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第15章:愛を知らぬ男
第6話:|終末の獣《レヴァイアサン》
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レオナルト=ヴィッダー、リリベル=ユーリィ、エクレア=シューはジルバ=フリューゲルが生み出した爆音と衝撃と電流で出来た竜巻に飲み込まれる。彼らは宙に高々と放り投げられ、さらには電球によって、その身を削られる。その中において、リリベル=ユーリィはエクレア=シューの身を護り、エクレア=シューはレオナルト=ヴィッダーの身を護る。互いに援護しあい、その想いの先にあるレオナルト=ヴィッダーに全てを託す。
リリベル=ユーリィとエクレア=シューの想いを受け取ったレオナルト=ヴィッダーの身体はさらに進化を遂げる。左の腕先に食い込んでいる素戔嗚が吼える。全てを呪い噛み殺さんとする呪力が素戔嗚から溢れ出し、レオナルト=ヴィッダーの身体をさらに狂暴な獣へと進化させたのだ。
レオナルト=ヴィッダーの身体を覆う黒い全身鎧から体毛と見間違うほどに黒い刃が生える。レオナルト=ヴィッダーの身体の変化はそれだけでは無かった。明らかにレオナルト=ヴィッダーの身体自体が膨れ上がっていた。真っ黒としていながら、さらにどう猛さを象徴するサイズへと変化する。レオナルト=ヴィッダーは今や、神々の黄昏に現れ、全てを飲み込もうとしたフェンリルへと生まれ変わろうとしていた。
伝承ではフェンリルは銀毛に覆われている。しかし、レオナルト=ヴィッダーが成り代わろうとしていたのは黒くて巨大なフェンリルを越える何かであった。レオナルト=ヴィッダーは身体のあちこちから黒い大蛇を思わせる首を生み出す。レオナルト=ヴィッダーはフェンリルではなく、最終的には終末の獣に生まれ変わる。
獣の体毛を持ちながら、八つの首級を持つ大蛇となれば、この表現がきっと正しいのであろう。レオナルト=ヴィッダーの頭を包むオープン型フルフェイス兜は狼そのものの形でありながら、身体のあちこちからは八匹の黒い大蛇を放つ。レオナルト=ヴィッダーの身から放たれた黒い大蛇は電流の竜巻に浮かぶ雷球を次々と噛み砕く。
ジルバ=フリューゲルの眼からは最初、黒い点が電流の竜巻の一点に出来たように映った。しかし、その黒い点は清い水に墨汁を一擲落とした時のように、黒い染みが広がっていく。ジルバ=フリューゲルは驚愕する他無かった。邇邇芸《ニニギ》に心と身体のほとんどを明け渡し、ジルバ=フリューゲルという名しか、ジルバ=フリューゲルは意識を保てていなかった。
すでにヒトを超越した存在と化したジルバ=フリューゲルを恐怖させた。その黒い染みが広がっていく様子がだ。黒い点が染みのように広がり、さらには見る見るうちに電流の竜巻を喰らっていき、さらには黒雲よりも黒を強調させていく。天にぽっかり穴が開いたかのようにジルバ=フリューゲルは思わざるをえなかった。その天にぽっかり空いた穴に自分が生み出した電流の嵐が吸い込まれていく。
「ちくしょう! ちくしょう! ちっくしょおおお!! なんで、お前には全てが与えられるんだ!? 俺様はお前が羨ましくてしょうがねえええ!!」
ジルバ=フリューゲルの眼にはくっきりと黒い太陽が見えていた。奴が身体から発した八匹の黒い大蛇はその黒い太陽が発するフレアのようにも思えた。黒い太陽は電流の竜巻を全て喰らうと、ゆっくりと乾いた大地の方へと降りてくる。ジルバ=フリューゲルは苦々しい想いでその黒い太陽を睨みつける。
「俺はいつだって、お前よりも上だっ! 不幸話でも、ヤッた女の数でも、どん底から手に入れた名声や地位も全てお前より上なんだっ! そんなお前が俺を超えることなんて絶対にありえねえんだっ!!」
ジルバ=フリューゲルは両腕を天に向かって放り投げる。まるで降参を力いっぱい示すかのような構えであった。しかし、それでもジルバ=フリューゲルはレオナルト=ヴィッダーに死んでも降参する気は無かった。ジルバ=フリューゲルが天に向かって突き出した両手の中央部分に電流が集まり、直径Ⅰミャートルほどの雷球を生み出す。しかし、そのサイズでは満足しなかったのか、ジルバ=フリューゲルは右眼の目力をその雷球に集中させる。
天に黒雲が生じ、そこから、幾千の稲光が堕ち、ジルバ=フリューゲルが生み出した雷球に全て収束する。そうすることで、ジルバ=フリューゲルは自分の頭上に直径100ミャートルの雷で出来た太陽を創り出す。
「これで終わりだっ! レオナルト=ヴィッダー!!」
ジルバ=フリューゲルは勝ちを確信した。乾いた大地に降り立った黒い太陽は直径10ミャートルほどしかない。それに対して、ジルバ=フリューゲルが創り出した雷の太陽は直径100ミャートルある。これをぶつければ、飲み込まれるのはレオナルト=ヴィッダー側である。ジルバ=フリューゲルは大玉を放り投げるように、両腕を前へと突きだす。
直径100ミャートルに達した雷の太陽が辺りに放電しながら、ゆっくりであるが黒い太陽に向かって突き進んでいく。乾いた大地に走る亀裂が増えていく。大地そのものが雷の太陽に吸い込まれそうになっていた。しかし、黒い太陽はその場所から微動だにせず、真向から雷の太陽とぶつかり合う。
まるでこの世の終わりを見せつけられている風景であった。ジルバ=フリューゲルの部下であるミットライト=リュッケシュルトとロビン=ブルーストはその幻想的な風景に心を奪われ、幌付き荷馬車を襲うその手を止めてしまう。
「ジルバ様。あんたってヒトは……」
「フフッ……。これじゃあ、わたくしたちも死んでしまいますわね。でも、わたくしの心はいつでもあなたの御側にいますわ」
直径100ミャートルの雷の太陽が直径10ミャートルの黒い太陽にぶつかり、黒を雷光で飲み込もうとした。その黒い太陽が完全に飲み込まれれば、雷の太陽が辺り一帯全てをも含めて飲み込んでしまうことは知恵の回らぬミットライト=リュッケシュルトとロビン=ブルーストでも容易に想像できた。しかし、自分の御大将がそう望むのであれば、そうなっても致し方ないという諦観に心を奪われてしまう。
「レオン様ァァァ! ぼくがレオン様と結ばれるのはこの世、この生においてなのですゥ! 来世でなんて、まっぴらごめんなのですゥ!」
「あ、あちきはまだレオン様に孕ませてもらっていないニャンッ! レオン様はあちきとの約束を破るんですかニャン!?」
「レオン! おいらはお前と知りあえて良かったと思っている。だが、おいらたちの旅はまだまだこれからだろうがっ!!」
ジルバ=フリューゲルの従者たちは、この世での生を諦めた。しかし、レオナルト=ヴィッダーの仲間たちはまだまだ生きたいと願った。そして、自分ひとりが生き残るのではない。レオナルト=ヴィッダーを含め、皆で生きようと、レオナルト=ヴィッダーに訴えかけた。
そして、その想いが届いたのか、終末の獣が吼えた。運命を含めての全てを呪い喰らうべしという気概を込めての吼え声をあげる。
リリベル=ユーリィとエクレア=シューの想いを受け取ったレオナルト=ヴィッダーの身体はさらに進化を遂げる。左の腕先に食い込んでいる素戔嗚が吼える。全てを呪い噛み殺さんとする呪力が素戔嗚から溢れ出し、レオナルト=ヴィッダーの身体をさらに狂暴な獣へと進化させたのだ。
レオナルト=ヴィッダーの身体を覆う黒い全身鎧から体毛と見間違うほどに黒い刃が生える。レオナルト=ヴィッダーの身体の変化はそれだけでは無かった。明らかにレオナルト=ヴィッダーの身体自体が膨れ上がっていた。真っ黒としていながら、さらにどう猛さを象徴するサイズへと変化する。レオナルト=ヴィッダーは今や、神々の黄昏に現れ、全てを飲み込もうとしたフェンリルへと生まれ変わろうとしていた。
伝承ではフェンリルは銀毛に覆われている。しかし、レオナルト=ヴィッダーが成り代わろうとしていたのは黒くて巨大なフェンリルを越える何かであった。レオナルト=ヴィッダーは身体のあちこちから黒い大蛇を思わせる首を生み出す。レオナルト=ヴィッダーはフェンリルではなく、最終的には終末の獣に生まれ変わる。
獣の体毛を持ちながら、八つの首級を持つ大蛇となれば、この表現がきっと正しいのであろう。レオナルト=ヴィッダーの頭を包むオープン型フルフェイス兜は狼そのものの形でありながら、身体のあちこちからは八匹の黒い大蛇を放つ。レオナルト=ヴィッダーの身から放たれた黒い大蛇は電流の竜巻に浮かぶ雷球を次々と噛み砕く。
ジルバ=フリューゲルの眼からは最初、黒い点が電流の竜巻の一点に出来たように映った。しかし、その黒い点は清い水に墨汁を一擲落とした時のように、黒い染みが広がっていく。ジルバ=フリューゲルは驚愕する他無かった。邇邇芸《ニニギ》に心と身体のほとんどを明け渡し、ジルバ=フリューゲルという名しか、ジルバ=フリューゲルは意識を保てていなかった。
すでにヒトを超越した存在と化したジルバ=フリューゲルを恐怖させた。その黒い染みが広がっていく様子がだ。黒い点が染みのように広がり、さらには見る見るうちに電流の竜巻を喰らっていき、さらには黒雲よりも黒を強調させていく。天にぽっかり穴が開いたかのようにジルバ=フリューゲルは思わざるをえなかった。その天にぽっかり空いた穴に自分が生み出した電流の嵐が吸い込まれていく。
「ちくしょう! ちくしょう! ちっくしょおおお!! なんで、お前には全てが与えられるんだ!? 俺様はお前が羨ましくてしょうがねえええ!!」
ジルバ=フリューゲルの眼にはくっきりと黒い太陽が見えていた。奴が身体から発した八匹の黒い大蛇はその黒い太陽が発するフレアのようにも思えた。黒い太陽は電流の竜巻を全て喰らうと、ゆっくりと乾いた大地の方へと降りてくる。ジルバ=フリューゲルは苦々しい想いでその黒い太陽を睨みつける。
「俺はいつだって、お前よりも上だっ! 不幸話でも、ヤッた女の数でも、どん底から手に入れた名声や地位も全てお前より上なんだっ! そんなお前が俺を超えることなんて絶対にありえねえんだっ!!」
ジルバ=フリューゲルは両腕を天に向かって放り投げる。まるで降参を力いっぱい示すかのような構えであった。しかし、それでもジルバ=フリューゲルはレオナルト=ヴィッダーに死んでも降参する気は無かった。ジルバ=フリューゲルが天に向かって突き出した両手の中央部分に電流が集まり、直径Ⅰミャートルほどの雷球を生み出す。しかし、そのサイズでは満足しなかったのか、ジルバ=フリューゲルは右眼の目力をその雷球に集中させる。
天に黒雲が生じ、そこから、幾千の稲光が堕ち、ジルバ=フリューゲルが生み出した雷球に全て収束する。そうすることで、ジルバ=フリューゲルは自分の頭上に直径100ミャートルの雷で出来た太陽を創り出す。
「これで終わりだっ! レオナルト=ヴィッダー!!」
ジルバ=フリューゲルは勝ちを確信した。乾いた大地に降り立った黒い太陽は直径10ミャートルほどしかない。それに対して、ジルバ=フリューゲルが創り出した雷の太陽は直径100ミャートルある。これをぶつければ、飲み込まれるのはレオナルト=ヴィッダー側である。ジルバ=フリューゲルは大玉を放り投げるように、両腕を前へと突きだす。
直径100ミャートルに達した雷の太陽が辺りに放電しながら、ゆっくりであるが黒い太陽に向かって突き進んでいく。乾いた大地に走る亀裂が増えていく。大地そのものが雷の太陽に吸い込まれそうになっていた。しかし、黒い太陽はその場所から微動だにせず、真向から雷の太陽とぶつかり合う。
まるでこの世の終わりを見せつけられている風景であった。ジルバ=フリューゲルの部下であるミットライト=リュッケシュルトとロビン=ブルーストはその幻想的な風景に心を奪われ、幌付き荷馬車を襲うその手を止めてしまう。
「ジルバ様。あんたってヒトは……」
「フフッ……。これじゃあ、わたくしたちも死んでしまいますわね。でも、わたくしの心はいつでもあなたの御側にいますわ」
直径100ミャートルの雷の太陽が直径10ミャートルの黒い太陽にぶつかり、黒を雷光で飲み込もうとした。その黒い太陽が完全に飲み込まれれば、雷の太陽が辺り一帯全てをも含めて飲み込んでしまうことは知恵の回らぬミットライト=リュッケシュルトとロビン=ブルーストでも容易に想像できた。しかし、自分の御大将がそう望むのであれば、そうなっても致し方ないという諦観に心を奪われてしまう。
「レオン様ァァァ! ぼくがレオン様と結ばれるのはこの世、この生においてなのですゥ! 来世でなんて、まっぴらごめんなのですゥ!」
「あ、あちきはまだレオン様に孕ませてもらっていないニャンッ! レオン様はあちきとの約束を破るんですかニャン!?」
「レオン! おいらはお前と知りあえて良かったと思っている。だが、おいらたちの旅はまだまだこれからだろうがっ!!」
ジルバ=フリューゲルの従者たちは、この世での生を諦めた。しかし、レオナルト=ヴィッダーの仲間たちはまだまだ生きたいと願った。そして、自分ひとりが生き残るのではない。レオナルト=ヴィッダーを含め、皆で生きようと、レオナルト=ヴィッダーに訴えかけた。
そして、その想いが届いたのか、終末の獣が吼えた。運命を含めての全てを呪い喰らうべしという気概を込めての吼え声をあげる。
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