【R18】俺は悪くねえ! ~愛しのお姫様が女騎士に変化しているのを知らずに後ろの穴を穿ってしまいました~

ももちく

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第22章:光り輝く存在

第8話:明けの明星

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 トーマス=ロコモーティブの下半身は白い甲冑に覆われていた。そして、上半身は光体で出来ていた。その上半身の光体は黒色に染まり上がり、血管を思わせるような光の線が身体中に浮き上がっていた。そして、なんといっても特徴的だったのはトーマス=ロコモーティブの顔であった。彼の頭全体も黒に染まりあがっていたというのに、両目から下側にかけて、滝のような涙を思わせる光が止めどなく溢れていた。

「ああッッッ! 我があるじよッッッ! 私はここまでのようですッッッ! レオナルト=ヴィッダーというけがれに私は飲み込まれてしまいますッッッ! どうか、私に最後の慈悲をッッッ!!」

 トーマス=ロコモーティブは突き出した両腕で黒い球を受け止めていた。しかし、その最後の抗いも終わりを迎えようとした時、トーマス=ロコモーティブは光の涙で濡れる顔を天上へと向けて、想いの丈を叫んでみせる。

 そして、彼の願いは叶えられる。大空を覆う分厚い雲の隙間から一条の光が今でもトーマス=ロコモーティブの身体に差し込んでいたのだが、その雲の隙間が大きく開く。ぽっかりと開いた穴から予想だにしない存在が降りてくる。

「トーマス=ロコモーティブ。貴方はよくぞ、そこまで頑張りましたね。さあ、ワタクシが貴方に成り代わり、地上に這いつくばる蛆虫どもを焼き払ってみせましょう」

 トーマス=ロコモーティブの頭上には8枚羽根を有する天使が存在した。かの者の伸長は10ミャートルほどあり、慈愛に満ちた表情でトーマス=ロコモーティブに語り掛ける。トーマス=ロコモーティブは両目から光の涙を溢れ出し、頭上から降り注ぐ柔らかで優しい光に包まれる。

「ああ、我があるじ! 『明けの明星』と呼ばれるあるじ様!! 私の声に応えてくれるのですかっ!」

 『明けの明星』と呼ばれた巨大な天使はトーマス=ロコモーティブにニッコリと微笑みかける。そして、白く透き通る右腕をトーマス=ロコモーティブの方へと突き出し、そこから大量の光のシャワーを噴き出す。トーマス=ロコモーティブはその光のシャワーを浴びることで無常の喜びを感じ取る。黒く染まり切った身体は光の泡と化し、トーマス=ロコモーティブという存在は、この世界から消え失せていく。

 しかし、それでもトーマス=ロコモーティブは感謝の涙を両目から溢れ出させ続けた。やがて、彼の存在そのものが消え失せ、彼の下半身に装着されていた白い甲冑が大浴場の石畳の上へと落下する。

「ワタクシの従者よ。しばし休みなさい。貴方にはまだまだやり遂げてもらうことがありますよ」

 『明けの明星』はそう言った後、トーマス=ロコモーティブを飲み込もうとしていた黒い球に向かって、光のシャワーを浴びせる。黒い球はその柔らかな光と接触するや否や、グニャリとその形を歪ませる。まるでアイスキャンディに溶岩をかけたが如くに黒い球は歪みを強める。

 しかし、黒い球自体が吼え声をあげる。まるで、与えられた優しさを拒否する思春期の男の子のように哭き叫び、その内側に孕む暴力性を剥き出しにする。歪み切った黒い球は中心部から黒い蛇を現出させる。中心部にある小さい黒い点から発した黒い蛇たちは口を大きく開きつつ、光のシャワーを浴びせてくる『明けの明星』へと牙を剥く。

「さすがはこの世のけがれ全てを象徴している存在が放ったモノだけはありますね。ワタクシの慈愛を受け入れようとはしない」

 『明けの明星』はそう呟くや否や、白く光り輝く身に喰らいつかんとしてくる黒い蛇群に向かって左腕を振るう。かの者がそうしただけで、黒い蛇群は黒い霧と化す。断末魔をあげながら宙へと霧散していく蛇群はそれでも一矢報いようと次々に『明けの明星』へと突っ込んでいく。

「ワタクシは美しい。天界に住まう全ての天使の誰よりもだ……。そのワタクシをけがそうとする存在自体、許されない……」

 『明けの明星』がそう言いながら、今度は背中に生えている8枚の羽根全てを羽ばたかせる。そうすることで、光の鱗粉が周囲にばらまかれ、『明けの明星』を包み込む。それは魔術障壁マジック・バリアのように作用して、黒い蛇群の全てがかき消されることとなる。

 自分の身に喰らいつこうとする黒い蛇群がいなくなったことを視認した『明けの明星』は次に視線をレオナルト=ヴィッダーに向ける。まるでボサツと呼ばれる存在がそこに在るかのような表情を称える『明けの明星』であった。

 『明けの明星』は右手で背中の羽根から1枚の羽毛をちぎり取り、その右手の中で力強く握り込む。そうしたかと思った次の瞬間には、『明けの明星』の右手には長さ10ミャートルを越える光の槍が握られることとなる。

「この槍は『グングニール』。かつて、世界の全てを飲み込もうとした終末の獣レヴァイアサンの胴体すらも貫いた槍。原初の蛇も、この槍の前では赤子同然」

 『明けの明星』はそう言うと、光の槍を振りかぶる。そして、地上で動揺しきっている小さなオスの生物に向かって、一切の容赦も無く、ぶん投げる。投げられた光の槍はドンッドンッドンッ! と3度、大気を突き破りながら、真っ直ぐに呪力ちからを生み出す小さな存在に向かって突き進んでいく。

「むむ……。貴方が邪魔をするとは予想外でした。四皇がひとり、第六天魔皇殿」

「ふんっ。天界の掟では、天界の住人こと天使たちは地上に直接的に介入できぬはずだが? ならば、われが間に割って入ったところで何の問題もなかろう」

 レオナルト=ヴィッダーに向かって放たれた光の槍は、第六天魔皇こと、波旬はじゅんが左手ひとつで止めていた。それでも波旬はじゅんの左手はジュウジュウという肉が焼ける音を奏でることとなる。波旬はじゅんは光の槍の柄から手を離し、その光の槍を大浴場の石畳の上へと転がす。そして、左足でその光の槍を踏みつけて、粉々に砕いてしまう。

「グングニールを足蹴にするとはいやはや……。貴方には天界を敬う気持ちは相変わらずなさそうです」

「知ったことか。これが本物のグングニールなら、われが受け止めようとした時点で、われの身は吹き飛んでおる。『明けの明星』ともあろうお方が、小虫一匹殺すのに、過剰な演出をするのか?」

「ああ言えばこう言う。貴方とは昔から反りが合いません。しかし、ワタクシの邪魔をした以上、それ相応の罰を与えます」

「ふんっ。どうとでも『Y.O.N.N』様に告げ口するが良い。われわれが正しいと思うことをしたまでよ」

 第六天魔皇は天空に浮かぶ『明けの明星』に対して、悪態を突きつける。『明けの明星』はやれやれとばかりの所作をした後、宙を上昇し始める。そして、分厚い雲にぽっかりと開いた穴へと、その巨体を通過させていく。かの者がそこから居なくなると同時に、周囲に漂っていた神気は和らぎ、レオナルト=ヴィッダーたちは大きく呼吸をしだすことになる。
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