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つまり左遷ですね
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「シエナ・フェレメレン。そなたに図書塔への転属を命じる」
「……へ?」
え?なにこれ?悪役令嬢の断罪シーン?
私が転生したのはゲームでは絵も出てこないほどのモブなんだけどな。
そもそも、いきなり何を言い出すんだこの館長は。
私の表情から察したようで、館長は溜息をつきながらバサリと書類を置くと神妙な顔で腕を組みこちらを睨み上げる。王立図書館館長。司書の世界の最高権力者から飛ばされる圧は尋常ではない。私は思わずすくんだが、それでも足を地面に踏ん張らせた。
図書塔というのは、ここ王立図書館と同じ王宮内にある施設だが、扱いは全く違う。図書とは名ばかりでどちらかというと“監獄”の役割の方が強い。そこには大昔に大罪を犯した魔術師1人が閉じ込められており、特別な魔法書を使って彼を戒めているのだ。囚人は毎日そこにある魔法書を決められた冊数読まなければいけないのだが、読むたびに体に刻まれた印が魔法書に反応して囚人を戒めるのだという。
そこの仕事は激務であるのと同時に精神を削られるのだと言う。左遷された歴代の司書たちは1年を待たずに退職してしまうのだとか。
なんの落ち度もないはずなのにそこに異動と決めつけられては、さすがに黙ってはいられない。私は反論するべく慎重に館長の話に耳を傾けた。
「君は業務中であるのにも関わらず上司であるデュラン侯爵にしつこく言い寄っていたそうじゃないか。そんな司書を王立図書館内に置いておくわけにはいかぬ。クビにならなかっただけでもありがたいと思いなさい」
確かにデュラン侯爵は私の上司だ。にこやかで優しい上司の為良い印象はある。しかし、言い寄ったことはない。なぜなら彼は私の部署のトップであるためあまり話しかける機会が無いのだ。侯爵が話しかけてくださったら私も返すが……。
仕事のことで報告・連絡・相談をするのは彼の1つ下の役職についている上司になっているし、ましてやプライベートな話をした記憶もない。
私はそう反論したが、館長はふんと鼻を鳴らし一蹴する。
一体どうしたらそんな噂が広がるんだ?
固まっている私の傍らでは、なぜか私と一緒に呼び出された同僚のジネット・エルランジェがなぜかしゃっくりを上げて泣き始めた。
「……フェレメレン嬢には私から言って聞かせますのでどうかご再考を!」
「しかしだな、フェレメレン嬢は君に嫌がらせもしていたのだろう?」
館長はびっくりするほど優しい声をかける。ジネットは私の人事異動を嘆いて涙を流してくれているようなのだが、この1年間の私に対する態度を振り返ると決してそんな間柄ではなかったはず。
なぜか私が近くにいると不自然に転んで私のせいにしたり、私のありもしない噂を広げ回るのだ。
おかげで彼女に好意を持つ男性職員と一部の女性職員からは不興を買っている。私が何をしたって言うのだろうか。出会って間もない頃は一緒にカフェに行く仲だったのにな。
しかもこの館長、ジネットの話を鵜呑みにして周りの人からは何も聞き取りしていないんじゃ?
私は唇を噛んだ。
デュラン侯爵に想いを寄せているのは彼女の方だ。彼女は毎日朝と昼と帰宅前に侯爵に会いに行っている。それは王立図書館の給湯室に入り浸っている職員だけではなくほとんどの職員が知っていることだろう。ちょっとでもデュラン侯爵と話したのが気に食わなくて消したくなったのだろうか?
「恐れ入りますが、私はそのようなことはしておりません。確かにデュラン侯爵は私の上司でございますが、業務ではあまり関わりは無く、ましてやプライベートな話さえしたことは無いのですが?」
「今さら何を言い訳しておる」
館長はあからさまに不快な顔をして溜息をついた。
「館長、フェレメレン嬢もどなたかがしっかりと見張っていれば更生するはずですわ。どうかご再考を……」
なんで私が不良扱いなの?
てかあなた同僚なのにどこから目線?
「甘やかしてはならん。図書塔にいるハワード候爵は厳格なお方だ。彼に性根から直してもらいたまえ」
「待ってください!」
抗議する私の声には耳を貸さず、館長は傍に居た秘書に目で指示をすると、秘書は私の腕を引っ張り扉のところまで引きずり、そこから外に向かって突き飛ばしてきた。
床に手をついて身体を起こすと、ジネットも館長室を出て来た。後ろ手に扉を閉める彼女の目にもう涙は無い。
「良い気味ね。同じ学校出身だか何だかわからないけど、気安くデュラン様に近づくからいけないのよ」
そう言って、彼女はさっさと廊下の角へと消えていった。
え?ヒロイン怖?!
つまりこれはあれだ、嫉妬に駆られたジネットが私もデュラン侯爵が好きだと思ってしまっていたらしい。彼、【お色気担当】の攻略対象だもんね。それに近づく女を良く思わなかったのかも。
厄介なものを敵に回してしまった。ヒロインはゲームの中で絶対的王者だ。何が何でも彼女が中心に世界が動く。
というのも実は私、幼い頃に友だちと遊んでいる際に誤って湖に落ちて意識を失い、その際に前世の記憶を思い出して自分が乙女ゲーム『Secret Library~秘められた恋と魔法~』の世界に転生したことを知ったのだ。
前世の私はOLで、このゲームをプレイしたことはなかったのだが、このゲームの主人公が魔法書を操る司書で、司書は私の夢だったことを知っている友人から布教されていたので内容は何となく知っていた。
このまま左遷されて左遷先でも不興を買えば、私の司書生命は危うい。せっかく前世では諦めざるを得なかった司書になれたのに……。
……とりあえず、自室に戻ってこれからの作戦を練ろう。
「……へ?」
え?なにこれ?悪役令嬢の断罪シーン?
私が転生したのはゲームでは絵も出てこないほどのモブなんだけどな。
そもそも、いきなり何を言い出すんだこの館長は。
私の表情から察したようで、館長は溜息をつきながらバサリと書類を置くと神妙な顔で腕を組みこちらを睨み上げる。王立図書館館長。司書の世界の最高権力者から飛ばされる圧は尋常ではない。私は思わずすくんだが、それでも足を地面に踏ん張らせた。
図書塔というのは、ここ王立図書館と同じ王宮内にある施設だが、扱いは全く違う。図書とは名ばかりでどちらかというと“監獄”の役割の方が強い。そこには大昔に大罪を犯した魔術師1人が閉じ込められており、特別な魔法書を使って彼を戒めているのだ。囚人は毎日そこにある魔法書を決められた冊数読まなければいけないのだが、読むたびに体に刻まれた印が魔法書に反応して囚人を戒めるのだという。
そこの仕事は激務であるのと同時に精神を削られるのだと言う。左遷された歴代の司書たちは1年を待たずに退職してしまうのだとか。
なんの落ち度もないはずなのにそこに異動と決めつけられては、さすがに黙ってはいられない。私は反論するべく慎重に館長の話に耳を傾けた。
「君は業務中であるのにも関わらず上司であるデュラン侯爵にしつこく言い寄っていたそうじゃないか。そんな司書を王立図書館内に置いておくわけにはいかぬ。クビにならなかっただけでもありがたいと思いなさい」
確かにデュラン侯爵は私の上司だ。にこやかで優しい上司の為良い印象はある。しかし、言い寄ったことはない。なぜなら彼は私の部署のトップであるためあまり話しかける機会が無いのだ。侯爵が話しかけてくださったら私も返すが……。
仕事のことで報告・連絡・相談をするのは彼の1つ下の役職についている上司になっているし、ましてやプライベートな話をした記憶もない。
私はそう反論したが、館長はふんと鼻を鳴らし一蹴する。
一体どうしたらそんな噂が広がるんだ?
固まっている私の傍らでは、なぜか私と一緒に呼び出された同僚のジネット・エルランジェがなぜかしゃっくりを上げて泣き始めた。
「……フェレメレン嬢には私から言って聞かせますのでどうかご再考を!」
「しかしだな、フェレメレン嬢は君に嫌がらせもしていたのだろう?」
館長はびっくりするほど優しい声をかける。ジネットは私の人事異動を嘆いて涙を流してくれているようなのだが、この1年間の私に対する態度を振り返ると決してそんな間柄ではなかったはず。
なぜか私が近くにいると不自然に転んで私のせいにしたり、私のありもしない噂を広げ回るのだ。
おかげで彼女に好意を持つ男性職員と一部の女性職員からは不興を買っている。私が何をしたって言うのだろうか。出会って間もない頃は一緒にカフェに行く仲だったのにな。
しかもこの館長、ジネットの話を鵜呑みにして周りの人からは何も聞き取りしていないんじゃ?
私は唇を噛んだ。
デュラン侯爵に想いを寄せているのは彼女の方だ。彼女は毎日朝と昼と帰宅前に侯爵に会いに行っている。それは王立図書館の給湯室に入り浸っている職員だけではなくほとんどの職員が知っていることだろう。ちょっとでもデュラン侯爵と話したのが気に食わなくて消したくなったのだろうか?
「恐れ入りますが、私はそのようなことはしておりません。確かにデュラン侯爵は私の上司でございますが、業務ではあまり関わりは無く、ましてやプライベートな話さえしたことは無いのですが?」
「今さら何を言い訳しておる」
館長はあからさまに不快な顔をして溜息をついた。
「館長、フェレメレン嬢もどなたかがしっかりと見張っていれば更生するはずですわ。どうかご再考を……」
なんで私が不良扱いなの?
てかあなた同僚なのにどこから目線?
「甘やかしてはならん。図書塔にいるハワード候爵は厳格なお方だ。彼に性根から直してもらいたまえ」
「待ってください!」
抗議する私の声には耳を貸さず、館長は傍に居た秘書に目で指示をすると、秘書は私の腕を引っ張り扉のところまで引きずり、そこから外に向かって突き飛ばしてきた。
床に手をついて身体を起こすと、ジネットも館長室を出て来た。後ろ手に扉を閉める彼女の目にもう涙は無い。
「良い気味ね。同じ学校出身だか何だかわからないけど、気安くデュラン様に近づくからいけないのよ」
そう言って、彼女はさっさと廊下の角へと消えていった。
え?ヒロイン怖?!
つまりこれはあれだ、嫉妬に駆られたジネットが私もデュラン侯爵が好きだと思ってしまっていたらしい。彼、【お色気担当】の攻略対象だもんね。それに近づく女を良く思わなかったのかも。
厄介なものを敵に回してしまった。ヒロインはゲームの中で絶対的王者だ。何が何でも彼女が中心に世界が動く。
というのも実は私、幼い頃に友だちと遊んでいる際に誤って湖に落ちて意識を失い、その際に前世の記憶を思い出して自分が乙女ゲーム『Secret Library~秘められた恋と魔法~』の世界に転生したことを知ったのだ。
前世の私はOLで、このゲームをプレイしたことはなかったのだが、このゲームの主人公が魔法書を操る司書で、司書は私の夢だったことを知っている友人から布教されていたので内容は何となく知っていた。
このまま左遷されて左遷先でも不興を買えば、私の司書生命は危うい。せっかく前世では諦めざるを得なかった司書になれたのに……。
……とりあえず、自室に戻ってこれからの作戦を練ろう。
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