【完結】華麗なるマチルダの密約

氷 豹人

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果てのない夢2 ※

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 幾ら反発しようと、結局はロイが勝つ。口の達者な彼の言いなりだ。
 マチルダは渋々ながらロイの希望を叶えた。
「ああ。最高だ」
 恍惚の表情のロイは、おそらくベッドの中だけしか見れない代物。
 期間限定で展示されている美術品を鑑賞している気分にすらなって、マチルダは中腰の体勢でロイを見上げた。
 テーブルの天板に尻を乗せて、片膝を立てるロイ。
 鍛え抜かれた、まさしく戦いの神アレスのような。
 それほど素晴らしい男の、その一部分を胸の谷間に挟み込んで左右から押し潰しているなんて。
 情けないったら。マチルダは鼻を啜る。
「まさか乱交仲間って、ジョナサン卿達ではないわよね? 」
 あんまり憎たらしくて、声が三トーンも低くなってしまった。
「まさか。また別の放蕩野郎だよ。もう縁を切ったから蒸し返すな」
 ロイにとって、触れられなくない過去だ。心底嫌そうに鼻に皺を寄せた。
「ジョナサンは小児性愛者さながら二十以上も下の奥方に溺れているし、アークライトは十年間粘着して堕とした妻がいる。ローレンスといえば、あの姉の尻に好き好んで敷かれているしな」
「あなたが言えば変態的に聞こえて、素敵なロマンスが台無しだわ」
「事実を言ったまでだ」
「類は友を呼ぶんだわ」
「失敬だな。私はまともだ」
「こんなことを女性に強いる時点で、充分お仲間よ」
 マチルダは歯噛みする。
 両手に力を込め、中央で明らかに主張する膨らみの硬さや大きさに皮膚を押し付けた。
 筋が浮き、どくどくと波打つ彼の象徴は、持ち主そのもので偉そうに自己主張が激しい。
 彼の太腿の間にすっぽり収まりながら、マチルダはこれ以上それが視界で幅をきかせないように、ギュッと目を瞑った。
「まだ理性の鎧を着ているのか? 」
 マチルダの羞恥は見逃されなかった。
 絨毯に擦り付けていたマチルダの膝頭が浮いた。谷間から引き抜いたロイは、その細い腰を軽々と掴み上げると、体勢を入れ替えた。テーブルの上に彼女の体を置き、自分が床に膝をつく。
「そろそろ、そんなもの脱いでしまえ」
 ロイはマチルダが着込む見えない鎧を取り払いにかかった。
「な、何をするの! 」
 マチルダは金切り声を上げた。
「君を堕落させ、淫乱にさせる」
 ニヤリと企みある笑みを寄越してきたかと思えば、ロイが躊躇いもなくマチルダの薄く生えた黄金色の綿毛の中に顔を埋めたからだ。
 肌に触れて赤面していたどころの騒ぎではない。
 彼からはそれ以上の物凄い刺激を与えられる。
「や、やだ! 離して! 」
「駄目だ。離さない」
「お、怒ったの? 」
「ああ」
「でしたら、謝ります。だから離して」
「もう遅い」
 薄い黄金色は、官能により湿地と成り果てている。
 彼は惑うことなくその中にある柔らかな秘部に吸い付いた。
「私の欲望に着火したからな」
 マチルダが抵抗してロイの額を押し退けようとも、びくともしない。そればかりか、彼の舌はさらに這いずり回し、やがて奥深い空洞の入り口に辿り着いた。
「あ……あ、ああ! 」
 粘膜を舌先で直に撫でられ、蜜が溢れ出す。
 彼女の顎先が天を向き、爪先がピンと張った。
 ロイはマチルダにかしづきながら、淫猥な振る舞いをこれでもかと繰り出していく。
 一際敏感な小突起に軽く歯を立てられ、びくりとまな板に乗せられた魚のごとく体を跳ね上がらせた。
「い、いや! そんな場所! 」
「君はキスが好きだと言ってたじゃないか」
「そ、そんなこと言ってないわ! 」
「ああ、そうか。忘れてしまったんだな」
 他人事で呟くと、ロイは舌を彼女の深淵まで躊躇なく沈ませる。
 どんどんと溢れていく蜜はマチルダの太腿の内側からふくらはぎを伝って、絨毯に小さく円い染みを作った。
「ん……頭が……おかしくなるわ……」
「なってしまえ」
 マチルダは誰かに救いを乞うために、視線を彷徨わせる。
 野生的なロイの寝室は、彼をイメージする緋色とは真逆の、群青色の落ち着きで統一されていた。
 ヘッドボードとフットボードに勿忘草が彫られたマホガニー製のキングサイズのベッド、同じデザインのクローゼット、そしてマチルダが体を乗せているティーテーブル。セットになった椅子。皆んな、同じ勿忘草のデザインが装飾されていた。
 特にマチルダの眼を惹いたのは、壁一面に飾られたキャンバスだ。
「どうした? どこを見ているんだ? 」
 キャンバスには、黄金の髪を波打たせ、砂浜で横たわる人魚が描かれていた。日の出により燦然と肢体を輝かせ、まるで誘うかのごとく伏目がちでこちらに目線を向けている。画家の技術によって、どの角度からも目が合ってしまう。
「あの人魚が気になるのか? 」
 目だけ絵の方に向けるロイ。
「仮面舞踏会の……あのときの部屋にも、人魚がいたわ……」
 あの部屋にあったのは、仄暗い夜の海。
「ああ。私が画家に何枚か描かせたからな」
 彼はあと何枚かその類いの絵があることを示唆した。
「モデルは君だよ」
 ロイはマチルダの太腿の付け根に舌を這わせながら教える。
「私、あんなに妖艶じゃないわ」
 ピクピクと痙攣するまな板の魚になりながら、マチルダは首を横に振った。
「いや。君のその声はまさしくローレライ。美しい歌声で男を深い海底に引きずり込むんだ」
「酷いわ。人を化け物みたいに…ああ! 」
 マチルダはローレライのごとく一際声を昂らせ、再度小突起に歯を立てられた痛みに喘いだ。
「きっと私は、ローレンスで初めて君と出会った時点で、その声に囚われていたのだろうな」
「あ、ああ! 」
 ローレライに音色を奏でさせるために、ロイは同じ場所を執拗に攻めてくる。
「私はローレンスの主人ではない。たった一言で君との接点が途絶えてしまうことが惜しかった」
「あ、ああ! いやあ! 」
「偽の恋人を演じたときも。君を他の男に宛てがうのが嫌だったから」
「ああ! 駄目! 」
 何度も歯を宛てがわれたマチルダのその場所は、ぷっくりと赤く腫れてしまっている。
「わ、私のこと悪役令嬢だと蔑んでいたのではなくて? 」
「だからだよ。噂とは正反対の君がどうも気に掛かって」
 マチルダから官能をさらに引き摺り出させるために、ロイは尚も執拗な舌遣いで撫で回した。
「迷宮でのキスで確信した」
 ロイは言葉を一旦区切ると、今しがたとは明らかに違う真剣な顔となる。悪ふざけが消えた。
「君は私の妻になる女だと」
「断定するのね」
 マチルダは掠れた声で抗議する。
 それはなんて傲慢なプロポーズだろう。
 マチルダが夢見た、春の薔薇園で跪いて指輪を渡すシチュエーションからは程遠い。
 互いに素っ裸で、しかも股間に顔を埋められて、あろうことか秘部を舐め回されている最中。
 ロマンチックの欠片もない。
「あ……ああ……ロイ……」
 それなのに、マチルダの心がジワリと熱で浸されていく。
 まるで世界中の幸福がいっぺんに集中したかのごとく。
 マチルダは御伽話のお姫様にさえなった気分だった。

 



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