【完結】華麗なるマチルダの密約

氷 豹人

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果てのない夢3 ※

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「早く君と結婚したい」
 マチルダをベッドに横たえると、彼女に覆い被りながらロイが囁いた。最高の口説き文句。
 しかし、それだけで済まないのが、ロイという男だ。
「今日中に」
「無理よ」
「司祭を買収して、今日中に許可証を用意させる」
「あなたなら、やりかねないわ」
「やったんだ」
 言い方からして、すでに根回しが済んでいるようだ。
「それに、お父様に挨拶もまだだし」
「そんなもの、とっくに済ませてある」
「いつの間に」
「君が迷宮を彷徨った翌日だ。君の父と直に話した」
「お父様は何て? 」
「春画三枚で喜んで娘を出そうと」
「うちの父も最低だったのね」
 春画とやらは見たこともないが、どのようなものかは、ロイとの付き合いで容易に想像出来た。
 ロイの外堀は万全に整っている。
 肝心の自分の気持ちを後回しにされて、マチルダはムッと顔をしかめた。
「どれほど前から根回ししていたの? もし私が嫌だと駄々を捏ねたら? やっぱり無理矢理、娶るつもりだった? 」
「君は首を縦に振るさ。絶対に」
「大した自信ね」 
 マチルダはやれやれと深く溜め息をつく。
 マチルダとの大きな枷となっている身分差についても、彼のことだから、彼の身内や上級貴族の分家連中にも有無を言わせず納得させているに違いない。下手したら弱みを握って脅したのかも。
 ロイという男には、支配者としての資質が備わっている。
 肉食動物カーニボー。容赦なく肉を食い破る荒々しい獣。これほど彼にピッタリな渾名はない。
「それで? 首は縦に振るんだろう? 」
「ええ。そうよ」
 マチルダに拒絶する理由はない。
 当然だろう、と言わんばかりにロイは満足そうに顔を綻ばせた。
「マチルダ。これを」
 マチルダの左手の薬指に、どことなく重みが加わる。
 白金プラチナに、勿忘草の色を彷彿させるラピスラズリが装飾されている。
 指輪はマチルダの指にピッタリで、まるで最初からそこにあったかのように馴染んだ。
「い、いつの間に。こんなものまで」
 すでに結婚指輪まで。
 周到過ぎるにも程がある。
 マチルダは驚愕と恍惚の混じり合った微妙な笑みを唇に浮かべた。
「今日のうちに子作りも済ませるぞ」
「本気? 」
「勿論だ」
 明らかにそれまでとは異なるオーラをロイは醸し出す。さながら、肉食獣が獣を前に涎を垂らし、襲い掛かる寸前のような。
 ロイはマチルダの左薬指に熱っぽいキスを落とした。
「では、早速と初夜の続きといこう」
「順番がずれてるわ。許可証はこれからでしょう? それに、今はまだ正午前よ。夜ではないわ」
「細かいことは気にするな」
 いちいち口を挟むマチルダに対して、ロイは面倒臭そうに顔の横で手をひらひらさせた。
「良いか、マチルダ。君は今このときから、ブライス伯爵夫人だからな」
 彼の言葉には重みがある。
 マチルダはこの瞬間から「アニストン家子爵令嬢」ではなく、「ブライス伯爵夫人」となるのだ。
 淑女から貴婦人へと。
 マチルダは神妙に頷いた。


「い、いや! 」
 マチルダは苦悶に顔をしかめ、膝を屈曲させた。逃げようと尻を上にずらせば、すかさず腰を掴まれ引き戻される。
「駄目だ、マチルダ。じっくり慣らさないと」
 言いながら、ロイはマチルダの体の裂け目を否応なく指の腹で突いた。
 マチルダはこれでもかと太腿を擦り合わせ、挟んだロイの手がこれ以上奥へと行かないよう必死だ。
「で、でも……教科書には、こんなこと書いていなかったわ」
「教科書は生殖器をどのように使うか、だろ」
「え、ええ」
 男性からの愛撫など、一文もない。
「これは子孫を残すための義務ではない」
「な、何なの? 」
「愛をより深める行為だよ」
 楽しそうにウィンクするロイは、まさしくこれから何か企みを始める悪ガキそのもの。
 無邪気な笑顔とは裏腹に、彼の指先は蛇が這うようにじっとりと淫猥な動きをみせた。
 マチルダの右手首に彼の手が巻きついたかと思えば、ゆったりと誘導し、彼女の指先に硬い何かが触れる。手の甲に、ロイの手のひらが重なった。
「な、何をするの! 」
 マチルダの指先が絡みつくそれの正体に、カッと頭の芯が痺れる。振り払おうとしても、ロイの手がずっしりと重りとなって押さえつけてくる。
 怒りを孕んだ彼女の眼差しを、ロイは飄々とかわした。
「大きさを直に確かめた方が良いだろ」
「け、結構よ」
「前回は、嬉々として観察していたではないか。こっちが恥ずかしくなるくらい、それはもうジロジロと」
「お、覚えてないわ! 」
「嬉しそうに咥えてたくせに」
「やめて! はしたない! 」
「まだ理性が残っているのか」
 矢継ぎ早の口論により油断し切っていたマチルダ。頑なだった太腿の間を割り開いたロイは、あっさりと彼女の体内に侵入を果たした。
「あ、あああ! 」
 ミルク入り紅茶をスプーンで掻き混ぜるように、中指が内部でゆったりと回転する。指の腹が下側を向くたびに、マチルダは喘いだ。じんわりと熱を持っていく部分。透明のぬめりが糸を引いた。
「ちゃんと爪は手入れしてあるからな。君の中を傷つけたりはしないから」
 聞いてもいないのに、ロイは余計な情報を寄越す。
 マチルダは、ビクビクと足の指を伸ばしたり曲げたりを繰り返した。
 ロイはそれを注意深く観察して、彼女がどの部分で足指を痙攣させるか確かめる。
「だ、駄目よ」
 ある程度わかってくると、執拗にそこを攻め始めた。
「成程。君が感じる箇所はここか」
「やめて」
「などと言いつつ、足が絡んでくるぞ」  
 いやいやと言いつつ、気持ち良すぎてさらに指を取り込もうと、ロイの脚に己の足を絡みつかせ、ピタリとくっつく。 
 子宮が心臓に取って変わったんじゃないかと疑うくらい、皮膚を突き破る勢いでどくどく脈打った。
 そのうちに、マチルダはもぞもぞしだす。
 どうしようもない排尿感。
 下腹に力を入れるほど、脳が指令を出す。
「ロ、ロイ! 離して! で、出るわ! 」
 このままでは、シーツを汚してしまう。
 他所様の屋敷でお漏らしなんて洒落にもならない。
 それなのにロイは「出して良いぞ」なんて、ニヤニヤ笑いながら促してきた。意地悪く指遣いを速める。
「い、いや! やめて! 」
「流れに身を任せた方が楽だぞ」
 マチルダの頭が白く爆ぜた。
 彼女は曲線を描いて吹き出す潮に、きゃああああ! とめいいっぱい叫んでいた。

















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