【本編完結済】うろ覚えの転生令嬢は勘違いで上司の恋を応援する

柳葉うら

文字の大きさ
41 / 48

プロローグのその前から(※ディラン視点)

しおりを挟む
「いいか?今日から来る司書官にちょっかいをかけるなよ?」
「へーへー。どーんだけ言って聞かすつもりなんですかい?」

 むしろ、いくら言っても足りないくらいだ。
 なぜならこいつは2つ前の前世では、彼女が初めてここに来た日に魔法をかけて変な幻覚を見させたのだから。今回は阻止してやる。

 今日、ようやくシエナはここに来る。

 初めて彼女と出会ったのは、2つ前の前世の、幼い頃。
 エドワールとお忍びでフェレメレン領を訪れた時のことだ。

 その日、父上は緊急の召集で城に向かうこととなり、護衛という名の監視役が1人減ったため、自由の身になったエドワールにここぞとばかりに連れまわされた。

 あいつの気まぐれで大人たちから離れて湖の近くを歩いていると、悲鳴が聞こえてきた。

 駆けつけてみると、シエナが猫と一緒に湖に落ちてしまっていた。
 湖に入り彼女に近づくと、彼女は腕をいっぱいに伸ばして猫が沈まないよう守っていた。
 手を伸ばし、もう少しで彼女の腕を掴めるといったところで、彼女の身体は力が抜けてしまい湖に呑み込まれてゆく。
 私は急いで猫を掴んでエドワールに投げて渡し、湖に潜り彼女を引き上げた。

 その腕は細くて、手は小さくて、抱えているとぐったりと力が抜けている彼女の身体の儚さに驚いたことは今でも覚えている。

 岸に上げると彼女は息をしておらず、すぐに蘇生の処置に取り掛かった。

 やがて重ねていた唇が動いて、私は彼女の顔を見た。
 息を吹き返し、ゆっくりと瞼が開かれると、彼女の金色の瞳が姿を現し、私を捕らえた。

 その瞳に、釘付けになった。

 彼女の目を縁取る長い睫毛が頬に落とす影や、彼女の顔にはりつき水を滴らせている髪のことも、一日たりとも忘れたことはない。

 朧げな意識の彼女の手を握ると、弱々しくも握り返された。そのことが、とても嬉しかった。心の奥に、今まで感じたことのない気持ちが広がった。

 やがてフェレメレン家の使用人が彼女の名前を呼んで駆け付けてきたのでそのまま引き渡した。
 その時にはエドワールの正体が知られてはいけないため、名乗らずに離れた。

 エドワールが助けた猫を連れて行ったため、その猫を引き取り家に迎えた。
 その猫こそが、図書塔の猫警備隊隊長のシモンの母猫である。

 後日エドワールが調べてくれたところ、シエナは無事に回復したそうだ。
 その後もなぜかエドワールは彼女のことを調べては報告してくれたため、私は彼女の動向を把握していた。

 ……まあ、彼女のお義兄様とも交流があるパスカルに自分で探りを入れていたがな。

 その次に会ったのは王立図書館の中だった。
 彼女はまだ学生で、慈善活動で子どもたちに絵本の読み聞かせをしていた。

 司書養成学校に通っているとは聞いていたが、成長した彼女の外見までは知らなかった。それでも、一目であの時の子だと分かった。

 子ども以上に目を輝かせて朗読している姿を、何度か見に行った。

 1回目の人生でも彼女は図書塔に配属された。

 、私はちっとも守れなかった。
 シエナは、私を守るために盾になって死んだ。

 モルガンから取り出された悪魔はエルランジェ嬢が眠らせたらしい。

 パスカルと共に事態を終息させたエルランジェ嬢は塔に来て、私の腕の中で冷たくなったシエナを見て泣き叫んだ。

 なぜ、なぜどれだけ先回りしても死んでしまうのかと。

 どういう事なんだ?
 こうなることを知っていたのか?

 不審に思ってエルランジェ嬢に話を聞いたところ、信じられないことを告げられた。

 エルランジェ嬢は何度も過去へと転生を繰り返し、シエナを生かそうと試行錯誤しているのだと。

 やがてノアが回復すると、元王宮魔術師団員でもある彼の協力を経て転生魔法を編み出してもらった。複雑で、成功するかもわからない最上級魔法だ。
 しかし、私もシエナを守るべくそれを試した。

 幸いにも魔法は上手くいって、過去に転生できた。

 2回目の人生ではシエナが図書塔に配属にならないようにした。

 館長に根回して彼女を辞めさせて領地に戻したが、それでもお義兄様と一緒に建国祭の準備をしに来て死んでしまった。

 目の届かない所で死んだ彼女の訃報を聞いた時には、本当に気が狂いそうになった。

 ぜったいに、君を死なせない。君が死んでしまっては、どんな平和な世界であったとしても幸せな物語とは言えないのだ。
 今度はもう、私の手の中で守るしかない。

 ドアノッカーの音がして、私は1階に降りる。扉を開けると、少し緊張した面持ちの彼女が立っている。

「初めまして、本日からこちらに配属になりましたシエナ・フェレメレンです。早くこちらでの仕事を覚えられるよう最善を尽くしますのでよろしくお願い致します」

 3回目となる”初対面”。
  そういえば、前回の”初対面”はいきなりフェレメレン家に婚約の話を持ち込みに行ったから、お義兄様に随分警戒されていたな。
 あの時はフェレメレン家の侍女頭を名乗る女性が助け舟を出してくれたのを覚えている。

 彼女と話せて嬉しいのに、ずっと待ちぼうけを喰らっていたものだから少し意地悪してやりたくなる。

「ああ、遅かったな」

 ずっと待っていた。先回りして、先回りして、来たる日に備えてきた。
 だから私たちはもう、君を守る準備はできている。

 さあ、君と私たちが幸せになれる物語を始めよう。



 と、まあ意気込んで今日まで戦ってきた。

 今こうやって、城の応接間のソファに並んで座っているうちに眠ってしまったシエナが私に身体を預けてくれているのが、どれだけ幸福なことか。

 ただ気がかりなのは、今までの人生では名前で呼び合う間柄だったのだが、今世では作戦のために距離を取っていたこともあり、彼女の中での私はまだ上司であるということだ。

 早くまた呼んで欲しい。この気持ちはいつまで抑えられるだろうか。

 どうにか落ち着かせるために、贅沢を言うものではないと自分に言い聞かせている。
 なぜなら私はやっとのことで、この手からすり抜けるばかりだった彼女を捕まえられたのだから。
 今はこれ以上を望まず、この幸せを噛みしめよう。

 ……しかしだな、気がかりは尽きないばかりなんだ。
 なんせ、私がモルガンに想いを寄せているとシエナが勘違いしていたとは藪から棒である。
 それを聞いてからずっと、口では言い表せない想いを抱えているのは事実。
 


 ……そうだな、敢えて言うとしたら、「マジか……」である。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

巻き込まれて婚約破棄になった私は静かに舞台を去ったはずが、隣国の王太子に溺愛されてしまった!

ユウ
恋愛
伯爵令嬢ジゼルはある騒動に巻き込まれとばっちりに合いそうな下級生を庇って大怪我を負ってしまう。 学園内での大事件となり、体に傷を負った事で婚約者にも捨てられ、学園にも居場所がなくなった事で悲しみに暮れる…。 「好都合だわ。これでお役御免だわ」 ――…はずもなかった。          婚約者は他の女性にお熱で、死にかけた婚約者に一切の関心もなく、学園では派閥争いをしており正直どうでも良かった。 大切なのは兄と伯爵家だった。 何かも失ったジゼルだったが隣国の王太子殿下に何故か好意をもたれてしまい波紋を呼んでしまうのだった。

春の女神は知っている。~モフモフと力を合わせて、ヤンデレメリバフラグ回避してみせます!~

古駒フミ
恋愛
教師との悲恋、そして突然の死をもって転生をした少女、シャーロット・ジェム。凍れる国にて、小さな魔法屋を営んでいた。名門学園からの推薦状が届いたことにより、平和だった日々に暗雲が訪れるように。 今世も彼女に死は訪れる――未来を望むには二つ。 ――ヤンデレからもたらされる愛によって、囲われる未来か。そして。 ――小さくて可愛いモフモフ、女神の眷属と共に乗り越えていくか。 鳥籠に囚われるカナリア色の髪の少女、ヤンデレホイホイの彼女が抗っていく物語。 生きていく物語。 小説家になろう様でも連載中です。

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

処理中です...