猫縁日和

景綱

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第2章 ガンバレ、私

(2-5)

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  えっと、まずは前日の引き継ぎ内容確認か。

 これは自分が休んだ日の次の日だけになるか。あっ、自分が休みなら店も休みだ。覚えておけばいいのかも。いやいや、忘れるかもしれない。かもしれないじゃない、自分は完璧に忘れる。もう、そんなところに自信を持ってもしかたがないでしょ。

 きちんと引き継ぎ内容は、ノートに記載すること。
 しっかりメモ、メモ。

 定休日は水曜日。これ、重要。
 そう思って、違う、違うと否定した。休みが重要だなんて。仕事、頑張らなきゃダメでしょ。

「梨花さん、ちなみに水曜日は、ここの商店街全店休みだからねぇ。覚えておくといいよ」

 全店休み。
 そんな、それじゃ休みの日に商店街をぶらりと探索なんて、できないじゃない。
 しかたがないか。そのときは、ショッピングモールに行くしかない。けど、そんなことすら知らないでこの町で過ごしていたかと思うと、笑えてきた。

 三年だよ。この町にいるの。

 考えてみれば、当然なのか。
 平日は仕事だったし、買い物は駅前で済ませて帰宅でしょ。土日だって、商店街を歩いたことなんてない。近所でも、わざわざ行こうなんて思わなかった。なんだか、申し訳なく思えた。

「梨花さん、大丈夫かい。聞いているかい」
「あっ、はい。大丈夫です」

 きちんと話を聞かなきゃ。すぐ違うこと考えちゃう。悪い癖だ。

「配送されてきた商品確認も大事だからね」
「はい」
「梨花さん、返事はいいね」

 返事は、か。
 それが自分の取り柄なのかも。それだけじゃないとは思うけど。 

 それで、配送されてくるのは月曜日と金曜日が切り花で、土曜日が鉢植えか。配送がある日は、値付けとPOPも書かなきゃ。

 なるほど。梨花は書いたメモを見ながら、頷く。

 そうだ、花の名前も覚えなきゃいけない。
 覚えられるだろうか。花って結構たくさんあるから、ちょっと心配。

「あら、梨花さん。難しい顔をしちゃって。もしかして、この仕事、やりたくなくなったかい」
「えっ、いえいえ、そんなことはないです」

 思わぬところを突っ込まれて、気があせる。焦る必要なんてないのに。これじゃ、本当に花屋の仕事がしたくないみたいじゃない。
 それにしても、そんなに難しい顔をしていただろうか。梨花は苦笑いを浮かべて、頭を掻いた。

「そうかい。それならいいけど」

 節子は、少しだけ頬を緩ませて話を続けた。
 余計なこと、考えないでメモをとらなきゃ。
 レジに、釣銭の準備をして。シャッターも開けて、店の外の掃除。陳列作業とともに、傷んだ花を下げる。で、いよいよ開店ってことか。

 開店したら少しは落ち着けるのかなと思いきや、切り花の水替えに手入れ、鉢植えの水やりに手入れ。仕入れた切り花の水揚げもある。もちろん、その間に客がくれば接客もしなきゃいけない。ああ、なんだか頭がパニック起こしそう。きちんと出来るだろうか。いや、やらなきゃダメ。気づくと溜め息を漏らしていた。

「おやおや、やっぱり、ヤル気がなくなっちまったかい」

 節子は恵比須顔をしていた。

「いえ、私、頑張ります」
「ふふふ、そうかい」
「あの、花の手入れなんですけど、いまいちよくわからなくて。もうちょっと詳しく教えてもらえないでしょうか。水揚げとかもよくわからないし」
「そうだねぇ。それじゃ、実際にやってみせるから、よく見ていなさいねぇ」
「はい」

 切り花の水替えのやり方や水揚げのやり方を店舗にある切り花を持ってきて、説明してくれた。
 メモをとりつつ、繰り返しその言葉を反芻する。

 自分でもやってみきゃ。
 節子のやり方を、逐一ちくいち見逃さないように集中する。その間、メモを忘れずに書き留める。なんだか、忙しい。そう思いながらも、梨花は見様見真似でやってみた。

 器を洗剤で洗っていく。切り花の茎も流水で流して、ヌメリを落として。それで、変色した茎は五ミリから一センチくらい切ると。

 切り花を入れる桶には三センチから五センチの水を入れてと。
 やりながら、メモもしっかりとっていく。

 次は、えっと、配送された切り花の水揚げか。


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