【R18】俺は悪くねえ! ~愛しのお姫様が女騎士に変化しているのを知らずに後ろの穴を穿ってしまいました~

ももちく

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第15章:愛を知らぬ男

第8話:百合の花と海

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 光り輝く太陽が黒い太陽に侵食されていた。まるで日食が起きているかのようでもあった。ジルバ=フリューゲルが生み出した雷の太陽は直径100ミャートルのサイズを保ち続けたが、レオナルト=ヴィッダーが生み出した黒い太陽を飲み込むことは出来なかったのである。そして、黒い太陽はその威を高め、すっぽりと雷の太陽に飲み込まれていながらも、どんどんとそのサイズを膨らませていく。

「レオン様が戦っているのですゥ……。ぼくは最後までレオン様の勝利を信じているのですゥ……」

「あちきもレオン様が無事に帰ってくることを信じているのですニャン! レオン様、光り輝く太陽全てを飲み込んでしまうのですニャン!」

「レオン! ここが踏ん張りどころだぞっ! 4人娘を置いて、ひとりだけ逝こうとするんじゃねえぞっ!!」

 デーブ=オクボーンは豚ニンゲンオークのように太い両腕でクルス=サンティーモとマリア=アコナイトの背を支え続けた。クルス=サンティーモとエクレア=シューはその手に持つ武器を一旦、乾いた大地に置き、両手を合わせて、祈りを捧げるポーズをとっていた。

 そんな3人の気持ちが伝わったのか、黒い太陽の暴威はますますと膨れ上がり、雷の太陽の半分を侵食し終える。しかしながら、黒い太陽はそこで止まらずに、雷の太陽をどんどん喰らい続け、ついには雷の太陽は三日月状になる。それから数分後には黒い太陽のほうがよっぽど面積を占める。雷の太陽はそのほとんどを喰われ終え、黒い太陽の縁を明るく輝かせるのみに至る。

 まさに完全日食の様相を見せる雷の太陽であった。最後の抵抗として、結婚指輪エンゲージ・リングのように、黒い太陽の一端において、これほどまでもかというふうに輝きを乾いた大地に降り注ぐが、その宝石部分も黒い太陽に飲み込まれることとなる。

 クルス=サンティーモとマリア=アコナイトは創造主:Y.O.N.Nに祈りを捧げ続けた。愛する男が無事に自分たちの下へと帰ってこれるようにだ。ふたり娘の祈りが通じたのか、黒い太陽は雷の太陽と共に、そのサイズを徐々に減らしていく。ジルバ=フリューゲルとレオナルト=ヴィッダーたちが戦い始めてから30分後、黒い太陽は直径5ミャートルまで縮むと、いきなりろうそくの火が燃え尽きたかのように消えてしまう。

 黒い太陽が消えた場所で、二本の足で立っている人物が3人いた。エクレア=シュー、リリベル=ユーリィ、そしてレオナルト=ヴィッダーであった。そのうち、レオナルト=ヴィッダーは、裸体の男をお姫様抱っこしていた。レオナルト=ヴィッダーは裸体の男の体重を支えきれないのか、片膝つく恰好となる。

「ジルバ……。安らかな顔をしてやがる」

 レオナルト=ヴィッダーは眼尻に涙を貯めていた。抱きかかえているジルバ=フリューゲルの身体からは呪力ちからの一切を感じない。まるで磔刑に処された聖人を抱える聖母のような表情でレオナルト=ヴィッダーは親友の様子を見守っていた。

「ジルバ様ーーー! 負けちまったんですかい!?」

「ああ、ジルバ様、なんとも痛ましいお姿に……。わたくしが今すぐに介抱いたしますわよっ!」

 先ほどまで、敵として戦っていたはずのミットライト=リュッケシュルトとロビン=ブルーストがレオナルト=ヴィッダーの下へと駆け寄ってくる。今にも転びそうなほどに危なっかしい走り方であった、彼らは。レオナルト=ヴィッダーはもう1度、両足に力を入れて、ジルバ=フリューゲルを持ち上げる。

「ジルバは百合の花と海が好きだった……。ジルバのことを頼む……」

「合点承知の介ですぜ! さあ、ジルバ様、帰りましょうぜ。あんたはあんたの出来ることをやりきったんだ! 誰もあんたを責める者なぞいませんぜっ!」

 レオナルト=ヴィッダーはミットライト=リュッケシュルトと一言二言言葉を交わした後、ジルバ=フリューゲルを落とさぬように細心の注意を払いつつ、ミットライト=リュッケシュルトにジルバ=フリューゲルを預ける。ミットライト=リュッケシュルトは男泣きしながら、グリフィンを呼び出す。

 グリフィンの背にジルバ=フリューゲルを乗せた後、ミットライト=リュッケシュルトとロビン=ブルーストは今までの無礼を詫び、レオナルト=ヴィッダーたちに向かって、深々と頭を下げる。そうした後、手綱をしっかりと握り、グリフィンを大空へと飛び立たせる。

 レオナルト=ヴィッダーたちは大空を舞うグリフィンをただただ見ていることしかできなかった。親友との今生の別れとしては、短すぎる時間であった。だが、レオナルト=ヴィッダーは眼尻から涙が零れ落ちるのを我慢しつづけた。

「レオン様。身体全体の筋肉が強張っているのです~~~。無理をしなくてもいいのです~~~」

 大空へと視線を送り続けるレオナルト=ヴィッダーを優しく包み込む人物が居た。彼の背中側から母なる海のようにエクレア=シューが両腕を回す。彼女はさめざめと涙を流し、レオナルト=ヴィッダーの着込んでいる鎧を濡らす。

「俺は……。俺は……。ああすることでしか、ジルバと分かり合えなかった……。もっと違う方法があったはずなんだっ! 俺とあいつが殺し合わねばならない事態を回避できたはずなんだっ!!」

 レオナルト=ヴィッダーはその場で膝から崩れ落ち、紅い波模様が走る黒を基調とした手甲ナックル・カバーに包まれた左手で乾いた地面をこれでもかと叩く。まるで、こうなる運命を創り出したのは、全て素戔嗚スサノオのせいだと言わんばかりに、左手を乾いた地面に叩きつける。その所作を止めたのがリリベル=ユーリィであった。

「レオが悪いんじゃない……。レオにこれが運命だと押し付けてきた神様が全部悪いの。レオがやったことは間違っていない。だって、ジルバはあんなに安らかな顔で眠っていたじゃないのっ!」

 リリベル=ユーリィは努めて優しい表情でレオナルト=ヴィッダーにそう言ってみせる。しかし、それでも彼女の青碧玉ブルー・サファイアの双眸からは涙があふれていた。レオナルト=ヴィッダーは涙腺が崩壊し、リリベル=ユーリィとエクレア=シューの両名を両腕で抱え込み、わんわんと赤子のように泣く。

 リリベル=ユーリィとエクレア=シューはレオナルト=ヴィッダーが泣き止むまで、彼に寄り添い続けた。レオナルト=ヴィッダーは身体の水分が全て、涙腺から出し切ってしまうのではなかろうかという勢いで、滝のような涙を流す。それにつられて、リリベル=ユーリィとエクレア=シューの涙も止まることを知らなかった。

「ありがとう、リリベル。ありがとう、エクレア。俺がジルバのようにならなかったのは、お前たちがいてくれたおかげだ」

「わたしたちだけに感謝しちゃダメよ。クルスも、エクレアもあなたのことが大切なの。今頃、きっと、眼を真っ赤に腫らして泣いてる最中よ?」
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