嘘でしょ？！私はヒロインじゃなくて、悪役令嬢になりたかったのに!!

【〜No１〜】

「貴方が、最近入学された男爵令嬢のリリアーナ・パヴェル嬢？」

（えっ？）

そう後ろから声を掛けられ、振り向こうとした瞬間、リリアーナは背中と肩を、強く両手で押されていた。
そのせいで変に足首を捻り、目の前の水溜りに思いっきり、頭からダイブして（ゴツン）と頭を殴打し、ずぶ濡れになった。

「いっ…痛い…」

リリアーナは、突然後ろから突き飛ばされたせいで受身も取れず、殴打した頭の痛さを堪えて、ずぶ濡れの身体を起こし頭を押さえていた。
頭の痛みは最初は、ズキズキとしていたが、段々とガンガン頭が割れるような激痛に変わっていた。

「これで少しは、身の程をわきまえたかしら？ふふっ…みっともない姿ね」

そう言ってリリアーナを、後ろから突き飛ばしたマリアールは、楽しそうに笑っていた。
だが、何時までも水溜りに座ったままで、頭を押さえて顔を歪めている、リリアーナを見て苛立った声を上げた。

「ちょっと…何時までも、そんな所で何をしてるのかしら？大袈裟な方ね！早く立ちなさいよ!!」

そう叫んでいる声が聞こえていたが、リリアーナは、水溜りに座り込んだまま、片手で頭を押さえたまま、ぐらりと体が揺れて地面に横たわった。
そして、頭の痛みに耐えられず、気が付けば意識が途切れていた。

「おい？何だアレは…水溜りに女生徒が倒れているぞ？」

「あれはマリアール・パルファージュ侯爵令嬢じやないのか？」

「まぁ…パルファージュ様は何故、女生徒の前で立っているのかしら…？」

通りがかりの生徒達が、口々にそんな事を言いながら、二人の側に集まりだした。
そこへ通りがかった、ロバート・アンダーソン第一王子と、側近達が急いで駆け寄ってきた。ロバートは青ざめた顔で、立ち尽くすマリアールと、倒れている女生徒の姿を見て声を上げた。

「オイお前達、手を貸してくれ」

そう言うとロバートは、濡れるのも構わず、リリアーナを抱き起こした。
すると、リリアーナの手が頭からパタリと落ちると（キャー!!　血ですわ！）（頭から血が!!）と集まって来た者達は、騒然となった。

「ロバート様、この女生徒は、私が医務室まで運びます」

そう言って側近のドナルドは、リリアーナを抱き上げると、医務室へ向う為に走り出していた。ロバートは、ドナルドの背を見ながら立ち上がると、マリアールをギッと睨み、声も掛けずに、ドナルドの後を追って走り出していた。

そしてその場に残ったもう一人の側近の、ヘンドリクスが呆然と立ち尽くすマリアールに、冷たい視線を向けて声をかけた。

「パルファージュ様、この状況を説明して頂けますか？何故あの女生徒は、水溜りに浸かったまま、頭から血を流して倒れていたのです？
そして、その側にいたパルファージュ様は、何故、放っていたのですか？」

そうヘンドリクスが問いかけるも、マリアールは何も答えず、ただ青ざめて（こんな筈では…）と呟いていた。

❝❝～～❞❞

その頃、医務室に運ばれたリリアーナは、医師と女性教員の手によって、着替えさせられてから、手当を受けていた。
泥水を被っていた頭や顔も、綺麗にされて頭には包帯を巻き、捻った足首にも包帯が巻かれていた。

「ロバート様、治療は終わりましたから、中に入ってもいいですよ？」

そう医療室から顔を出した、ブラットリーを見て、ロバートは顔を顰めた。

「ブラットリー、何故お前がここにいるんだ…？」

「えっ？ポールに頼まれたんですよ…。学会に参加するので2日間、学園の保健医を頼むと言われまして…。ほら、私は治癒魔法が使えますし、医療知識もありますからね…」

「そうか…。それは知らなかった…。所で女生徒の怪我は、どうなんだ？」

「怪我は、頭部が少し切れていたのと、強く打ち付けたせいか、頭にコブが出来ていました。それと左足首の捻挫と、擦り傷と打撲が少々ですね。女生徒の切れていた頭部の傷は、治癒魔法を掛けて完治させましたが、頭のコブと足首は、8割程度の治癒魔法に押さえています。ですから、一週間程は安静が必要ですよ」

「そうか…。大怪我でなくて良かった…。所で女生徒の顔に、傷が残る事はないだろうな？」

「ええ…大丈夫です。処置が早かったので、跡は残りませんでした。所で…この女生徒はどうしたんです？泥水まみれで、この怪我は…？」

ブラットリーが不思議そうに、ロバートに尋ねると、一緒に側にいたドナルドが、苛立ちながら代わりに答えた。

「パルファージュ様ですよ…」

「オイ!!ドナルド、まだ…決まった訳ではない…」

「ロバート様！パルファージュ様が、この女生徒を傷つけたに違いありません!!そうでなければ、何故目の前の女生徒が、水溜りの中で倒れているのに、助ける事もせず人を呼ぶ事もしないのです？」

ドナルドがそう話すと、医務室はしん…と静まり返った。

そこへ（コンコン）と乱暴に扉を叩く音が響くと、ヘンドリクスが苛立ちながら、医務室の中に入ってくるなり、ブラットリーの視線を無視して、報告を始めた。

「ロバート様、パルファージュ様は、何も話す事はないと仰られて、お帰りになりましたよ？！全くあの方は相変わらず、自分勝手な方ですね!!」

そう言って（ふぅ…）と溜め息を吐をついてから、話を続けた。

「ですが、目撃者がいました。
その者も、遠くから目撃しただけで、会話は解からないとの事でしたが…。
目撃者によると、女生徒が水溜りに倒れていた体を起こし、手で頭を押さえて苦しんでいる姿を見たパルファージュ様は、笑っていたそうです。そして女生徒が立ち上がらず、ずっと頭を押さえて苦しんでいると、今度は何か怒っている様子だったと申しておりました。
その間に女生徒は倒れたそうです…」

とヘンドリクスが告げると、その報告を聞いたロバートは、眉間にシワを寄せて黙り込み、ブラットリーは（はぁ…）と、溜め息をついた。