からだにおいしい料理店・しんどふじ ~雨のち晴れときどき猫が降るでしょう~

景綱

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雨のち晴れときどき猫が降るでしょう

悲劇は突然に

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 九ヶ月前に遡る。

 眠い、眠くてたまらない。昨日の出荷量は半端なかった。もちろん、残業だった。毎日毎日、こんなにも洋服を出荷するなんて。どんだけ売れているのだろう。まあ、全国だからそうなるのだろう。量販店、百貨店と店舗は多いからな。それにしたって多過ぎだろう。

 あっ、昨日じゃなくて仕事終わったのは今朝のことか。それなのに夕方にはもう会社に来ているのだから不思議なものだ。曜日の感覚がなくなるのも頷ける。こういうのって労働基準法にふれたりしないのだろうか。よくわからないけど、働き過ぎな気もする。まあ、毎日残業ってわけじゃないから問題ないのかもしれない。本当にそうなのか。
 働き方改革とかの話はあるけど、うまくいくのかどうか。正直疑問だ。

 それにしても眠い。気づけば欠伸が。おっと、まずい。上司にでもみつかったら大変だ。そんな自分はついていない。この会社には昼間の勤務で採用されたっていうのに、夜勤をするはめになってしまった。愚痴を言ってもはじまらないか。自分が引き受けてしまったのだから。そうは言っても断れそうな雰囲気ではなかったけど。
 仁王様のような強面の部長に頼まれてはもう選択肢は決まったも同然だ。自分には断る勇気はない。

 ああ、眠い。ダメだダメだ。目を覚ませ。
 なんだか身体が重いし、こんなんで今日の勤務が務まるのだろうか。夜勤は辛いものだ。それに今日はかなり寒い。今年は暖冬だなんて言っていなかったか。まったく天気予報も当てにならない。ほら吐く息がこんなにも真っ白だ。ずっと外にいたら完全に凍死するな。そんなことはするつもりは毛頭ない。寒いのは苦手だ。極力外には出たくない。

「おはよう」
「ああ、梅村か。おはよう」

 夕方なのに『おはよう』というのは変かもしれないけど、夜勤をしているとそれが普通になってしまう。そんなことはどうでもいいことだ。

 今日は疲れもあるせいか、正直やる気がでない。けど、仕事だ。頑張らなくては。
 今日は出荷量が少なきゃいいけど。百貨店向けの洋服を仕分けたものを検品するのが自分の仕事だ。その前にメーカーからドライバーが持ってきた商品の数量チェックもある。それを仕分け担当へと引き渡さなきゃいけない。仕分けが終わればまた数量チェックが待っている。

 チェック、チェック、チェックの毎日だ。

 疲れていると数量チェックしながら居眠りしてしまうこともある。立って居眠りなんてありえないと思うだろうが、実際にあるのだから人とは凄いものだ。居眠りは褒められたものじゃないけど。何を言っている。褒めるどころか怒られることだ。ミスの連続になりうる行為だろう居眠りは。数量チェックが合わなきゃ仕事が長引くだけだ。つまり帰りが遅くなる。それだけは避けたい。
 今日もそうならないよう気をつけなきゃ。

 そうそう、ときどき震えがくるような商品がやってくることがある。なぜここに。なにかの間違いじゃないのかってくらい高価な商品がだぞ。その中でも一番の高額だったのが一千万円の毛皮のコートだ。誰がどう考えても場違いな商品だ。ここはそこまで管理が行き届いた施設じゃない。以前、ドライバーを装って盗難にあったことがあっただろう。
 そんな場所に一千万円の毛皮のコートだなんて。寒い冬じゃなくたって凍りついてしまうかもしれない。
 思い出しただけでも震えがくる。

 もしもまたそんなことがあれば、どこへ置けばいいのかと迷ってしまう。盗まれでもしたら最悪だ。責任なんかとれない。弁償しろと言われてもそんな金もない。そんなときはもう生きた心地がしない。触るのも怖い。汚さないように慎重に運ばなくてはならない。当然と言えば当然だがメーカーも考えて出荷してほしいものだ。
 まあ、一千万円の毛皮のコートが来たことは一度だけで二度目はなかった。もしかしたら、なにかの手違いだったのかもしれない。とにもかくにも問題が起きなかったことに感謝するとしよう。

 さてと、仕事、仕事。
 事務所のタイムカードを押して構内に出る。まだ、ドライバーは戻っていないせいか構内は静まり返っていた。

「淵沢、ちょっとからのコンテナを確認してきてくれ」

 柿本主任にそう頼まれて外へと出たところで「危ない」との声が飛んできた。
 えっ、なに。
 裕はあたりに目を向けた。

「うわぁっ」

 裕の目に飛び込んできたのはフォークリフトだった。嘘だろう、こっちに突っ込んで来る。なんで、どうして。馬鹿か、そんなことより早く逃げろ。死ぬぞ。頭で考えていることと身体がうまく繋がらない。

 ダメだ。来るな、来るな、止まってくれ。

 裕は動くことができずにフォークリフトと正面衝突してしまった。

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