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第21章:新たな出会い
第1話:白鳥騎士団の団長
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「よくぞ、私の小細工に気づいたものだ……。しかし、腐ってもハーフエルフ。私の催眠術はほとんど意味が為さなかったみたいだな
「トーマス=ロコモーティブ団長。それは一体、どう意味なんです!?」
下のフロアからゆっくりと階段を上り、甲板上へと現れた白を基調とした全身鎧を着込んだ壮年の騎士がパンパンパーンと大きく手拍子を打ちながら現れる。彼は不遜な態度のままに、顎に生える虎髭を空いた右手でさすってみせる。
「私は其方にも催眠術をかけていたはずだと言っている。しかし、さすがは魔術に対しての抵抗力が高いエルフの血が半分流れているだけはあると言っているのだ。あの売女め。自分への加護を娘に譲り渡していたということか……」
白鳥騎士団の団長であるトーマス=ロコモーティブはクックック……と不敵な笑みを浮かべながら、舐めるように副長であるソフィア=グレイプの身体を下から上へ、さらには上から下へと視線をなぞらせる。ソフィア=グレイプはゾワッ! という悪寒を感じ、思わず自分の両腕で自分の身体を抱くことになる。
こんな悪印象を自分の上司から感じたことは今までなかったソフィア=グレイプであった。卑劣漢さながらの視線を送ってくる自分の上司の変貌ぶりに、本当に彼があの高潔な騎士であったのかという疑惑すら心の奥底から沸き上がってくる。
「団長は本当にトーマス=ロコモーティブ団長なの……ですか!? 失礼ですが、黒鳥騎士団のイタメル=レバーニアン団長のほうが紳士に感じるほど……です!」
「ああ。彼は低俗な私に比べれば、段違いなほどに高潔な人物だよ。私はキミが思っているような人物では無い。そこの不気味な4枚羽根を背中に生やすクソネズミが言っているようにキミにも催眠術をかけていただけだ。まあ、重ね掛けをしたせいで、ほころびが生じてしまったようだがな?」
トーマス=ロコモーティブ団長はそう言うと、左腕で抱え込んでいたクローズ型フルフェイス兜を自分の頭に被る。そして、兜の隙間からぎらつく眼で甲板上に集まる面々を睨んでみせる。彼は今から一戦も辞さずといった雰囲気をその身から発する。ソフィア=グレイプはクッ……と唸り、腰の左側に佩いた長剣の柄に右手をかける。
「トーマス=ロコモーティブ団長。今なら、全てが嘘だと言ってくれれば、わたくしは貴方と敵対しなくて済み……ます」
「クックック。全て嘘なのだよっ! まだわからぬか!? キミが私に抱いている恋慕の情すら、私が催眠術で与えたモノに過ぎんとっ! 齢20の小娘が、何ゆえに初老を迎えた私に抱かれたいと思うほどの情を抱くというのだっ? 気持ち悪すぎるだろぉぉぉ!?」
トーマス=ロコモーティブの言うことはもっともであった。彼の年齢は55歳と、ソフィア=グレイプの父親よりも年齢が10歳近く上である。ソフィア=グレイプは常々、男に産まれてきていればと、男らしい男を好む傾向にあったが、それでも自分の父親よりも年齢がいっている男性に恋慕の情を抱くことはおかしすぎる話であった。
そして、トーマス=ロコモーティブが種明かしをすればするほど、腹の奥底から気持ち悪さが込み上げてくるソフィア=グレイプであった。彼女の脳みそには、トーマス=ロコモーティブ団長との思い出が浮かび上がる。団長のために買った紅茶。団長に褒められようと、部下の前で毅然な態度を取り続けたこと。団長に抱かれたいと思い、男装はしていても、下着は女らしいモノを好んで買い集めた。
その全てが『気持ち悪い』という感情で上書きされていく。ソフィア=グレイプは眉間にシワを寄せながら、ハアハアゼエゼエ……と苦しい呼吸を繰り返す。トーマス=ロコモーティブの吐く台詞が耳に入るたびに、吐き気が胃からせり上がってくる。あのギラギラと輝く銀色の眼に長剣の切っ先を突っ込み、眼の玉を抉り取ってやりたい気持ちになってくる。
だが、ソフィア=グレイプはじっとりと汗がにじむ右手をそれ以上、動かすことは出来なかった。柄を握る右手に力を込めているはずが、逆にどんどん力が抜けていく。眼の前の男の声が耳に入ってくるほどに、頭痛が波のように押し寄せてきて、ついにはソフィア=グレイプは腰の左側に佩いた長剣の柄を握ったまま、片膝つく恰好となる。
「身体が拒んでいるようだな。私の催眠術を決して受け入れぬようにと。私の可愛いソフィア=グレイプ。再び、私の下へと帰ってくることはあるまいっ!」
白を基調とした全身鎧に身を包むロータス=クレープスが背中に背負っている鞘から大剣を引き抜く。そして、それを上段構えにして、ソフィア=グレイプの頭上へと振り下ろしていく。催眠術というちんけな術で彼女の母親同様にソフィア=グレイプを籠絡してやろうと考えていた。
しかし、それは叶わぬことと知った今、彼女の夢が完全に醒める前に、彼女をこの世からおさらばさせてしまおうと考えた。そして、凶刃を彼女の頭蓋骨にぶち込もうとする。
「クックック……。そこで邪魔をしてくるかっ! 救国の英雄、レオナルト=ヴィッダーッッッ!!」
「俺の前で女を殺らせるわけにはいかないっ! たとえ、それが男装趣味の性癖が歪んだ女だとしてもだっ!」
レオナルト=ヴィッダーはソフィア=グレイプとトーマス=ロコモーティブの間に割って入り、左の腕先に食い込んだ素戔嗚でトーマス=ロコモーティブが振り下ろしてきた大剣を止めてみせる。しかしながら、トーマス=ロコモーティブはレオナルト=ヴィッダーの左の腕先で大剣を受け止められたというのに、そこから全体重を乗せるように重圧を高めていく。ギラギラと黒い怨嗟の炎が宿る双眸でレオナルト=ヴィッダーを睨みつけ、段々とクローズ型フルフェイス兜を被った顔をレオナルト=ヴィッダーに近づけていく。
レオナルト=ヴィッダーも彼の威圧に負けてたまるものかと、黒金剛石の双眸を細め、目力を強めていく。
「レオッ!!」
「リリベル、下がってろっ! これは漢と漢の戦いだっ! 女が割って入って良い場面じゃねぇっ!!」
リリベル=ユーリィがふたりの漢が互いの誇りをかけて対峙しあっている中に割って入ろうとした。だが、レオナルト=ヴィッダーはリリベル=ユーリィの方に振り向かずに、彼女を一喝して、彼女の動きを止めてしまう。トーマス=ロコモーティブの肉体は齢55にしておくにはもったいないほどの筋肉に包まれていた。豚ニンゲンさながらのデーブ=オクボーンの膂力よりかは下回るモノの、デーブ=オクボーンでは発揮でないほどの覇気をその身体に纏わせていた。
レオナルト=ヴィッダーは徐々にトーマス=ロコモーティブの威に圧され、膝を曲げつつあった……。
「トーマス=ロコモーティブ団長。それは一体、どう意味なんです!?」
下のフロアからゆっくりと階段を上り、甲板上へと現れた白を基調とした全身鎧を着込んだ壮年の騎士がパンパンパーンと大きく手拍子を打ちながら現れる。彼は不遜な態度のままに、顎に生える虎髭を空いた右手でさすってみせる。
「私は其方にも催眠術をかけていたはずだと言っている。しかし、さすがは魔術に対しての抵抗力が高いエルフの血が半分流れているだけはあると言っているのだ。あの売女め。自分への加護を娘に譲り渡していたということか……」
白鳥騎士団の団長であるトーマス=ロコモーティブはクックック……と不敵な笑みを浮かべながら、舐めるように副長であるソフィア=グレイプの身体を下から上へ、さらには上から下へと視線をなぞらせる。ソフィア=グレイプはゾワッ! という悪寒を感じ、思わず自分の両腕で自分の身体を抱くことになる。
こんな悪印象を自分の上司から感じたことは今までなかったソフィア=グレイプであった。卑劣漢さながらの視線を送ってくる自分の上司の変貌ぶりに、本当に彼があの高潔な騎士であったのかという疑惑すら心の奥底から沸き上がってくる。
「団長は本当にトーマス=ロコモーティブ団長なの……ですか!? 失礼ですが、黒鳥騎士団のイタメル=レバーニアン団長のほうが紳士に感じるほど……です!」
「ああ。彼は低俗な私に比べれば、段違いなほどに高潔な人物だよ。私はキミが思っているような人物では無い。そこの不気味な4枚羽根を背中に生やすクソネズミが言っているようにキミにも催眠術をかけていただけだ。まあ、重ね掛けをしたせいで、ほころびが生じてしまったようだがな?」
トーマス=ロコモーティブ団長はそう言うと、左腕で抱え込んでいたクローズ型フルフェイス兜を自分の頭に被る。そして、兜の隙間からぎらつく眼で甲板上に集まる面々を睨んでみせる。彼は今から一戦も辞さずといった雰囲気をその身から発する。ソフィア=グレイプはクッ……と唸り、腰の左側に佩いた長剣の柄に右手をかける。
「トーマス=ロコモーティブ団長。今なら、全てが嘘だと言ってくれれば、わたくしは貴方と敵対しなくて済み……ます」
「クックック。全て嘘なのだよっ! まだわからぬか!? キミが私に抱いている恋慕の情すら、私が催眠術で与えたモノに過ぎんとっ! 齢20の小娘が、何ゆえに初老を迎えた私に抱かれたいと思うほどの情を抱くというのだっ? 気持ち悪すぎるだろぉぉぉ!?」
トーマス=ロコモーティブの言うことはもっともであった。彼の年齢は55歳と、ソフィア=グレイプの父親よりも年齢が10歳近く上である。ソフィア=グレイプは常々、男に産まれてきていればと、男らしい男を好む傾向にあったが、それでも自分の父親よりも年齢がいっている男性に恋慕の情を抱くことはおかしすぎる話であった。
そして、トーマス=ロコモーティブが種明かしをすればするほど、腹の奥底から気持ち悪さが込み上げてくるソフィア=グレイプであった。彼女の脳みそには、トーマス=ロコモーティブ団長との思い出が浮かび上がる。団長のために買った紅茶。団長に褒められようと、部下の前で毅然な態度を取り続けたこと。団長に抱かれたいと思い、男装はしていても、下着は女らしいモノを好んで買い集めた。
その全てが『気持ち悪い』という感情で上書きされていく。ソフィア=グレイプは眉間にシワを寄せながら、ハアハアゼエゼエ……と苦しい呼吸を繰り返す。トーマス=ロコモーティブの吐く台詞が耳に入るたびに、吐き気が胃からせり上がってくる。あのギラギラと輝く銀色の眼に長剣の切っ先を突っ込み、眼の玉を抉り取ってやりたい気持ちになってくる。
だが、ソフィア=グレイプはじっとりと汗がにじむ右手をそれ以上、動かすことは出来なかった。柄を握る右手に力を込めているはずが、逆にどんどん力が抜けていく。眼の前の男の声が耳に入ってくるほどに、頭痛が波のように押し寄せてきて、ついにはソフィア=グレイプは腰の左側に佩いた長剣の柄を握ったまま、片膝つく恰好となる。
「身体が拒んでいるようだな。私の催眠術を決して受け入れぬようにと。私の可愛いソフィア=グレイプ。再び、私の下へと帰ってくることはあるまいっ!」
白を基調とした全身鎧に身を包むロータス=クレープスが背中に背負っている鞘から大剣を引き抜く。そして、それを上段構えにして、ソフィア=グレイプの頭上へと振り下ろしていく。催眠術というちんけな術で彼女の母親同様にソフィア=グレイプを籠絡してやろうと考えていた。
しかし、それは叶わぬことと知った今、彼女の夢が完全に醒める前に、彼女をこの世からおさらばさせてしまおうと考えた。そして、凶刃を彼女の頭蓋骨にぶち込もうとする。
「クックック……。そこで邪魔をしてくるかっ! 救国の英雄、レオナルト=ヴィッダーッッッ!!」
「俺の前で女を殺らせるわけにはいかないっ! たとえ、それが男装趣味の性癖が歪んだ女だとしてもだっ!」
レオナルト=ヴィッダーはソフィア=グレイプとトーマス=ロコモーティブの間に割って入り、左の腕先に食い込んだ素戔嗚でトーマス=ロコモーティブが振り下ろしてきた大剣を止めてみせる。しかしながら、トーマス=ロコモーティブはレオナルト=ヴィッダーの左の腕先で大剣を受け止められたというのに、そこから全体重を乗せるように重圧を高めていく。ギラギラと黒い怨嗟の炎が宿る双眸でレオナルト=ヴィッダーを睨みつけ、段々とクローズ型フルフェイス兜を被った顔をレオナルト=ヴィッダーに近づけていく。
レオナルト=ヴィッダーも彼の威圧に負けてたまるものかと、黒金剛石の双眸を細め、目力を強めていく。
「レオッ!!」
「リリベル、下がってろっ! これは漢と漢の戦いだっ! 女が割って入って良い場面じゃねぇっ!!」
リリベル=ユーリィがふたりの漢が互いの誇りをかけて対峙しあっている中に割って入ろうとした。だが、レオナルト=ヴィッダーはリリベル=ユーリィの方に振り向かずに、彼女を一喝して、彼女の動きを止めてしまう。トーマス=ロコモーティブの肉体は齢55にしておくにはもったいないほどの筋肉に包まれていた。豚ニンゲンさながらのデーブ=オクボーンの膂力よりかは下回るモノの、デーブ=オクボーンでは発揮でないほどの覇気をその身体に纏わせていた。
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