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視線での会話

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 ひとしきり悔しがって、ようやく自身を納得させたようだ。ザクシスの表情は落ち着きを取り戻した。
「僕がスペンサーの息子と知っても、あなたも、町のやつらも何の反発を示さない。何故だ? 」
 思い切ったように口を開いた。
 スペンサー一家とは、悪名高き名前。
「子供相手にムキになるほど、この町の人間は柔なやつらじゃないからな」
「何だと」
「憎むに値しない」
「僕はあなた達を苦しめた男の子供だぞ」
 彼自身、いっそ清々しい。
「お前も、お前の母も苦しんだのは、アレハンドラの住人なら皆んな知っている」
 ザクシスの母は都会で一番の踊り子というだけで、無理矢理、スペンサーの妻の座につかされたのだ。
 スペンサーは美人の妻には早々に飽きて、子供が出来るなり都会に置き去りにし、アレハンドラに移住した。その間の母子への生活費は一切なかったと聞く。
「ビル・スペンサーは自分が逃れるために、お前達母子を人質にと町に呼び寄せた。そうだろう? 」
「そ、それは」
「スペンサーは死んだ」
「ああ」
「何で今になって、お前がノコノコと舞い戻ったのかわからない」
「そ、それは」
 ザクシスは言葉に窮する。
 自分を虐げた父の仇などとほざく真意は理解出来ないが、余程の事情があるのだろう。
 だが、お遊びはもう終わりだ。
「馬をやるから、さっさと故郷に帰れ」
 シェルビーはぼろぼろになった缶を拾いながら呟いた。
「い、嫌だ! 」
 ザクシスが遮る。
「僕はあなたに復讐するんだ! 」
 丸きり、聞き分けのない子供だ。ムキになり、体をぶるぶる震わせている。
「何の復讐だ? 」
 母子の足枷を絶った感謝されこそすれ、恨まれる謂れはない。
「ぼ、僕をこんなふうにしたあなたへの復讐だよ! 」
 ますます意味がわからず、シェルビーは眉間に皺を寄せた。
「泣かせて、ひれ伏させるまでは、僕はここに居残る! 」
 とんでもない宣言に、いらいらとシェルビーはこめかみに青筋を浮かせた。
「そ、それに、スペンサー一家の残党の始末をつけるのも、息子の僕の役目だ」
「そんな貧弱な腕前でか? 」
「こ、これでも十年、射撃の腕を磨いてきたんだ」
「実戦はしたことがないだろ」
「そ、それは」
「人を殺したこともないお坊ちゃんは、お呼びじゃない」
 今度こそザクシスに背を向けたシェルビーは、顔の横でひらひらと片手を振ってみせた。


「シェルビー。そのくらいにしてやりな」
 不意に嗄れた声が割って入る。
 いつの間にか起きていた父が、壁に凭れかかって一部始終を眺めていたのだ。
 父は物分かりの良い好々爺を装い、人懐っこく目を細める。
「スペンサーの息子を虐めてやるな。今にも泣きそうだぞ」
「だけど、父さん」
「お前は色恋に関して、からきし駄目だな。まあ、わしの責任ではあるがな」
「どういう意味? 」
「なあに。こいつは、きっとお前の役に立つ。何かの役にな」
 意味を含んだ眼差しをザクシスへと向けた。
 ザクシスは気まずそうに目線を泳がせた。
 何やら男同士、視線で会話をしている。
 鈍感なシェルビーには、彼らの会話にちっとも入れず、ますます眉間の皺は濃くなった。
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