【R18】俺は悪くねえ! ~愛しのお姫様が女騎士に変化しているのを知らずに後ろの穴を穿ってしまいました~

ももちく

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第25章:七人の天使

第3話:赤い壁

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 レオナルト=ヴィッダーは甲板上で大の字になって寝ころび、ハアハアゼエゼエ……と身体全体で呼吸をしつつ、その身体全体から滝のような汗を噴き出していた。それもそうだろう。レオナルト=ヴィッダーは魔皇と競り合ったために休む暇もなく、素戔嗚スサノオから呪力ちからを引き出し続けたからだ。素戔嗚スサノオに心と身体を乗っ取られることはなかったが、体力は限界まで搾り取られ、立ち上がることも出来なくなってしまう。

 そんなレオナルト=ヴィッダーにリリベル=ユーリィが寄り添うように近づく。そして、レオナルト=ヴィッダーに無情な一言を告げる。

「レオ。お疲れ様。でも、レオの頑張りは無駄に終わったみたいよ?」

「なん……だと!? リリベル、それはいったいぜんたい、どういうことだ!?」

 レオナルト=ヴィッダーが奮戦している中、当の本人以外は気づいていたことがある。バージニア王国が用意した船団にはほとんど乗組員が居なかったことをだ。ものの十数分で船団が壊滅したというのに、向こう側から悲鳴らしい悲鳴も聞こえず、船から逃げ出そうと、五大湖に飛び込む姿もまったくもって見受けられなかった。

「ククッ! ハリボテの船を掃除していただけなことすら気付かなかったのは、さすがは小童こわっぱと言ったところである。われらは謀られたのだよ。目前に展開していた船団はわれらを足止めするためよ」

「くっそっ! わかってんなら、途中で勝負を止めろよっ! 俺は無駄に体力を削っただけじゃねえかっ!」

「それこそ、奴らの思惑よ、われらを疲弊させることが、あちらの企みよ……」

 おびだたしい船の残骸がホワイトウルフ号の行くてを阻むことになる。これでは先に進むことも出来ずに魔皇たちは五大湖の上で立ち往生せざるをえなくなる。バージニア王国は五大湖の支配域を減らすことになるほどの大船団を破壊されたが、魔皇自体をバージニア王国へ上陸させることを阻止することは成功する。

 魔皇は小癪な……と思いながら、ニヤリと口の端を歪ませる。

「さあ、レオナルト=ヴィッダー。さっさと立ち上がれ。われらをここで足止めした以上、次の一手を繰り出してくるはずぞ」

 魔皇はレオナルト=ヴィッダーの方を見もせずに、残りの3隻をじっくりと穴が開くように観察していた。そして、魔皇の予想通り、残りの3責から天を衝くような焔の柱が発せされることになる。

「当然と言えば当然である。本当なら、我らが乗る船が船団に近づいてから、火攻めをおこなう予定であったのだろう。あちらとしても、短時間でここまで船の数が減るのは予定外だったのであろう」

「どういうことだ!? 誰か、頭の悪い俺に説明してくれよっ!?」

 レオナルト=ヴィッダーはリリベル=ユーリィに肩を借りて立ち上がる。そして、船団の残骸が浮かぶ奥の奥で燃え盛る残り3隻を見ながら、誰かしらに説明を求める。それに答えたのは蝙蝠羽付きの白いネズミであった。

「チュッチュッチュ。古の戦術である『連環の計』でッチュウ。バージニア王国の船団は船と船を鎖で繋ぎ、隣の船に火が飛び火するくらいに密着しあっていたのでッチュウ。白兵戦を仕掛けられたところを、自分たちの船ごと火で焼き払おうとしていたのでッチュウ」

「自分たちの船を燃やしてまで、俺たちを丸焦げにしようとしてたのか!? いくらヒトがほとんど乗ってない船だからといって、あっちは大損害だろっ!?」

「123隻の船で、魔皇を丸焼きに出来るのであれば、十分にお釣りは返ってくるのでッチュウ。しかしながら、バージニア王国は魔皇の呪力ちからを舐めたとしか言いようがないでッチュウね」

 燃え盛る3隻の船が五大湖に浮かぶ船の残骸を割りながら、ホワイトウルフ号に近づいてこようとする。その猛火が船の残骸に次々と飛び火するが、ほとんどの船が大破しているため、火の広がりはそれほど勢いがあるものではなかった。しかしながらそれでも五大湖の沿岸は徐々に炎が壁となり、季節外れの突風が吹き荒れ、それはやがて炎の嵐となる。

 レオナルト=ヴィッダーは眼の前に赤い壁が出来上がったことで、思わず、尻餅をついてしまう。もし、バージニア王国の船団を削りに削っていなかったら、この10倍の高さの赤い壁が自分たちの眼の前で展開されていたことを容易に想像できた。

「とんでもねえことを考えてやがったんだな、バージニア王国はっ! てか、魔皇はこの策に気づいていたのか!?」

「ん? われも最初は気づいていなかったぞ? しかし、あちらの船を沈めに沈めたというのに、何の動きも見せなかったゆえに、これは怪しいと思い、貴様にもあちらの船を沈める手伝いをさせたのである」

「くっそっ! 俺はまんまとあんたに乗せられたってかっ!」

 レオナルト=ヴィッダーは最初から最後まで、バージニア王国の企みについて、何も勘づくことはなかった。自分の不明さを恥じる一幕となる。もし、魔皇が白兵戦をおこなうぞっ! と宣言していたら、自分も一緒に敵船へ乗り込み、ばっさばっさと敵兵を薙ぎ払おうと思っていた。しかしながら、白兵戦はついにおこなわれず、魔皇の挑発に乗り、レオナルト=ヴィッダーは散々に黒い玉を生み出しては、敵船にぶつけるという結果的にOKという事態で収まることになる。

 バージニア王国の船団は煌々と燃え盛り、五大湖の藻屑となっていく。魔皇とレオナルト=ヴィッダーがほとんどの船を大破させたがゆえに、ホワイトウルフ号にまで火が回ってこないことはさいわいであったが、赤い壁は早々に収まる様子もなかった。

 レオナルト=ヴィッダーたちは否応なく、この赤い壁の前で立ち往生せざるをえなくなる。そして、足を止めているホワイトウルフ号に招かれざる客が訪れるのも時間の問題であった。

 赤い壁を迂回するように、背中に羽根が生えたニンゲンたちが飛来してきて、ホワイトウルフ号に向かって、右手に持つ手槍を散々に投げ飛ばしてきたのである。

「ククッ! やはり、天界がバージニア王国に助成しおったかっ! さあ、ここからが本番ぞっ! バージニア王国の本土に足を踏み入れる前に落命するのだけは止めてほしいところだっ!」

 魔皇はそう言いつつ、両手の先に黒い玉を創り出す。そして、舞うように身体を動かし、自分の身に向かって次々と放り投げられる手槍を黒い玉で砕いてみせる。ホワイトウルフ号の甲板上は慌ただしくなり、レオナルト=ヴィッダーたちもまた、背中から羽根の生えたニンゲンたちを迎撃せねばならなくなる。

「おいらは絶対不可侵の盾イージス・シールドだブ~~~。クルス、マリア。おいらの後ろに下がるんだブ~~~」

 コッシロー=ネヅの幻惑術により、体内の脂肪を鋼鉄以上の硬度に変えているデーブ=オクボーンがクルス=サンティーモとマリア=アコナイトの前に立つ。そして、空中から投げ飛ばされてくる雨あられのような手槍の数をその身ではじき返す……。
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