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第5章:ハジュン=ド・レイ
8:再燃する憎悪
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以前から、ロージーはクロードやコッシローから自分の父親が何故、そんな状況に追い込まれたかは聞かされていた。しかし、当事者であるハジュン=ド・レイからの口から聞かされたことは、クロードやコッシローからの話に比べて非常に生々しい話だったのだ。その生々しさのためにロージーの半ば無理やり抑え込んでいた負の感情が、堰を切って飛び出したのである。
「悔しい……。クロッ! わたしはとても悔しいっ……!」
ロージーが喉を引き絞るように怨嗟の声をあげる。ロージーの脳裏にはあの日の光景がありありと蘇っていた。宰相:ツナ=ヨッシーが派遣した碧玉色の甲冑を着込んだ兵士たちにオベール家の屋敷が取り囲まれた。
そして、騎士とも呼べぬ自分以外を卑下するような薄気味悪い笑みを浮かべるモル=アキス。そのモル=アキスが自分の父親を連れ去っていった。そして、モル=アキスはそれだけではもの足りぬと、オベール家の屋敷を差し押さえ、自分と母親はわずかな家財のみを持たされて、火の国:イズモへ流刑となった。
哀しみと同時に怒りがロージーの心を支配していく。そして、ロージーは怒りを発奮するが如くに、その身から魔力を大量に放出するのであった。
「ロージー、落ち着けっ!」
クロードはロージーを背中側から抱きしめていた。ロージーは感情が大きく振れることがあると、それをきっかけとして、その身に宿る膨大な魔力を暴走させてしまう状態に陥る。クロードはロージーの護衛役としてオベール家に仕えるようになってから、ロージーがこのような状況に陥るのは、これで3度目であった。
1度目はオベール家で飼われていた老犬が不慮の事故で天に召された時。2度目はロージーを護るためにクロードがその身を挺した時。そのどちらにもクロードは出くわしたのであった。
ロージーが魔力を暴走させた場合、それが終わるのは、いつもロージーがその身に宿る哀しみと怒りと共に全ての魔力を吐き出した時だ。そして、その後、ロージーは一週間は寝たきりの状態に陥っていたのであった。
「ロージー! 落ち着けって言ってるだろっ! 俺の言葉が聞こえないのかっ!」
クロードがロージーを抱きしめたまま、必死にロージーへと声をかけ続ける。しかし、ロージーの瞳の色は蒼穹から暗い闇の底を思わせる黒色へと変貌を遂げていた。彼女の瞳には確かなる負の感情がありありと宿っていたのである。
「憎いっ! 憎いっ! ツナ=ヨッシー! モル=アキス! わたしが絶対に復讐してやるっ!」
「駄目だ、ロージー! この前、言ってたじゃないかっ! 『復讐からは何も生まれないわ』って。コッシローからの散々な挑発にも我慢したじゃないかっ!」
ロージーはアアアッ! と泣き叫び、押さえつけるクロードから身を離そうともがきあがく。クロードはロージーを離してたまるかと、自分の両腕に必死に力を入れる。ロージーの身から溢れる力は、とても女性のモノとは思えないほどであった。しかし、それでもなお、クロードは彼女を護るために、彼女を力いっぱいに抱きしめるのであった。
(ちゅっちゅっちゅ。ハジュンの小僧め……。魅了の魔術を使って、わざとロージーちゃんの精神状態を不安定にしたでッチュウね? まったく、いくらロージーちゃんの力の一端を知りたいからとやり過ぎなのでッチュウ……)
コッシローはクロードの左肩から振り落とされないように、必死に前足で捕まっていた。そして、右手だけを離し、どこから取り出したかわからない先端に黒い宝石がついた魔法の杖を取り出し、その小さな身から紫色の魔力を溢れさせ、詠唱を開始するのであった。
クロードはいきなり自分の左耳に、何かの魔術を行うための詠唱の文言が聞こえてきたために驚いてしまう。そして、コッシローに何をやってんだと文句を言おうとしたが、ロージーが自分の両腕の中で暴れるので、ついにはコッシローの詠唱を止めることは叶わなかったのである。
「かのモノを安らかな眠りに誘えでッチュウ……。麗しの眠り姫発動なのでッチュウ……」
コッシローの右手に持つ魔法の杖の先端部分に取り付けられた黒い宝石がコッシローの魔力を吸い込み、紫色の眼玉へと変化する。そして、その紫色の眼玉がギョロっとロージーの方に視線を向ける。紫色の眼玉からこれまた紫色をした光線が放たれて、ロージーに照射されるのであった。
紫色の光線を受けたロージーは段々と動きがゆるやかとなっていく。ばたつかせていたその身や手足はゆっくりとではあるが、動きが緩慢となっていく。そして、突然、糸が切れた人形かのように、ロージーはその場にへたりこんでしまうのであった。
「ロージー! ロージー! おい、コッシロー! てめえ、ロージーに何をしやがった!」
クロードがロージーを抱きかかえたまま、ひざを折った状態で、ロージーをやや強く揺さぶって、彼女に声をかけつつ、彼の左肩に乗っかったままのコッシローを罵倒するのであった。コッシローは魔法の杖をどこかにしまって、両手で自分の耳を抑えるのであった。
「落ち着けなのでッチュウ。ロージーちゃんには精神を安定させるための眠りの魔術をかけただけでッチュウ。1~2時間もすれば目を覚ますから、そんなに怒鳴るなでッチュウ」
「本当か!? 本当に1~2時間程度で目を覚ますのか!?」
「本当でッチュウ。『黒い湖の大魔導士は嘘をつかない』。こんなの一般常識でッチュウよ?」
コッシローの言っていることは、どうにも嘘くさいが、クロードはそれを信じる他なかった。クロードはハジュンに許可を得て、ロージーを執務室にあるソファーの上にそっと横にさせるのであった。
さらにはハジュンは執務室の仕事机の上にあった呼び鈴を右手に持ってチリンチリンと鳴らす。するとだ、2分ほどして、とある人物が執務室に入室してきたのである。
「ミサちゃんをお呼びですかニャン? ハジュンさまっ!」
「ああ、ミサくん。客人の精神状態が不安定に陥って、さらにはコッシローくんが眠りの魔術:麗しの眠り姫をかけちゃいましてね? 10月も終わりに近づいているので、厚手の毛布をもってきてほしいんですよ」
「なるほどですニャン! コッシローさまがまた粗相をしちゃったわけですニャンね? じゃあ、5分ほどお待ちしてもらっても良いですかニャン? すぐに洗い立ての高級毛布を持ってくるですニャン!」
「悔しい……。クロッ! わたしはとても悔しいっ……!」
ロージーが喉を引き絞るように怨嗟の声をあげる。ロージーの脳裏にはあの日の光景がありありと蘇っていた。宰相:ツナ=ヨッシーが派遣した碧玉色の甲冑を着込んだ兵士たちにオベール家の屋敷が取り囲まれた。
そして、騎士とも呼べぬ自分以外を卑下するような薄気味悪い笑みを浮かべるモル=アキス。そのモル=アキスが自分の父親を連れ去っていった。そして、モル=アキスはそれだけではもの足りぬと、オベール家の屋敷を差し押さえ、自分と母親はわずかな家財のみを持たされて、火の国:イズモへ流刑となった。
哀しみと同時に怒りがロージーの心を支配していく。そして、ロージーは怒りを発奮するが如くに、その身から魔力を大量に放出するのであった。
「ロージー、落ち着けっ!」
クロードはロージーを背中側から抱きしめていた。ロージーは感情が大きく振れることがあると、それをきっかけとして、その身に宿る膨大な魔力を暴走させてしまう状態に陥る。クロードはロージーの護衛役としてオベール家に仕えるようになってから、ロージーがこのような状況に陥るのは、これで3度目であった。
1度目はオベール家で飼われていた老犬が不慮の事故で天に召された時。2度目はロージーを護るためにクロードがその身を挺した時。そのどちらにもクロードは出くわしたのであった。
ロージーが魔力を暴走させた場合、それが終わるのは、いつもロージーがその身に宿る哀しみと怒りと共に全ての魔力を吐き出した時だ。そして、その後、ロージーは一週間は寝たきりの状態に陥っていたのであった。
「ロージー! 落ち着けって言ってるだろっ! 俺の言葉が聞こえないのかっ!」
クロードがロージーを抱きしめたまま、必死にロージーへと声をかけ続ける。しかし、ロージーの瞳の色は蒼穹から暗い闇の底を思わせる黒色へと変貌を遂げていた。彼女の瞳には確かなる負の感情がありありと宿っていたのである。
「憎いっ! 憎いっ! ツナ=ヨッシー! モル=アキス! わたしが絶対に復讐してやるっ!」
「駄目だ、ロージー! この前、言ってたじゃないかっ! 『復讐からは何も生まれないわ』って。コッシローからの散々な挑発にも我慢したじゃないかっ!」
ロージーはアアアッ! と泣き叫び、押さえつけるクロードから身を離そうともがきあがく。クロードはロージーを離してたまるかと、自分の両腕に必死に力を入れる。ロージーの身から溢れる力は、とても女性のモノとは思えないほどであった。しかし、それでもなお、クロードは彼女を護るために、彼女を力いっぱいに抱きしめるのであった。
(ちゅっちゅっちゅ。ハジュンの小僧め……。魅了の魔術を使って、わざとロージーちゃんの精神状態を不安定にしたでッチュウね? まったく、いくらロージーちゃんの力の一端を知りたいからとやり過ぎなのでッチュウ……)
コッシローはクロードの左肩から振り落とされないように、必死に前足で捕まっていた。そして、右手だけを離し、どこから取り出したかわからない先端に黒い宝石がついた魔法の杖を取り出し、その小さな身から紫色の魔力を溢れさせ、詠唱を開始するのであった。
クロードはいきなり自分の左耳に、何かの魔術を行うための詠唱の文言が聞こえてきたために驚いてしまう。そして、コッシローに何をやってんだと文句を言おうとしたが、ロージーが自分の両腕の中で暴れるので、ついにはコッシローの詠唱を止めることは叶わなかったのである。
「かのモノを安らかな眠りに誘えでッチュウ……。麗しの眠り姫発動なのでッチュウ……」
コッシローの右手に持つ魔法の杖の先端部分に取り付けられた黒い宝石がコッシローの魔力を吸い込み、紫色の眼玉へと変化する。そして、その紫色の眼玉がギョロっとロージーの方に視線を向ける。紫色の眼玉からこれまた紫色をした光線が放たれて、ロージーに照射されるのであった。
紫色の光線を受けたロージーは段々と動きがゆるやかとなっていく。ばたつかせていたその身や手足はゆっくりとではあるが、動きが緩慢となっていく。そして、突然、糸が切れた人形かのように、ロージーはその場にへたりこんでしまうのであった。
「ロージー! ロージー! おい、コッシロー! てめえ、ロージーに何をしやがった!」
クロードがロージーを抱きかかえたまま、ひざを折った状態で、ロージーをやや強く揺さぶって、彼女に声をかけつつ、彼の左肩に乗っかったままのコッシローを罵倒するのであった。コッシローは魔法の杖をどこかにしまって、両手で自分の耳を抑えるのであった。
「落ち着けなのでッチュウ。ロージーちゃんには精神を安定させるための眠りの魔術をかけただけでッチュウ。1~2時間もすれば目を覚ますから、そんなに怒鳴るなでッチュウ」
「本当か!? 本当に1~2時間程度で目を覚ますのか!?」
「本当でッチュウ。『黒い湖の大魔導士は嘘をつかない』。こんなの一般常識でッチュウよ?」
コッシローの言っていることは、どうにも嘘くさいが、クロードはそれを信じる他なかった。クロードはハジュンに許可を得て、ロージーを執務室にあるソファーの上にそっと横にさせるのであった。
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