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未来の息子が生まれましたが、

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「分かった~。見かけたら組合長室マスタールームに戻るよう伝えておくね。」
「はい…、いつも申し訳ございません。」
「いや…、こっちこそごめんね…。」


 しおしおと立ち去っていく銀色のコンチョを身に着けた後輩を見送り、その姿が見えなくなるとソフィアはスンッと笑顔を消し視線を下に下ろした。


「………エイデン…。」
「…だって、俺行きたくねぇもん。」


 語尾に『もん』、だなんて言葉をつけお山座りでいじけているのは、約半年前に一児の父親になったエイデン・デュ・シメオンだ。
 後輩が見えなくなったと同時に背景と同化していた姿は輪郭を現し、ブスッとした表情を隠そうともしない。そんな彼がこの魔導士組合のトップ、塔の組合長マスターだというのだから、部下は大変だろう。


「そもそもなんでソフィアがここに居んの!?俺仕事振ってないよね!?俺お前が仕事復帰するの反対なんだけど!?」

 そしてこれだ。

 私、旧姓ソフィア・メイフィールドは魔法学園の同級生であるエイデン・デュ・シメオンと学園卒業日に結婚した。
 エイデンは学生のうちから結婚したい、子どもが欲しいなどと言っていたが、私が卒業はしたいと訴えたため卒業式の日に入籍するという話で落ち着いたのだ。
 そして自然の流れで子どもを授かり、約半年前無事出産を終え、今に至るのだが…――。

「そもそも俺だってソフィアと一緒に産休・育休とるって言ったじゃん!?むしろ俺他の奴と比べて倍以上働いてんだけど、おかしいだろっ!」
「まぁ…、そんな制度魔導士にはないしね…。」


 そう。エイデンは私に誓った通り、妊娠・出産時は本当によく支えてくれた。それはもうエイデンのおじい様で育ての親であるゾル・デュ・シメオン様と屋敷を半壊にする程の大喧嘩をして無理やり仕事を減らし、臨月に入ると言葉通り休暇をもぎ取ったのだ。入学当初私を無視し、毛嫌いしていたあのエイデンが、だ。

 思えば婚約当初はエイデンの変化にすごく戸惑ったのを覚えている。スキンシップもそうだし、どうしちゃったの!?っていうぐらいストレートに好意を示してくれる様になったからだ。
 オデッセ先生には「そこまで仲良くなれとは言ってない。」とうじ虫でも見る様な目で言われたし、まさかエイデンの「足手まとい」「役に立たないから来るな」という発言全てが私の身を案じて発した言葉だとは露にも思わなかった。その心意を明かされた時の私はクリフとアニッサに爆笑され、からかわれるぐらいにはフリーズした。それぐらいエイデンの気持ちに私は気づいていなかったのだ。 
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