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旅人との出会い

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 目覚める。ジスの顔以外何も見えない。長い髪がカーテンのように周りの景色を遮断している。顔を覗き込んでいたようだ。押しのけて上体を起こす。まだ最初の森の中だった。

「おー、起きたな。じゃー帰るぞ」
「え、薬草は……いや、それよりもあの化け物は!!」

意識が覚醒し、おぞましい物を思い出す。

「薬草はもう採れた。お前が手伝ってくれただろ?」
「俺は獣に襲われただけで……」
「ニシカケハはホロオオカミなどの獣に寄生して宿主を操り、養分を得るんだ」

なるほど、肉を咀嚼する時の獣らしからぬ緩慢な動きは寄生されていたからと言われると納得がいく。ニシカケハというのがジスが求めていた薬草なのだろう。

「おめえが噛まれてるとこをオレが仕留めて収穫したんだ」

少し誇らしげである。

「助けてくれたのか、ありがとう」

続けて言う。

「あの……ジス、ところで俺の傷口についてる根っこみたいなのはなんなんだろう?」
「ニシカケハだ」
「は?じゃあ俺、俺は……いやだ、俺はああなるのか!?なんでそんな……やめてくれ!」

血走った目を思い出す。あれだけ強く噛まれ、血も出ていたのに痛みを感じないためおかしいと思っていた。あまりの恐怖に若干涙目になりながら叫ぶ。

「そんな叫んでるとまた寄ってくるぞ」
「ひぅ……」
「保存して運ぶにはそれが1番なんだ。痛みもないだろ?麻酔みたいなもんだ。時間が経てば取り除ける。あとニシカケハは人には適応出来ないぞ」
「じゃあ俺死なない……?」

小声で尋ねる

「おう」

よかった。心の底から安堵する。
 正直少し家に帰りたかったが俺の異世界生活は始まったばかりだと気を引き締める思いで立ち上がる。
貧血で目眩を起こしたのだろう。平衡感覚が鈍り崩れ落ちそうになったところをジスに支えられた。小柄な割にはしっかりとしていて、安心して体を預けられる。

「麻酔が切れる前に着いた方がいいな」

そう言うとジスは俺を抱き抱え、森の中を凄いスピードで駆け抜けた。暫く呆気に取られていたが我に返る。

「すごい!驚いたよ、こんなに、早く、走れるんだな!」

振動が激しいため途切れ途切れに言葉を紡ぐ。

「当然だ」

自信満々なところが鼻につく。
そうこうしているうちに森を抜け、町にたどり着いた。
 俺が神社で願った通りの中世ヨーロッパ風の世界観だ。石畳が敷きつめられた道、中央に通る静かな水路、気の梁が剥き出しで幾何学的な模様を作る白い壁の家々は正に昔教科書で見た物そのままだった。
 ジスは一件の家に入ると俺を床に放り投げ、大声で家主を呼び出した。

「モニカーー!薬草採ったー!あとコジローもー!」

 ダダダダッと階段をかける音、バンッと勢いよく扉を開く音と共に姿を現した人物は腰まである金髪と空色の瞳を持った女性だった。

「ジスちゃん!おかえり!めっちゃ早かったね!えらいえらいえらいよーー!」

 麻の半袖シャツに革の短パンという露出が多く動きやすそうな服装の彼女は少しでも触れ合う面積を増やすようにジスを抱きしめ、わしゃわしゃと髪を撫でた。豊満な胸に押し潰されたジスは苦しそうだが満更でもなさそうである。

「当たり前だな!オレ様が採ったんだ!今回は鮮度も抜群だぞ!」

 それどころか見上げた顔は満面の笑みで、しっぽをブンブンと振っている。左右にではなく回転しているところを見ると相当嬉しいに違いない。
 今までの無表情気味で淡々とした印象がガラリと変わった。上手く言えないが、なんだか雰囲気がポコポコしている。
 モニカと呼ばれた女性は床に投げ飛ばされた俺にようやく気が付く。

「ジスちゃん怪我した人にニシカケハ使ってあげたの?えらい、可愛すぎる……」

相当溺愛しているようだ。彼女は俺に向き直ると改めて言った。

「あたし、モニカって言います。ジスちゃんと一緒に旅してるんだ」

ジスに向かっていた時の語気の軽い楽しそうな口調のままで自己紹介をする。これが彼女の通常なのだろう。明るくて元気そう、好印象だ。

「渡 小次郎です。あの、気がついたら森にいて……ここがどこだか分からなくて……」

 言葉につまりながらここまでのことをかいつまんで説明する。ようやくしっかりした人と話すことが出来て安心から涙が出そうになる。

「身寄りがないってことかな?だったらジスが拾ってきたのもなにかの縁だし、傷が治るまで私たちが面倒みるよ。部屋は上の階の西側でいいかな?」

説明を一通り聞いたモニカは着々と俺がここで暮らすための説明をし始める。
とてもありがたい申し出だがどうしようかとジスの反応をちらりと伺った。

「朝食と昼食は私が用意するとして……部屋は三つしかないからジスは私の部屋に移動かな」

とてもご満悦そうだ。

「じゃあ、お世話になります」

そう言うと二人とも満面の笑みで俺を迎え入れた。 ジスの笑みはモニカに向けられたものであったが、そしてモニカは喋っている間ずっとジスを撫で続けていた。仲が良さそうで何よりである。

「旅の仲間は実はもう一人いるんだ、今の時間は本屋にいると思うから会いに行こう」

ニシカケハを取り除いた俺に包帯を巻き付けながらモニカは楽しそうにそう言った。




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