3 / 48
麗らかな朝とざわめく心と
しおりを挟む
麗らかな天気が見守ってくれる再出発の朝、私は図書塔の扉と睨めっこしている。かれこれ20分、深呼吸してはドアノッカーに触れようとするのだが、いかんせん手が震える。
だって、中で待っているのは鬼上司と名高いハワード候爵。しかも、意中の人と2人きりのところ私が入っていくなんて、どう思われるのか想像しただけで胃が痛い。
あまりの様子に扉の前で警備している騎士の2人が心配してくれた。
「ほら、もう一度深呼吸したら大丈夫だ」
「頑張れ!気合いだ!」
「そ、そうですね!スーハー!」
騎士の2人に両側から声援を送ってもらい励まされて私は深く息を吸って、吸って、吸って、吐き出した。深呼吸して上を見上げると、空まで伸びるような塔がこちらを見下ろしている気がした。
騎士様が傍に居てくれるから怖くない、大丈夫。でも、傍に居てくれるのって扉までなんだよな!
そう思うとやはり心細い。
図書塔は限られた人しか入られない。騎士であっても許可がなければ入れないのだ。頼もしい騎士の温かな視線に見守られつつ私はドアノッカーに手をかけ、数回叩く。するとドアノッカーの装飾であるフクロウがくちばしを動かし、そこから男性の声で返事が聞こえてきたかと思うと、扉が開かれた。
扉から出てきた人物を見て、私は思わず息を呑んだ。その人物は夜空のような紺色の髪を持ち、瞳は透き通った氷のような水色だ。その端正な顔立ちが目と鼻の先に現れて私は思わず固まってしまった。さすが乙女ゲームの世界。攻略対象でもないモブでもイケメンが多い。……これから毎日この顔を見るの、慣れるのかな?
いかんいかん!厳しいお方の前でこんなアホ面を晒したら何と言われるか。それに惚れてしまったらマジでこんどこそ私の司書人生消えてしまう。
急いで顔面を整えて再び彼の顔を見ると、あちらも何やら奇妙な表情で私をじっと見ていた。なんだか、複雑そうな顔だ。
そりゃあ、好きな人と2人きりだったのにこんな小娘がいきなり来たら複雑よね。
私はひとまず笑顔で簡単に挨拶をすることにした。
「初めまして、本日からこちらに配属になりましたシエナ・フェレメレンです。早くこちらでの仕事を覚えられるよう最善を尽くしますのでよろしくお願い致します」
「ああ、遅かったな」
ハワード候爵はそう言うなりスタスタと階段を上がり始めた。私は扉を閉めてついて行く。
遅かったなって……あ、もしかして初日はもっと早く来いってこと?一応指定された時間の30分前なんだけど。それにしても素っ気ない。せめてこれから頑張っていこうなーくらい聞かせて欲しかった。
期待はしてないけど、鬼上司って聞いてたから期待はしていなかったけど。なんだか売られていく何かのような気持ちで彼の後に続き塔の中を進んでゆく。
「すご……」
塔の中は外観よりも広く感じた。魔法書を収める場所だからそれなりに色んな魔術が付与されているのかもしれない。入ってすぐには倉庫代わりの小部屋と階段があり、見上げれば壁は全て本棚である。窓にはステンドグラスがはめ込まれており、陽の光が入り込むと幻想的な影が床に落ちる。この装飾にも魔術が込められており、簡単には割れないそうだ。ハワード候爵によると、囚人は1・2階部分には入ってこれないらしい。したがって、この辺りの本はここを管理する司書が自由に持ち込めるようだ。
管理する司書の執務室は一応あり、図書監獄塔の司書長であるハワード候爵の執務室は2階部分、私は3階部分にある。……私の部屋は囚人さん入ってこれるんですね。なんだか恐ろしくなってきた。
しかも、なんだかこの塔に入ってから視線を感じる。人は私とハワード候爵と囚人さんだけしかいないはずだ。……もしかして霊とか?
同僚から聞いたのだが、ここに配属されて辞めていった人の中には幽霊に追いかけられたからって人もいたらしい……聞かなきゃよかった。
急に寒気がしてきた。ぞわりとする感覚に逃げ出したい気持ちを抑えてハワード候爵の後を追いかける。
ハワード候爵に私の執務室まで案内してもらうと、候爵は簡単に私の仕事について説明してくれた。
私のここでの仕事は、悲しいことにほとんどが雑務だ。食事や洗濯ものの運搬や掃除、本棚の整理や本の手入れや事務処理。あとは魔法書が本部の王立図書館から送り込まれてきたら魔法を読み解き適正な本棚を選定して並べたり、魔力が弱ってきた本を見つけて王立図書館に転送することや蔵書のリスト作成。……まあ、そこは王立図書館でもしていた司書らしい仕事かもしれない。
あとは、ノア・モルガンつまり囚人さんの身の回りの世話と監視である。私みたいに非力な司書が務まるのかというと、これもまた先人たちの技術の結晶のおかげでできるのである。囚人さんが私に攻撃しようとしたり逃げ出そうとしたら私たち監視の司書は図書塔の本棚に触れて彼に魔法をかければ拘束できる。彼の身体には特殊な印が刻まれており、その印はこの図書塔と連動しているのだ。
「不満そうだな。雑務が嫌なら今すぐにでも辞表を書けばよい。何なら紙とペンを用意してやってもいいぞ」
「へ……?」
私はハワード候爵の顔を見た。彼はこの上なく冷たい目で私を見ている。その口の端は上がっており、いかにも挑発して楽しんでいると言った感じだ。私はさすがにかっとなった。
「いいえ、不満はありません。どのような形であれ本を通して国の役に立つことが私の望みです」
「……そうか、その意気込みがいつまで続くか見物だな」
ハワード候爵は鼻で笑った。
「いつまで突っ立っている?囚人に顔合わせするぞ」
「……はい」
たぶん、すごく嫌われている。
マイナススタートを感じた私は気が重くなる一方であった。
だって、中で待っているのは鬼上司と名高いハワード候爵。しかも、意中の人と2人きりのところ私が入っていくなんて、どう思われるのか想像しただけで胃が痛い。
あまりの様子に扉の前で警備している騎士の2人が心配してくれた。
「ほら、もう一度深呼吸したら大丈夫だ」
「頑張れ!気合いだ!」
「そ、そうですね!スーハー!」
騎士の2人に両側から声援を送ってもらい励まされて私は深く息を吸って、吸って、吸って、吐き出した。深呼吸して上を見上げると、空まで伸びるような塔がこちらを見下ろしている気がした。
騎士様が傍に居てくれるから怖くない、大丈夫。でも、傍に居てくれるのって扉までなんだよな!
そう思うとやはり心細い。
図書塔は限られた人しか入られない。騎士であっても許可がなければ入れないのだ。頼もしい騎士の温かな視線に見守られつつ私はドアノッカーに手をかけ、数回叩く。するとドアノッカーの装飾であるフクロウがくちばしを動かし、そこから男性の声で返事が聞こえてきたかと思うと、扉が開かれた。
扉から出てきた人物を見て、私は思わず息を呑んだ。その人物は夜空のような紺色の髪を持ち、瞳は透き通った氷のような水色だ。その端正な顔立ちが目と鼻の先に現れて私は思わず固まってしまった。さすが乙女ゲームの世界。攻略対象でもないモブでもイケメンが多い。……これから毎日この顔を見るの、慣れるのかな?
いかんいかん!厳しいお方の前でこんなアホ面を晒したら何と言われるか。それに惚れてしまったらマジでこんどこそ私の司書人生消えてしまう。
急いで顔面を整えて再び彼の顔を見ると、あちらも何やら奇妙な表情で私をじっと見ていた。なんだか、複雑そうな顔だ。
そりゃあ、好きな人と2人きりだったのにこんな小娘がいきなり来たら複雑よね。
私はひとまず笑顔で簡単に挨拶をすることにした。
「初めまして、本日からこちらに配属になりましたシエナ・フェレメレンです。早くこちらでの仕事を覚えられるよう最善を尽くしますのでよろしくお願い致します」
「ああ、遅かったな」
ハワード候爵はそう言うなりスタスタと階段を上がり始めた。私は扉を閉めてついて行く。
遅かったなって……あ、もしかして初日はもっと早く来いってこと?一応指定された時間の30分前なんだけど。それにしても素っ気ない。せめてこれから頑張っていこうなーくらい聞かせて欲しかった。
期待はしてないけど、鬼上司って聞いてたから期待はしていなかったけど。なんだか売られていく何かのような気持ちで彼の後に続き塔の中を進んでゆく。
「すご……」
塔の中は外観よりも広く感じた。魔法書を収める場所だからそれなりに色んな魔術が付与されているのかもしれない。入ってすぐには倉庫代わりの小部屋と階段があり、見上げれば壁は全て本棚である。窓にはステンドグラスがはめ込まれており、陽の光が入り込むと幻想的な影が床に落ちる。この装飾にも魔術が込められており、簡単には割れないそうだ。ハワード候爵によると、囚人は1・2階部分には入ってこれないらしい。したがって、この辺りの本はここを管理する司書が自由に持ち込めるようだ。
管理する司書の執務室は一応あり、図書監獄塔の司書長であるハワード候爵の執務室は2階部分、私は3階部分にある。……私の部屋は囚人さん入ってこれるんですね。なんだか恐ろしくなってきた。
しかも、なんだかこの塔に入ってから視線を感じる。人は私とハワード候爵と囚人さんだけしかいないはずだ。……もしかして霊とか?
同僚から聞いたのだが、ここに配属されて辞めていった人の中には幽霊に追いかけられたからって人もいたらしい……聞かなきゃよかった。
急に寒気がしてきた。ぞわりとする感覚に逃げ出したい気持ちを抑えてハワード候爵の後を追いかける。
ハワード候爵に私の執務室まで案内してもらうと、候爵は簡単に私の仕事について説明してくれた。
私のここでの仕事は、悲しいことにほとんどが雑務だ。食事や洗濯ものの運搬や掃除、本棚の整理や本の手入れや事務処理。あとは魔法書が本部の王立図書館から送り込まれてきたら魔法を読み解き適正な本棚を選定して並べたり、魔力が弱ってきた本を見つけて王立図書館に転送することや蔵書のリスト作成。……まあ、そこは王立図書館でもしていた司書らしい仕事かもしれない。
あとは、ノア・モルガンつまり囚人さんの身の回りの世話と監視である。私みたいに非力な司書が務まるのかというと、これもまた先人たちの技術の結晶のおかげでできるのである。囚人さんが私に攻撃しようとしたり逃げ出そうとしたら私たち監視の司書は図書塔の本棚に触れて彼に魔法をかければ拘束できる。彼の身体には特殊な印が刻まれており、その印はこの図書塔と連動しているのだ。
「不満そうだな。雑務が嫌なら今すぐにでも辞表を書けばよい。何なら紙とペンを用意してやってもいいぞ」
「へ……?」
私はハワード候爵の顔を見た。彼はこの上なく冷たい目で私を見ている。その口の端は上がっており、いかにも挑発して楽しんでいると言った感じだ。私はさすがにかっとなった。
「いいえ、不満はありません。どのような形であれ本を通して国の役に立つことが私の望みです」
「……そうか、その意気込みがいつまで続くか見物だな」
ハワード候爵は鼻で笑った。
「いつまで突っ立っている?囚人に顔合わせするぞ」
「……はい」
たぶん、すごく嫌われている。
マイナススタートを感じた私は気が重くなる一方であった。
23
あなたにおすすめの小説
私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。
さら
恋愛
私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。
そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。
王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。
私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。
――でも、それは間違いだった。
辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。
やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。
王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。
無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。
裏切りから始まる癒しの恋。
厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~
浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。
「これってゲームの強制力?!」
周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。
※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。
巻き込まれて婚約破棄になった私は静かに舞台を去ったはずが、隣国の王太子に溺愛されてしまった!
ユウ
恋愛
伯爵令嬢ジゼルはある騒動に巻き込まれとばっちりに合いそうな下級生を庇って大怪我を負ってしまう。
学園内での大事件となり、体に傷を負った事で婚約者にも捨てられ、学園にも居場所がなくなった事で悲しみに暮れる…。
「好都合だわ。これでお役御免だわ」
――…はずもなかった。
婚約者は他の女性にお熱で、死にかけた婚約者に一切の関心もなく、学園では派閥争いをしており正直どうでも良かった。
大切なのは兄と伯爵家だった。
何かも失ったジゼルだったが隣国の王太子殿下に何故か好意をもたれてしまい波紋を呼んでしまうのだった。
春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~
古駒フミ
恋愛
教師との悲恋、そして突然の死をもって転生をした少女、シャーロット・ジェム。凍れる国にて、小さな魔法屋を営んでいた。名門学園からの推薦状が届いたことにより、平和だった日々に暗雲が訪れるように。
今世も彼女に死は訪れる――未来を望むには二つ。
――ヤンデレからもたらされる愛によって、囲われる未来か。そして。
――小さくて可愛いモフモフ、女神の眷属と共に乗り越えていくか。
鳥籠に囚われるカナリア色の髪の少女、ヤンデレホイホイの彼女が抗っていく物語。
生きていく物語。
小説家になろう様でも連載中です。
看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎
倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。
栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。
「責任、取って?」
噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。
手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。
けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。
看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。
それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる