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第15章:愛を知らぬ男
第2話:致命の一撃
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リリベル=ユーリィはジルバ=フリューゲルと言葉を重ねるだけでも不快感が増してしまう。レオナルト=ヴィッダーとお付き合いしている最中に、自分の相談に乗ってくれている親友が居ると聞かされてはいたが、その人物の名前をレオナルト=ヴィッダー本人からは聞かされたことが無い。つい、先日、レオナルト=ヴィッダーからその名前を聞かされて、やっと、レオナルト=ヴィッダーが昔に言っていた時のこととリンクしたのである。
それもそうだろうとリリベル=ユーリィは納得してしまう。レオは親友のどこかに不信感を抱いていたからなのだろうと。だからこそ、そういう人物が居たことをほのめかす程度で、それ以上、詳しい話はしてくれなかったのだろうと。
「はあはあはあ……。興奮してきたぜ……。てめえはとてつもなく良い女だなぁぁぁ!?」
「あんたにそう言われても、怖気が走るだけよっ! さっさと私の剣にひれ伏せばいいわっ!!」
実際のところ、リリベル=ユーリィは攻めあぐねいていた。薔薇乙女の細剣と大剣を幾度もカチ合わせようとも、向こうはまだまだ余裕たっぷりといった感じで、リリベル=ユーリィの方が若干押され気味であった。両手で振るわなければならないサイズの大剣を振り回しているというのに、剣を振るう速度はリリベル=ユーリィと変わりない。そうなれば、剣の重量の差でリリベル=ユーリィは押されるしかなかったのだ。
リリベル=ユーリィとジルバ=フリューゲルが剣と剣を振り回し、刃と刃がぶつかり会うたびにリリベル=ユーリィはクッ! と呻き声をあげる。現在、ちょうど50合目となる剣戟である。リリベル=ユーリィの額には汗が滲み始め、それが一本のスジとなり、頬を濡らし始める。
(このままじゃダメ……。何か決定的なきっかけをつかめないと、じり貧になる一方だわ……)
リリベル=ユーリィは心に焦りを生じさせていた。ジルバ=フリューゲルは【攻撃は最大の防御』とでも言いたげな剣筋であった。膂力に勝る相手と真っ向勝負するのは、兵法的にも、剣術的にもあまり褒められたことでは無い。相手の威を受け流しつつ、カウンター気味に一撃を入れるのが正しい戦い方であるはずなのだが、リリベル=ユーリィはそれをしなかった。
そうしなかったのは、ジルバ=フリューゲルが明らかに誘っていたからである。受け流しからのカウンターにさらにカウンターを刺し込もうとしているのは、リリベル=ユーリィほどの剣技を有しているからこそ、事前に察知できた。それゆえに、リリベル=ユーリィは押されるとわかっていながらも、真っ向勝負を続けるしかなかったのだ。
「へっへっへっ。剣を振るスピードが落ちてきちゃいないかい、お嬢ちゃん。そちらのスピードに合わせてやろうか? 俺様は紳士だからなあ?」
「ふんっ。あんたが紳士なら、醜い豚ニンゲンも紳士になるわね?」
「ちっ。口数の減らねえ女だ……。気が変わったぜ。おめえの相手は豚ニンゲンに決定だっ! 産まれてきたことを呪うくらいに豚ニンゲンに犯させてやるぜっ!!」
ジルバ=フリューゲルは気の強い女を屈服させて、土下座の状態から、足を舐めさせるのが好きであった。しかし、それでも気の強すぎる女は好きではない。さらに強い男には媚びる感情を持ち合わせている女でなければならない。ジルバ=フリューゲルは自分と剣を交えている女エルフ騎士が自分の好みの範囲から外れていることを知り、急激に関心を失っていく。
それに伴い、今まで手加減してきたが、本気を出そうと思ってしまうジルバ=フリューゲルであった。身体の筋肉に過剰な電流を流し、それを筋肉の加速へと変えていく。リリベル=ユーリィの目から見て、明らかにジルバ=フリューゲルの剣速は増していくのであった。それからさらに50合が積み重なると、リリベル=ユーリィは剣圧に耐えきれなくなり、ジルバ=フリューゲルとの物理的距離を空けざるをえなくなる。
「女にしてはよく持ったほうだぜっ! 俺様が所属している国の首席騎士より、遥かに手応えがあったぜ!!」
ジルバ=フリューゲルは去年、行われたウィーゼ王国での武闘会を思い出す。ジルバ=フリューゲルは決勝まで駒を進めたが、惜しくも首席騎士であるゴーマ=タールタルに破れてしまった。しかし、その時はジルバ=フリューゲルは右眼にはめ込んでいる『束縛を生み出す運命』からの呪力の供給を絶っていた。
それも当然である。ジルバ=フリューゲルは『束縛を生み出す運命』を研究所から盗んだからだ。衆目が集まる中で、いくら負けるからといって、自分から『束縛を生み出す運命』を盗んだ犯人だと自供する気は無かったのである。特に研究所の総責任者であるフィルフェン第1王子が武闘会の観戦に出席していたのが大きい。国王の眼はレオナルト=ヴィッダーとアイリス=クレープスとの仲を見逃すほどに節穴であるが、その息子が同じだとは限らないと踏んだジルバ=フリューゲルは用心に用心を重ねたのである。
(あの王子様は放蕩息子を演じちゃいるが、俺様と同じ匂いがしやがった……。あいつは俺様と同じ狩人だ。ウィーゼ王国から外にレオナルトが出てくれるまで、俺様はレオナルトに直接的な攻撃はついに仕掛けられなかったな……)
ジルバ=フリューゲルは大剣を構え直し、上段構えとする。その最中にフィルフェン第1王子の顔を思い出し、ギリッ! と強めに奥歯を噛みしめる。その動作により、大剣を握る両手に余分な呪力が込められることとなる。
リリベル=ユーリィはその瞬間を見逃さなかった。致命の一撃が頭上から振り下ろされてくるが、ジルバ=フリューゲルは込め過ぎた呪力に身体を揺さぶられて、剣筋が甘くなる。リリベル=ユーリィは待ちに待った『機』を得ることとなる。薔薇乙女の細剣の柄側をジルバ=フリューゲルの方に向けて、左手を薔薇乙女の細剣の背に当てる。そして、その構えで振り下ろされてくる雷斬りを受け止め、さらには自分の身体の左側へと受け流す。
薔薇乙女の細剣と雷斬りの刃がぶつかり合い、雷斬りが薔薇乙女の細剣の刃の上を滑る。ジルバ=フリューゲルはチィィィッッッ!! とひと際大きく舌打ちするが、それは後の祭りであった。リリベル=ユーリィは薔薇乙女の細剣の刃をジルバ=フリューゲルの首の左側へ走らせる。
ジルバ=フリューゲルは頸動脈を斬られるが、そこから真っ赤な血では無く、稲光を噴射させる。リリベル=ユーリィは自分の眼に映る光によって、驚きの表情をその顔に浮かべてしまう。
「血が紅く……ない!?」
「ハハッ! 俺様はとっくの昔に邇邇芸《ニニギ》に身体を明け渡してるからなぁ!? レオナルトはまだ素戔嗚を拒んでいるようだが、ヒトを超越したければ、俺様と同じ位置に立ちやがれってんだっ!!」
それもそうだろうとリリベル=ユーリィは納得してしまう。レオは親友のどこかに不信感を抱いていたからなのだろうと。だからこそ、そういう人物が居たことをほのめかす程度で、それ以上、詳しい話はしてくれなかったのだろうと。
「はあはあはあ……。興奮してきたぜ……。てめえはとてつもなく良い女だなぁぁぁ!?」
「あんたにそう言われても、怖気が走るだけよっ! さっさと私の剣にひれ伏せばいいわっ!!」
実際のところ、リリベル=ユーリィは攻めあぐねいていた。薔薇乙女の細剣と大剣を幾度もカチ合わせようとも、向こうはまだまだ余裕たっぷりといった感じで、リリベル=ユーリィの方が若干押され気味であった。両手で振るわなければならないサイズの大剣を振り回しているというのに、剣を振るう速度はリリベル=ユーリィと変わりない。そうなれば、剣の重量の差でリリベル=ユーリィは押されるしかなかったのだ。
リリベル=ユーリィとジルバ=フリューゲルが剣と剣を振り回し、刃と刃がぶつかり会うたびにリリベル=ユーリィはクッ! と呻き声をあげる。現在、ちょうど50合目となる剣戟である。リリベル=ユーリィの額には汗が滲み始め、それが一本のスジとなり、頬を濡らし始める。
(このままじゃダメ……。何か決定的なきっかけをつかめないと、じり貧になる一方だわ……)
リリベル=ユーリィは心に焦りを生じさせていた。ジルバ=フリューゲルは【攻撃は最大の防御』とでも言いたげな剣筋であった。膂力に勝る相手と真っ向勝負するのは、兵法的にも、剣術的にもあまり褒められたことでは無い。相手の威を受け流しつつ、カウンター気味に一撃を入れるのが正しい戦い方であるはずなのだが、リリベル=ユーリィはそれをしなかった。
そうしなかったのは、ジルバ=フリューゲルが明らかに誘っていたからである。受け流しからのカウンターにさらにカウンターを刺し込もうとしているのは、リリベル=ユーリィほどの剣技を有しているからこそ、事前に察知できた。それゆえに、リリベル=ユーリィは押されるとわかっていながらも、真っ向勝負を続けるしかなかったのだ。
「へっへっへっ。剣を振るスピードが落ちてきちゃいないかい、お嬢ちゃん。そちらのスピードに合わせてやろうか? 俺様は紳士だからなあ?」
「ふんっ。あんたが紳士なら、醜い豚ニンゲンも紳士になるわね?」
「ちっ。口数の減らねえ女だ……。気が変わったぜ。おめえの相手は豚ニンゲンに決定だっ! 産まれてきたことを呪うくらいに豚ニンゲンに犯させてやるぜっ!!」
ジルバ=フリューゲルは気の強い女を屈服させて、土下座の状態から、足を舐めさせるのが好きであった。しかし、それでも気の強すぎる女は好きではない。さらに強い男には媚びる感情を持ち合わせている女でなければならない。ジルバ=フリューゲルは自分と剣を交えている女エルフ騎士が自分の好みの範囲から外れていることを知り、急激に関心を失っていく。
それに伴い、今まで手加減してきたが、本気を出そうと思ってしまうジルバ=フリューゲルであった。身体の筋肉に過剰な電流を流し、それを筋肉の加速へと変えていく。リリベル=ユーリィの目から見て、明らかにジルバ=フリューゲルの剣速は増していくのであった。それからさらに50合が積み重なると、リリベル=ユーリィは剣圧に耐えきれなくなり、ジルバ=フリューゲルとの物理的距離を空けざるをえなくなる。
「女にしてはよく持ったほうだぜっ! 俺様が所属している国の首席騎士より、遥かに手応えがあったぜ!!」
ジルバ=フリューゲルは去年、行われたウィーゼ王国での武闘会を思い出す。ジルバ=フリューゲルは決勝まで駒を進めたが、惜しくも首席騎士であるゴーマ=タールタルに破れてしまった。しかし、その時はジルバ=フリューゲルは右眼にはめ込んでいる『束縛を生み出す運命』からの呪力の供給を絶っていた。
それも当然である。ジルバ=フリューゲルは『束縛を生み出す運命』を研究所から盗んだからだ。衆目が集まる中で、いくら負けるからといって、自分から『束縛を生み出す運命』を盗んだ犯人だと自供する気は無かったのである。特に研究所の総責任者であるフィルフェン第1王子が武闘会の観戦に出席していたのが大きい。国王の眼はレオナルト=ヴィッダーとアイリス=クレープスとの仲を見逃すほどに節穴であるが、その息子が同じだとは限らないと踏んだジルバ=フリューゲルは用心に用心を重ねたのである。
(あの王子様は放蕩息子を演じちゃいるが、俺様と同じ匂いがしやがった……。あいつは俺様と同じ狩人だ。ウィーゼ王国から外にレオナルトが出てくれるまで、俺様はレオナルトに直接的な攻撃はついに仕掛けられなかったな……)
ジルバ=フリューゲルは大剣を構え直し、上段構えとする。その最中にフィルフェン第1王子の顔を思い出し、ギリッ! と強めに奥歯を噛みしめる。その動作により、大剣を握る両手に余分な呪力が込められることとなる。
リリベル=ユーリィはその瞬間を見逃さなかった。致命の一撃が頭上から振り下ろされてくるが、ジルバ=フリューゲルは込め過ぎた呪力に身体を揺さぶられて、剣筋が甘くなる。リリベル=ユーリィは待ちに待った『機』を得ることとなる。薔薇乙女の細剣の柄側をジルバ=フリューゲルの方に向けて、左手を薔薇乙女の細剣の背に当てる。そして、その構えで振り下ろされてくる雷斬りを受け止め、さらには自分の身体の左側へと受け流す。
薔薇乙女の細剣と雷斬りの刃がぶつかり合い、雷斬りが薔薇乙女の細剣の刃の上を滑る。ジルバ=フリューゲルはチィィィッッッ!! とひと際大きく舌打ちするが、それは後の祭りであった。リリベル=ユーリィは薔薇乙女の細剣の刃をジルバ=フリューゲルの首の左側へ走らせる。
ジルバ=フリューゲルは頸動脈を斬られるが、そこから真っ赤な血では無く、稲光を噴射させる。リリベル=ユーリィは自分の眼に映る光によって、驚きの表情をその顔に浮かべてしまう。
「血が紅く……ない!?」
「ハハッ! 俺様はとっくの昔に邇邇芸《ニニギ》に身体を明け渡してるからなぁ!? レオナルトはまだ素戔嗚を拒んでいるようだが、ヒトを超越したければ、俺様と同じ位置に立ちやがれってんだっ!!」
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