【R18】俺は悪くねえ! ~愛しのお姫様が女騎士に変化しているのを知らずに後ろの穴を穿ってしまいました~

ももちく

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第16章:安息日

第1話:禅譲と簒奪

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――北ラメリア大陸歴1495年3月20日 ミシガン王国:首都:ジカーゴにて――

 レオナルト=ヴィッダー一行がジルバ=フリューゲルとの死闘を終えた後、早くも1週間近くが経とうとしていた。3月も半ばに過ぎ、さらには北ラメリア大陸の西海岸近くにあるジカーゴの陽気な気候が傷ついたレオナルト=ヴィッダーたちを癒す。

 レオナルト=ヴィッダーたちは旅の目的を忘れて、首都:ジカーゴと面している五大湖の西端へとピクニックを楽しむために出かけるのであった。湖の岸に打ち付ける波は大変穏やかであり、デーブ=オクボーンは湖でボート遊びをしようと提案する。そのボートは4人乗りであり、デーブ=オクボーンは自分ひとりで二人分の体重を占めるために、そのボートに相席したのは蒼髪オカッパの可愛い男の娘であるクルス=サンティーモと、半猫半人ハーフ・ダ・ニャンであるマリア=アコナイトの2人であった。

 そして、もうひとつのボートにはリリベル=ユーリィとエクレア=シュー、そして、レオナルト=ヴィッダー、さらにはお邪魔虫の蝙蝠羽付きの白いネズミことコッシロー=ネヅである。

「チュッチュッチュ。われを崇めよ、レオナルト=ヴィッダー。ついに僕は4枚羽根にまで神力ちからを取り戻したのでッチュウ!」

神力ちから? 呪力ちからの間違いだろ、コッシロー。お前が天使族とは到底、思えん」

 レオナルト=ヴィッダーはとりつくしまもないといった感じでコッシロー=ネヅの言葉を否定する。それもそうだろう。蝙蝠羽が4枚ともなれば、どう考えても悪魔の類であるのは自明の理だ。こんな奇怪な生物を天使様と崇めた日には、いくらピクニック日和でも、どこからともなく現れた黒雲から裁きの雷がボートに直撃してもおかしくなかったからである。

「チュッチュッチュ……。おかしいでッチュウねえ? 僕を拝んで、さらに熟成チーズをお供えすれば、家内安全、懐妊安産、商売繁盛なんでもござれと言われているのでッチュウよ? それでも、僕を称えようとは思わないんでッチュウ?」

「そんな気にはまったくもってならねえ。リリベル、エクレア。お前たちもそう思うだろ?」

 レオナルト=ヴィッダーは自分の傍らに座るエクレア=シューと、手漕ぎボートのオールをうんせうんせと動かしているリリベル=ユーリィに問うてみる。ふたりとも、コッシロー=ネヅの言うことに疑惑の視線を送っている真っ最中であった。

「つかぬことをお伺いしますけど~~~。コッシローちゃんはそもそもとして、神様の司徒として分類すべきなのです~~~?」

「そう、まずはそこが問題よね。天の御使いっていうより、どっちかと言うと、悪魔の手先だもん。コッシローの持っている後利益に懐妊安産があるのはありがたいけど、悪魔の手先となれば、とてもじゃないけど、頼み事なんて出来ない」

「くっ……。確かに天界で悪さをしすぎたせいで、ヤタガラスや海皇、そして竜皇と共に下界へと追いやられた身でッチュウけど、悪魔の手先呼ばわりされるまでには堕ちていないのでッチュウ」

 コッシロー=ネヅがビッグネームを次々と出してくるが、リリベル=ユーリィとエクレア=シューは、ふ~~~ん? と疑わしい呼吸で返してくる。コッシロー=ネヅが言うところのヤタガラスとは『緋喰い鳥』のことを表しているのは、リリベル=ユーリィとエクレア=シューも理解している。しかし、そこに海皇や竜皇の名まで出てくるとなると、うさん臭さのほうが遥かに強くなってしまう。

 確かに、コッシロー=ネヅは謎多きネズミではある。しかし、だからと言って、この世の四皇と呼ばれる内の3名と見知りの仲だということが、どうしても信じられないリリベル=ユーリィとエクレア=シューであった。

「コッシローちゃんの言うところの海皇っていうのは、あたしのパパのことを指しているんです~~~? パパはあたしやママにはすっごく優しいので、とても大昔に天界で大暴れしたとは考えられないのです~~~」

「ふむ。良い質問なのでッチュウ。お前の親父は第3代目の海皇でッチュウ。正確に言うと、今の海皇の祖父に当たる人物が天界で僕と一緒に大暴れしたのでッチュウ」

 なるほど~~~としか返しようがないエクレア=シューであった。自分のパパは若い頃は暴れん坊だったと聞いたことはあるが、さすがに天界で暴れ回ったという自慢話? を聞かされたことはなかったのだ。しかしながら、血の気の多さは代々のモノであることは間違いないのだろうと思うエクレア=シューである。エクレア=シューはコッシロー=ネヅに続けて質問をする。

「海皇が代替わりするなら、竜皇や緋喰い鳥さんも代替わりするんです~~~?」

「今日のエクレアは冴えてるでッチュウね。緋喰い鳥は古い身体を火山の中へ捨てて、新しい身体に転生するのでッチュウ。そして、竜皇は意外なことに、海皇よりも世代交代しているのでッチュウ」

「へ~~~。じゃあ、今の竜皇様は何代目になるのです~~~?」

「う~~~ん、ちょっと待ってくれでッチュウ。確か……、今の雷帝でちょうど10代目だったはずでッチュウ……」

 コッシロー=ネヅの言いに待ったをかけたのがリリベル=ユーリィであった。神話と呼ばれる時代から数えたとしても、交代の回数が多すぎるのではないかと思ってのことだ。しかしながら、コッシロー=ネヅはいつもながらにチュッチュッチュと不敵な笑みを零し

「海皇のところは禅譲による世代交代なんでッチュウけど、竜皇は基本、『簒奪さんだつ』なのでッチュウ。神力ちからが衰えた竜皇は次の竜皇候補に喰われ、その身に宿る神力ちからごと、次の竜皇にその座を明け渡す習わしなのでッチュウ」

「なら、年代を重ねるごとに、竜皇は神力ちからを蓄えてきてるわけ? それなのに次の竜皇候補は、その現竜皇を越えるほどの神力ちからを持っているの? とてもじゃないけれど、信じられない……」

「ヒトの間でも『鬼子』、『忌み子』が存在するように、天界に属していた者たちにも、一種の異端児と呼ばれる者が時代の節目節目に現れるのでッチュウ。ヒトも神も四皇も、さらには天使でも悪魔でも同じことが起きうるのでッチュウ」


 コッシロー=ネヅがさも当然といった感じではっきりと断言してみせる。しかし、リリベル=ユーリィはどうにも納得できない。コッシロー=ネヅの言うことが正しいとすれば、結局のところ、どこの世界でも、どの生物でも『力こそが正義』という理論が成り立ってしまうからだ。それをすんなりとは受け止めきれないリリベル=ユーリィは不満を露わにして、コッシロー=ネヅに抗議する。

「わたしは納得できない。神様や竜皇様どうかは知らないけれど、ヒトはヒトと愛し合って、その間に出来た子に未来を託すもの……。わたしは『力こそが正義』とは断言したくない……」
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