば、ここで迎え撃つのが正しい気がするのです~~~」

 エクレア=シューの言うことはある意味、もっともであった。ジルバ=フリューゲルなる者が襲ってくるのであれば、このナックルヒルで万全の構えを取り、返り打ちにしてしまえば良いとも思えるエクレア=シューであった。しかし、デーブ=オクボーンは頭を左右にフルフルと振り

「返り打ちに出来ればな……。それよりも荷馬車に乗って、いつでも逃げを打てるようにしておいたほうが良いっていう考えのほうが、おいらはまだマシだと思うんだぜ」

 コッシロー=ネヅは『三十六計逃げるに如かず』と皆に説明していた。それに不満を持っているのがエクレア=シューであった。逃げた先に道はあるのかと言いたいのである。しかし、デーブ=オクボーンは今のレオナルト=ヴィッダーの状態を見るに、コッシロー=ネヅが示す策のほうが正しい気がしてならない。

 『逃げるのは恥』という言葉があるが、『死んだら元も子も無い』という言葉も同時に存在する。ミシガン王国の首都であるジカーゴまで逃げ切れば、そこにおおっぴらに魔物モンスターを送り込むことも出来なくなるのは自明の理であった。

「おいらは逃げを選択させてもらうぜ。リリベル様はどっち側だ?」

「わたしは、これでもコッシローのことを信用してる。コッシローが逃げを選ぶなら、わたしはそれを信じる」

「うみゅぅ~~~。陣頭指揮を執ってくれているコッシローちゃんの言うことは正しい気はするんですけど~~~。あたしの女の勘がこの地で決着をつけておくべきだと訴えかけてきているのです~~~」

 エクレア=シューは結局、賛同者を得られずじまいであった。この西行きの旅路で、コッシロー=ネヅは皆に実績を見せつけてきた。残るクルス=サンティーモとマリア=アコナイトもコッシロー=ネヅの策に賛成であった。そして、何より決定的だったのはレオナルト=ヴィッダーが、コッシロー=ネヅの策で行こうと言い出したのだ。

「俺がジルバを仕留められなかった以上、リリベルだけに負担をかけるのは無理筋だ。1日でも長く、ジルバとの再戦を避けて、俺が戦えるまでに体調を整えることが肝要なはずだ」

「チュッチュッチュ。すぐに頭に血が昇るレオンにしては殊勝な心構えでッチュウ。じゃあ、さっさと馬車の荷台に飛び乗れッチュウ。魔物モンスターの気配が日に日に増してきているでッチュウ」
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