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第5章:ハジュン=ド・レイ
7:油断
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ハジュンはやれやれと大袈裟に両腕を左右に広げ、頭も左右に振る。しかし、コッシローは、何をわざとらしいことをしているんだとばかりに、鼻をふんっと鳴らす。
「わかりましたよ。まったく、せっかちさんなんですから、コッシローくんは……。大体、ナギッサ=フランダールの暗殺計画が実行されるのは2カ月以上も先なんですよ? 今から急いだところで……」
「えっ!? ナギッサ=フランダールさまの暗殺計画!? それって、いったいどういうことなの!?」
ハジュンは、あっしまった! という顔つきになるが、それ以上にロージーは非常に驚いたといった感じの表情になる。それも無理がないといって差し支えはない。
――ナギッサ=フランダール。彼は元・ボサツ家の次男坊であり、今はシヴァ帝の第1皇女であるチクマリーン=フランダールの夫であるからだ。彼は今年の夏にチクマリーンと結婚したばかりなのだ。そんな彼が暗殺される道理などどこにあるというのだろうか。
「えっと……。ナギッサ=フランダールって、確か、今年の夏に第1皇女さまと結婚なさった、あのヒトだよな?」
「そうよ!? クロ、その通りよ!? そのナギッサさまが暗殺されようとしているわけよっ!?」
「ちょっと、落ち着いてくれませんか? ローズマリーくん……。うちの屋敷と言えども、それは一部のヒトにしか知らないことなので……」
ハジュンが困った顔つきでロージーに声量を落としてくれと頼むのであった。ロージーはしまったと思い、恐縮してしまう。
(ハジュンさまの言っていることが本当なら、これはちょっとした事件というより、宮廷全体を揺るがす大事件に発展するわ……。わたし、驚きのあまりについ大声をあげちゃった……)
ロージーは落ち着きなく、頭を前後左右に振り、誰かの耳に届いたのでは? と心配になってしまうのである。そんなロージーに対して、クロードがロージーの右肩にそっと自分の左手を置く。クロードはロージーが落ち着くようにと、配慮したのであった。自分の右肩にクロードの左手の重さを感じたロージーは心のどこかしらから安心感が芽生え、少しづつであるが落ち着きを取り戻すのであった。
「ふむっ。なかなかに羨ましい関係ですね。先生もこんな青春時代を送りたかったですよ」
「うっさいでッチュウ。何が青春時代でッチュウ。お前の青春時代は100年以上も前に終わっているのでッチュウ!」
「失礼なネズミですよね、コッシローくんは。キミたちもこのクソ生意気なネズミに苦労したでしょ?」
大袈裟な身振りでコッシローを指さし非難するハジュンに対して、ロージーは、あはは……としか言いようがなかった。確かに、ハジュンの言う通り、コッシローには手を焼かされているのは事実だ。
コッシローと出会ったばかりの時に、ロージーはコッシローが巻き起こす風の魔術で、スカートをめくりあげられた事件が起きた。それゆえにハジュンに共感できる部分もあるのだが、コッシローが先導役とならなければ、大神殿で転移門を使用させてもらえなかったのも事実なのである。
「苦労もさせられたけど、世話になったこともあるわ。だから、それでチャラってところかしら?」
「あらあら? こんなスカートめくりが趣味のコッシローくんに恩義を感じているとは、先生の計算違いでしたね……。まあ、それは置いておきますか。さて、先ほど口を滑らせてしまいましたが、詳しい話をしていくことにしますね?」
ハジュンがナギッサ=フランダールの暗殺計画について、解説を開始する。ハジュンが言うには、第1皇女:チクマリーン=フランダールとボサツ家の次男坊:ナギッサ=ボサツが正式に結婚するまで紆余曲折があったと。
そもそも、宮廷には二大派閥が存在した。シヴァ帝を筆頭とする帝派。こちらの陣営には四大貴族のボサツ家とド・レイ家が所属している。
対して、宰相派と呼ばれる派閥には、ポメラニア帝国の宰相であると同時に四大貴族のひとりでもあるツナ=ヨッシー。そして、それ組する四大貴族のひとり:オレンジ=フォゲットだ。
帝派と宰相派は時には協力しあい、時にはいがみ合ってきた歴史がある。しかし、ポメラニア帝国外の周辺国をも巻き込む予定の政策において、二大派閥の間に決定的な溝が出来上がってしまったのだ。
そして、シヴァ帝が自分の権力を強固なモノにすべく、行ったのが、自分の血筋と縁が深いボサツ家との繋がりを強化することであった。それが第1皇女:チクマリーン=フランダールとボサツ家の次男坊:ナギッサ=ボサツとの婚約と結婚だったのである。
しかし、宰相派も帝派の勢力が強化されるのは好ましく思っていない。その切り崩しとして、ボサツ家に連なる伯爵や子爵たちを罠にハメようとしたのだ。
だが、それはハジュン=ド・レイの手により、宰相派の企みはことごとく潰されることになる。だが【禍福はあざなえる縄の如し】とはよく言ったものだ。全てが順調に上手くことが運んだことが災いする。帝派に『油断』という大敵が牙を剥くことになる。
手をこまねいていた宰相:ツナ=ヨッシーが強硬手段に及んだのだ。伯爵や子爵が駄目ならばと、数多くある男爵家のひとつにその魔の手を伸ばしたのだ。
「そんな……。わたしのパパは完全に二大派閥のとばっちりを受けただけだなんて……」
「すいません……。まさかボサツ家の末端にあたる男爵家にあれほどまでに無計画に濡れ衣を被せてくるとは、先生も予想外すぎました。そのため、宰相派の狙いに気付いた時には、こちらとしては手出し出来ない事態に発展してしまいました……」
宰相:ツナ=ヨッシーに眼をつけられたのはロージーの父親であるカルドリア=オベールであった。彼は男爵家でありながら、ボサツ家に連なる他の男爵家の会計補佐を担当していた。ボサツ家の当主はカルドリア=オベールに子爵へと階級をあげないか? と誘っていたのである。
ボサツ家の当主がカルドリア=オベールに眼をかけているとの情報を掴んだツナ=ヨッシーは、標的をオベール家に絞ってしまったのだ。何の運命のいたずらであろうか? ツナ=ヨッシーとしては、少しでもボサツ家への嫌がらせが出来れば良いと思っていたのだ。たまたま、その時期に目立ってしまったオベール家がツナ=ヨッシーに狙われることとなったのだ。
「全ては、先生とボサツ家の当主:エヌル=ボサツの油断が招いたことです……。ローズマリーくんたちを辛い目に会わせたことを謝罪します……」
ハジュンが机から尻をあげ、直立した状態から深々と頭を下げて、ロージーに対して詫びるのであった。ロージーは理不尽な派閥同士の争いに巻き込まれたことに心の底から悔しさがこみ上げて、大粒の涙をぼろぼろと流すのであった。
クロードはそんなロージーの両肩に自分の両手をそっと乗せて、ロージーが泣き止むまで、彼女を支え続けるのであった。
「わかりましたよ。まったく、せっかちさんなんですから、コッシローくんは……。大体、ナギッサ=フランダールの暗殺計画が実行されるのは2カ月以上も先なんですよ? 今から急いだところで……」
「えっ!? ナギッサ=フランダールさまの暗殺計画!? それって、いったいどういうことなの!?」
ハジュンは、あっしまった! という顔つきになるが、それ以上にロージーは非常に驚いたといった感じの表情になる。それも無理がないといって差し支えはない。
――ナギッサ=フランダール。彼は元・ボサツ家の次男坊であり、今はシヴァ帝の第1皇女であるチクマリーン=フランダールの夫であるからだ。彼は今年の夏にチクマリーンと結婚したばかりなのだ。そんな彼が暗殺される道理などどこにあるというのだろうか。
「えっと……。ナギッサ=フランダールって、確か、今年の夏に第1皇女さまと結婚なさった、あのヒトだよな?」
「そうよ!? クロ、その通りよ!? そのナギッサさまが暗殺されようとしているわけよっ!?」
「ちょっと、落ち着いてくれませんか? ローズマリーくん……。うちの屋敷と言えども、それは一部のヒトにしか知らないことなので……」
ハジュンが困った顔つきでロージーに声量を落としてくれと頼むのであった。ロージーはしまったと思い、恐縮してしまう。
(ハジュンさまの言っていることが本当なら、これはちょっとした事件というより、宮廷全体を揺るがす大事件に発展するわ……。わたし、驚きのあまりについ大声をあげちゃった……)
ロージーは落ち着きなく、頭を前後左右に振り、誰かの耳に届いたのでは? と心配になってしまうのである。そんなロージーに対して、クロードがロージーの右肩にそっと自分の左手を置く。クロードはロージーが落ち着くようにと、配慮したのであった。自分の右肩にクロードの左手の重さを感じたロージーは心のどこかしらから安心感が芽生え、少しづつであるが落ち着きを取り戻すのであった。
「ふむっ。なかなかに羨ましい関係ですね。先生もこんな青春時代を送りたかったですよ」
「うっさいでッチュウ。何が青春時代でッチュウ。お前の青春時代は100年以上も前に終わっているのでッチュウ!」
「失礼なネズミですよね、コッシローくんは。キミたちもこのクソ生意気なネズミに苦労したでしょ?」
大袈裟な身振りでコッシローを指さし非難するハジュンに対して、ロージーは、あはは……としか言いようがなかった。確かに、ハジュンの言う通り、コッシローには手を焼かされているのは事実だ。
コッシローと出会ったばかりの時に、ロージーはコッシローが巻き起こす風の魔術で、スカートをめくりあげられた事件が起きた。それゆえにハジュンに共感できる部分もあるのだが、コッシローが先導役とならなければ、大神殿で転移門を使用させてもらえなかったのも事実なのである。
「苦労もさせられたけど、世話になったこともあるわ。だから、それでチャラってところかしら?」
「あらあら? こんなスカートめくりが趣味のコッシローくんに恩義を感じているとは、先生の計算違いでしたね……。まあ、それは置いておきますか。さて、先ほど口を滑らせてしまいましたが、詳しい話をしていくことにしますね?」
ハジュンがナギッサ=フランダールの暗殺計画について、解説を開始する。ハジュンが言うには、第1皇女:チクマリーン=フランダールとボサツ家の次男坊:ナギッサ=ボサツが正式に結婚するまで紆余曲折があったと。
そもそも、宮廷には二大派閥が存在した。シヴァ帝を筆頭とする帝派。こちらの陣営には四大貴族のボサツ家とド・レイ家が所属している。
対して、宰相派と呼ばれる派閥には、ポメラニア帝国の宰相であると同時に四大貴族のひとりでもあるツナ=ヨッシー。そして、それ組する四大貴族のひとり:オレンジ=フォゲットだ。
帝派と宰相派は時には協力しあい、時にはいがみ合ってきた歴史がある。しかし、ポメラニア帝国外の周辺国をも巻き込む予定の政策において、二大派閥の間に決定的な溝が出来上がってしまったのだ。
そして、シヴァ帝が自分の権力を強固なモノにすべく、行ったのが、自分の血筋と縁が深いボサツ家との繋がりを強化することであった。それが第1皇女:チクマリーン=フランダールとボサツ家の次男坊:ナギッサ=ボサツとの婚約と結婚だったのである。
しかし、宰相派も帝派の勢力が強化されるのは好ましく思っていない。その切り崩しとして、ボサツ家に連なる伯爵や子爵たちを罠にハメようとしたのだ。
だが、それはハジュン=ド・レイの手により、宰相派の企みはことごとく潰されることになる。だが【禍福はあざなえる縄の如し】とはよく言ったものだ。全てが順調に上手くことが運んだことが災いする。帝派に『油断』という大敵が牙を剥くことになる。
手をこまねいていた宰相:ツナ=ヨッシーが強硬手段に及んだのだ。伯爵や子爵が駄目ならばと、数多くある男爵家のひとつにその魔の手を伸ばしたのだ。
「そんな……。わたしのパパは完全に二大派閥のとばっちりを受けただけだなんて……」
「すいません……。まさかボサツ家の末端にあたる男爵家にあれほどまでに無計画に濡れ衣を被せてくるとは、先生も予想外すぎました。そのため、宰相派の狙いに気付いた時には、こちらとしては手出し出来ない事態に発展してしまいました……」
宰相:ツナ=ヨッシーに眼をつけられたのはロージーの父親であるカルドリア=オベールであった。彼は男爵家でありながら、ボサツ家に連なる他の男爵家の会計補佐を担当していた。ボサツ家の当主はカルドリア=オベールに子爵へと階級をあげないか? と誘っていたのである。
ボサツ家の当主がカルドリア=オベールに眼をかけているとの情報を掴んだツナ=ヨッシーは、標的をオベール家に絞ってしまったのだ。何の運命のいたずらであろうか? ツナ=ヨッシーとしては、少しでもボサツ家への嫌がらせが出来れば良いと思っていたのだ。たまたま、その時期に目立ってしまったオベール家がツナ=ヨッシーに狙われることとなったのだ。
「全ては、先生とボサツ家の当主:エヌル=ボサツの油断が招いたことです……。ローズマリーくんたちを辛い目に会わせたことを謝罪します……」
ハジュンが机から尻をあげ、直立した状態から深々と頭を下げて、ロージーに対して詫びるのであった。ロージーは理不尽な派閥同士の争いに巻き込まれたことに心の底から悔しさがこみ上げて、大粒の涙をぼろぼろと流すのであった。
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