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官能小説家アリア
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「あらあら。私の派遣した男性は、大成功だったわけね。お子様を一夜で大人の女性に変えてくれたわ」
書き直した原稿をそんなふうに批評するミス・レイチェルは、次々に捲っていく。
「まああ! あの石頭も、なかなかやるじゃない! 」
「何ですか、その石頭って」
「あの男のことよ」
ニヤリ、と敏腕女社長は口元を歪めた。
「あんな見た目に反して、考え方は古くて硬いから」
「紳士って言ってください」
ケイムは女性のエスコートは上手いし、何より優しい。どのような職業の女性に対しても、充分過ぎるくらいなフェミニストだ。
「それに、別にジョナサン卿をモデルにはしてません」
「そうかしら? この描写なんて彼そのものじゃない」
原稿の一部を指差す。
先日の交わりが、何の脚色もなく記されていた。
「ふうん。あの男のおしべは、こんなふうにめしべにくっつくのね」
「だから、あくまで創作です! 」
顔を真っ赤にして否定したところで、この女社長には筒抜けだが、それでもアリアは否定したい。
「なかなか良いんじゃない? 」
ミス・レイチェルからそのようなお言葉をいただくなんて。
この二年、原稿を持ち込みして初めてのことだ。
「じゃあ、本になるのね! 」
執務机に手をついて、前のめりになるアリア。
「まだ、駄目よ」
首を横に振り、距離を詰めたアリアの鼻先を人差し指で押し退けるミス・レイチェル。
ふと、何かを思い出したように、机の引き出しを開けた。
「そうだわ。フレットウェル社が出す広告誌に載せる原稿を頼まれていたの。誰かいないかって。あなたに任せたわ」
「私で良いの? 」
「勿論。うちの作家は連載で忙しいし」
「どうせ、私はヒマよ」
「あなたが今、書いている小説を提供なさいな」
アリアが書いているのは、御伽話をモチーフにした官能小説だ。
「え。でも」
「今のあなたなら、読者を掴んで話さないわよ」
広告誌に載せるくらいだから、もっと小難しい、畏まった小説の方が良いのではなかろうか。
いや、それなら、わざわざウェストクリス社に依頼はしないだろう。
ということは、依頼主はその手の話を所望しているということか。
「勿論、ペンネームでね」
ミス・レイチェルはウィンクする。
子爵令嬢の立場にあり、デビュー前の身。そんな少女が一丁前に濃厚な男女の姓行為を書き連ねているなんて知れたら、とんだスキャンダルだ。
「そうだわ。あなた、貸本屋は行ったことないでしょ? 紹介状を書いてあげるわ。訪れてみなさいな」
ついで、といった具合に、ミス・レイチェルは提案する。
彼女は何やら企みを持った笑みを口元に浮かべていた。
書き直した原稿をそんなふうに批評するミス・レイチェルは、次々に捲っていく。
「まああ! あの石頭も、なかなかやるじゃない! 」
「何ですか、その石頭って」
「あの男のことよ」
ニヤリ、と敏腕女社長は口元を歪めた。
「あんな見た目に反して、考え方は古くて硬いから」
「紳士って言ってください」
ケイムは女性のエスコートは上手いし、何より優しい。どのような職業の女性に対しても、充分過ぎるくらいなフェミニストだ。
「それに、別にジョナサン卿をモデルにはしてません」
「そうかしら? この描写なんて彼そのものじゃない」
原稿の一部を指差す。
先日の交わりが、何の脚色もなく記されていた。
「ふうん。あの男のおしべは、こんなふうにめしべにくっつくのね」
「だから、あくまで創作です! 」
顔を真っ赤にして否定したところで、この女社長には筒抜けだが、それでもアリアは否定したい。
「なかなか良いんじゃない? 」
ミス・レイチェルからそのようなお言葉をいただくなんて。
この二年、原稿を持ち込みして初めてのことだ。
「じゃあ、本になるのね! 」
執務机に手をついて、前のめりになるアリア。
「まだ、駄目よ」
首を横に振り、距離を詰めたアリアの鼻先を人差し指で押し退けるミス・レイチェル。
ふと、何かを思い出したように、机の引き出しを開けた。
「そうだわ。フレットウェル社が出す広告誌に載せる原稿を頼まれていたの。誰かいないかって。あなたに任せたわ」
「私で良いの? 」
「勿論。うちの作家は連載で忙しいし」
「どうせ、私はヒマよ」
「あなたが今、書いている小説を提供なさいな」
アリアが書いているのは、御伽話をモチーフにした官能小説だ。
「え。でも」
「今のあなたなら、読者を掴んで話さないわよ」
広告誌に載せるくらいだから、もっと小難しい、畏まった小説の方が良いのではなかろうか。
いや、それなら、わざわざウェストクリス社に依頼はしないだろう。
ということは、依頼主はその手の話を所望しているということか。
「勿論、ペンネームでね」
ミス・レイチェルはウィンクする。
子爵令嬢の立場にあり、デビュー前の身。そんな少女が一丁前に濃厚な男女の姓行為を書き連ねているなんて知れたら、とんだスキャンダルだ。
「そうだわ。あなた、貸本屋は行ったことないでしょ? 紹介状を書いてあげるわ。訪れてみなさいな」
ついで、といった具合に、ミス・レイチェルは提案する。
彼女は何やら企みを持った笑みを口元に浮かべていた。
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