猫縁日和

景綱

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第8章 幸せの扉

(8-6)

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 すみれの結婚式当日。

 結婚式場は、小高い丘の上にある緑と花が溢れる広い庭のある式場だった。チャペルとパーティー会場が別になっていて可愛らしい建物だった。

 さすがに十一月だと外は寒い。その寒さも、花を愛でているだけで少しは忘れられた。

 シクラメンにツワブキ、あれはネリネだっただろうか。モミジもある。色づきはじめているけど、もうちょっとあとに来たほうが綺麗だろう。

 チャペルに入り、新婦側の席に案内されて座る。なんだかいいなこの雰囲気。
 梨花は披露宴ひろうえんだけでなく式にも参加した。もちろん、横には颯がいた。膝の上にはツバキもいる。キャリーバッグにおとなしく入っての参加だ。ペットも参加できる結婚式場があるなんて知らなかった。

「ツバキ、すみれさんの結婚式に参加できてよかったね」
「ニャッ」
「もうちょっとではじまるからね」

 キャリーバッグに入ったツバキに微笑みかける。

「なあ、ツバキは喜んでいるのか。狭いところで窮屈きゅうくつじゃないのか」
「颯さん、ツバキはきっと喜んでいるわよ。すみれさんの結婚式だってわかっているはずだもの」
「そうかなぁ」
「ニャニャッ」
「ほら、ワクワクしているから問題ないって」
「本当か」

 颯はフッと笑ってツバキを見ていた。
 本当のところはツバキがどう思っているかわからない。賢いツバキなら、きっと何か感じ取ってはいると思いたい。

「梨花さん、そろそろはじまるようだねぇ」

 節子の言葉に後ろへ振り返る。まだ扉は開かれていない。新郎の努はすでに神父の前ですみれが来るのを待っている。なんだかドキドキしてきた。自分の結婚式じゃないのに。

 オルガンの演奏がはじまり、扉が開く。
 ウェディングドレスを身を纏ったすみれが、父親とともに一歩一歩ゆっくりと進んできた。

 綺麗だ。やっぱりスタイルが抜群だからドレスが似合う。
 すみれの相手が父親から努へと変わる。

 讃美歌斉唱さんびかせいしょうで、みんなの声が重なる。

 歌うことよりも幸せオーラを纏った二人に意識がいき、梨花はうっとりとみつめていた。
 ちかいの言葉、指輪交換、そして誓いのキス。

 隣にいる颯をチラッと見つつ、自分の結婚式を妄想した。すみれのようなスラっとしたスタイルじゃないけど自分もそれなりに綺麗になれるだろうか。颯はあの場に立ってくれるだろうか。誓いのキスを妄想して顔が火照ってしまう。
 妄想ばかりしていたせいか、あっという間に式は終わり退席となった。

 そうだ、ブーケトスがある。
 梨花はそのときを待った。

『すみれ、こっちに飛ばして』

 心の声が通じたのか、ブーケが梨花のほうに飛んでくる。これは取らなきゃ。手を伸ばしてブーケをしっかりと受け止めた。

 やった。これで颯と結婚できる。
 チラッと颯に目を向けたら、微笑みを向けてくれた。

「次は梨花さんの番だねぇ」

 後ろにいた節子がニコリとして声をかけてきた。

「節子さんたら」

 顔がなんだか熱い。きっと顔が赤くなっているだろう。

「颯さん、梨花さんを頼んだよ」
「は、はい。もちろんです」

 颯のその言葉に心があたたかくなる。

「聞いたかい。ツバキも証人じゃなくて、証猫だからねぇ」
「ニャニャッ」

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