【完結】婚約破棄された悪役令嬢は童貞公爵様の恋愛指南役となる

氷 豹人

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公爵の暴露

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 サーフェスはマーレイのアメジスト色の瞳に焦点を合わせた。
「な、何ですか? 」
 頭まで昇った血液がすっと引いていく。
「同じだ」
「え? 」
「瞳が」
「瞳? 」
「ああ。綺麗だ。まるで宝石を嵌め込んだように澄んでいる」
 マーレイは目元を赤らめ俯いた。
 母譲りの紫の瞳をそのように例えられたことなど一度としてない。ましてや、綺麗などと。
 容姿に関して男性から褒められたことなどない。耳が拾うのは、男を誘う淫乱な体だの、男を呼び寄せる怪しい香りだの、ツンツンとして可愛くないだの、こき下ろすものばかり。
 瞳の色だって、さすがは悪役令嬢。魔女のように不気味な色だとしか。
 臆面もなく言ってのけるサーフェスからは、何ら下心は見当たらなかった。おそらく、素直に物事を口にする性質たちなだけだ。
「ヴィンセント嬢。私に恋愛を指南してくれないか? 」
 うっかり見惚れてしまったマーレイに、サーフェスは抑揚なく告げた。
 ハッと緊張が解ける。
「恋愛指南とは? 」
 マーレイは眉をひそめた。
「言葉通りだ」
 サーフェスは顎の下に拳を当てる。
 その姿はまさに石膏像のような完璧な美しさ。
 男の色気をふんだんに匂わせ、ちょっと憂えた顔から目が逸せない。
 オリエンタルなムスクが強めの香水に、頭がくらくらしてしまう。
 彼は王子様ではない。訂正する。王子様のような爽やかさは微塵もない。彼は悪役そのものだ。ヒロインに横恋慕する、影のある男。
 悪役令嬢と渾名されるマーレイは、従順に躾けられた子犬より、誰かが近寄るたびに耳を尖らせる大型犬に心惹かれてしまう。
 目線をマーレイに向けたまま、彼は苦しげに眉根を寄せた。
「私は今年で三十二となる」
 彼はマーレイより一回り上だが、猛々しい雰囲気はまさに若さを誇示するライオンのようで、年齢を感じさせない。
 母の葬儀で会った兄の方が、サーフェスと同い年といえど、十歳は上のように思える。
 兄の結婚式では来賓の対応に忙しく話どころかハッキリ顔すら見ていないが、少なくとも八年前の母の葬儀の際の兄の方がサーフェスより老け込んでいる。
「この年まで恋愛経験がない」
 いきなりの言葉に、マーレイは空耳かと思った。
「はい? 」
 今、とんでもないことを聞いたような?
「つまり、女を抱いたことがない」
 小首を傾げるマーレイに、サーフェスはこめかみに筋を浮かべつつさらに言葉を重ねた。
「は? 」
「童貞だ」
 ヤケクソのように断言する。
「は? 」
 マーレイの思考回路が停止して、頭が真っ白に爆ぜた。
 何だか物凄い単語を聞いた気がする。

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