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淑女の幻
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深夜になると、ますますサーフェスの熱は上がってきた。
着替えを取りに戻ったケアランは、動きやすいようにとナイトドレスをマーレイに選んだ。
薄いリネンの生地は、男一人、女二人の屋敷では大変に危険だが、今回は別だ。男は高熱で伏せって、不埒を働けるような状況ではない。
ケアランは機能性を重視した。
ケアランは看病を交代で行うと言ってきかなかったが、片道二時間を二往復した疲れから、いつしかソファに横たわったまま寝息をかいていた。
マーレイは彼女に掛布を乗せると、続き間の彼の寝室へ、氷水の入った桶を抱えてそっと忍び入った。
「君は……ジゼルか? 」
サーフェスは目を覚ましており、朦朧としながら尋ねてきた。
意識の混濁している中、記憶のジゼルと重ねている。ジゼルは純白のドレスを身につけていた。
「え、ええ」
マーレイは間を置いてから、肯定した。
今は弱った彼をがっかりさせたくない。
「情けない姿を見せてしまった。本当なら、格好つけて君の前に現れたかったのに」
サーフェスは自分の置かれた状況をちゃんとわかっていて、申し訳なさそうに呟いた。
「あなたは今もジゼルを愛しているのですか? 」
サーフェスの返事がない。
返ってくるのは分かり切った言葉だ。だが、今ではない。なかなかにロマンチックな思考の持ち主であるから、燕尾服を着こなし、花束を抱えて、ジゼルと向き合いたいのだろう。
「ご、ごめんなさい。無粋なことを」
マーレイは慌てて言葉を取り下げた。
氷水の入った桶をサイドテーブルに置くと、浸したタオルを絞って彼の額に乗せる。
一連の動作の後、サーフェスは苦々しい顔つきで呟いた。
「君に謝らなければならない」
「え? 」
「君のことを利用してしまった」
マーレイは、ずれてしまったタオルを直しながら、小さく喉を鳴らす。
「気にしないでくださいな。あなたは命の恩人なのですから。このような些細なことで恩が返せるなら、何だっていたしますわ」
「いや。そうではなくて」
緩く首を横に振る。
「母があまりに早く子を成せとしつこくて。しかし、貴族の女の欺瞞に満ちた態度には霹靂していたんだ。義務と自由の狭間で、神経が参りそうになっていた」
まるで酩酊しているように焦点が合っていない。
いつもの彼は自分について多くを語ろうとしない。
それが自ら口を開いているのだ。
彼の頑なな意思はどこかへ追いやられてしまっている。
「そんなとき、仮面舞踏会で君と出会って。あれほどまでに美しく涙を流す女性はいない。君に惹かれた」
それは確かなジゼルへの愛の言葉だ。
マーレイに向けられたものではない。胸が鷲掴みにされたように痛い。痛くて堪らない。
「ジゼルを愛しているのですね? 」
マーレイはベッドの傍らに置かれた椅子に、どすんと尻を乗せた。
「わからないな」
サーフェスは重そうに瞼を閉じた。
「わからない? 」
マーレイは怪訝に眉を引きつらせる。
愛の言葉をジゼルに向けながら、わからないなどとのたまう男。その真意がはっきりしない。
「それが愛なのか。それとも、素直に涙を流せる君を羨ましく思っただけなのか。わからない」
いつものサーフェスならば、決して吐露しないであろうこと。
マーレイは涙を手の甲で拭うと、彼の声を聞き漏らさないように見据えた。
着替えを取りに戻ったケアランは、動きやすいようにとナイトドレスをマーレイに選んだ。
薄いリネンの生地は、男一人、女二人の屋敷では大変に危険だが、今回は別だ。男は高熱で伏せって、不埒を働けるような状況ではない。
ケアランは機能性を重視した。
ケアランは看病を交代で行うと言ってきかなかったが、片道二時間を二往復した疲れから、いつしかソファに横たわったまま寝息をかいていた。
マーレイは彼女に掛布を乗せると、続き間の彼の寝室へ、氷水の入った桶を抱えてそっと忍び入った。
「君は……ジゼルか? 」
サーフェスは目を覚ましており、朦朧としながら尋ねてきた。
意識の混濁している中、記憶のジゼルと重ねている。ジゼルは純白のドレスを身につけていた。
「え、ええ」
マーレイは間を置いてから、肯定した。
今は弱った彼をがっかりさせたくない。
「情けない姿を見せてしまった。本当なら、格好つけて君の前に現れたかったのに」
サーフェスは自分の置かれた状況をちゃんとわかっていて、申し訳なさそうに呟いた。
「あなたは今もジゼルを愛しているのですか? 」
サーフェスの返事がない。
返ってくるのは分かり切った言葉だ。だが、今ではない。なかなかにロマンチックな思考の持ち主であるから、燕尾服を着こなし、花束を抱えて、ジゼルと向き合いたいのだろう。
「ご、ごめんなさい。無粋なことを」
マーレイは慌てて言葉を取り下げた。
氷水の入った桶をサイドテーブルに置くと、浸したタオルを絞って彼の額に乗せる。
一連の動作の後、サーフェスは苦々しい顔つきで呟いた。
「君に謝らなければならない」
「え? 」
「君のことを利用してしまった」
マーレイは、ずれてしまったタオルを直しながら、小さく喉を鳴らす。
「気にしないでくださいな。あなたは命の恩人なのですから。このような些細なことで恩が返せるなら、何だっていたしますわ」
「いや。そうではなくて」
緩く首を横に振る。
「母があまりに早く子を成せとしつこくて。しかし、貴族の女の欺瞞に満ちた態度には霹靂していたんだ。義務と自由の狭間で、神経が参りそうになっていた」
まるで酩酊しているように焦点が合っていない。
いつもの彼は自分について多くを語ろうとしない。
それが自ら口を開いているのだ。
彼の頑なな意思はどこかへ追いやられてしまっている。
「そんなとき、仮面舞踏会で君と出会って。あれほどまでに美しく涙を流す女性はいない。君に惹かれた」
それは確かなジゼルへの愛の言葉だ。
マーレイに向けられたものではない。胸が鷲掴みにされたように痛い。痛くて堪らない。
「ジゼルを愛しているのですね? 」
マーレイはベッドの傍らに置かれた椅子に、どすんと尻を乗せた。
「わからないな」
サーフェスは重そうに瞼を閉じた。
「わからない? 」
マーレイは怪訝に眉を引きつらせる。
愛の言葉をジゼルに向けながら、わからないなどとのたまう男。その真意がはっきりしない。
「それが愛なのか。それとも、素直に涙を流せる君を羨ましく思っただけなのか。わからない」
いつものサーフェスならば、決して吐露しないであろうこと。
マーレイは涙を手の甲で拭うと、彼の声を聞き漏らさないように見据えた。
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