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第8章 幸せの扉
(8-7)
しおりを挟む「今日は冷え込みますね」
梨花は手を擦り合わせてあたためる。
「そうだねぇ。ところで夜は、颯さんと会うのかい」
「ええ、まあ」
「クリスマス・イブだからねぇ。ポインセチアでも持っていくかい」
「えっ」
「あたしからのささやかなプレゼントだよ」
「ありがとうございます。遠慮なくいただきます」
梨花は頬を緩ませた。
クリスマスといえばポインセチアだ。
「そろそろ閉店にしようかねぇ」
「はい」
そこへタイミングよく颯が扉を開けて入ってきた。
「おや、お迎えが来たようだねぇ。梨花さん、後片付けは庄平さんとするから今日はおかえり」
「いいんですか」
「今日は特別だよ」
節子の笑みに梨花も微笑み返して「お言葉に甘えて、今日はかえりますね」とお辞儀した。
颯も節子にお辞儀をしている。
「あっ、節子さん、メリークリスマス」
梨花は思い出したように節子に声をかける。
「はい、メリークリスマス」
「それじゃ、行ってきます」
手を振って歩き出そうとしたとき、節子が梨花を呼び止めた。
「ポインセチアを忘れているよ」
「あっ、そうでした」
苦笑いを浮かべて「これ、大事にしますね」と梨花はポインセチアの鉢植えを抱えて、店をあとにした。
車に乗り込みイルミネーションが輝く駅前通りをぬけて、予約してあるレストランへと向かう。
どこもかしこもクリスマス一色で街が輝いている。
クリスマスか。今年は颯が隣にいてくれる。ひとりぼっちのクリスマスじゃない。二人で食事だなんて夢のようだ。
すみれは家族みんなでクリスマスを祝うらしい。それはそれで素敵だ。自分もそうなれるだろうか。颯の両親とはまだ会っていない。仲良くなれるだろうか。不安はあるけど、今はクリスマスを楽しもう。
「着いたよ」
イルミネーションで光輝く木々が店を囲んでいる。
梨花は颯とともにレストランへと入る。店内はアンティークな雰囲気があってオシャレなレストランだった。クリスマスだからか恋人同士と思われる人達が席を埋めている。そんな中、家族らしき人達もいた。
客層からは高級レストランというよりもどこかアットホームでリーズナブルな店のように梨花の目には映った。そんな店を選んだ颯に、どこかホッとする自分がいた。
「いらっしゃいませ」
店員に声をかけられて目を見張る。
「結衣さん」
「梨花さん、お兄ちゃん。メリークリスマス」
結衣に案内されて席へと着いた。
「結衣、頼んでおいた通りにお願いするよ」
「はい」
結衣は笑顔でお辞儀をすると行ってしまった。
「結衣さん、ここで働いているんですね」
「そうなんだ。驚いただろう」
「言ってくれればよかったのに、びっくりしちゃった」
「結衣が驚かしたいから黙っていてって言うからさ」
「そうなんだ」
元気そうで、よかった。やっぱり笑顔が一番だ。レストランでの接客の仕事は、結衣に合っているかもしれない。
「結衣は今、ソムリエの資格をとろうと頑張っているところなんだ」
「ソムリエ。そうか、頑張っているんだ。なら応援しなきゃ。あっ、でも今日はお酒を飲めないわね」
「まあね。運転しなきゃいけないから。梨花さんは飲んでもいいんだよ」
「いえ、やめておきます」
梨花はすみれの退院祝いのときのことを思い出して、苦笑いを浮かべた。
しばらくすると料理が運ばれてきた。
運んで来たのは結衣だった。梨花は結衣と話をしたかったが仕事中だから遠慮をした。
前菜から始まりスープ、魚料理、口直しのシャーベット、肉料理、デザートと出て来てコーヒーと焼き菓子でしめられた。どの料理も一口食べただけで幸せ気分になった。
大満足だ。
そう思っていたところ、颯が何かを取り出して目の前に。
えっ、これってもしかして。
キラリと光る指輪が。ダイヤだろうか。
「梨花さん、僕と結婚してください」
キタァーーーーー。
心臓がドクンドクンと忙しなく動き始める。ああ、もう涙が。化粧が落ちてしまう。
梨花は、慌ててハンカチで押し当て涙を拭う。
颯の顔が煌めく光とともに滲んで見えた。
こんな日がやってくるなんて。
そうだ、早く返事をしなきゃ。答えはすでに決まっている。
梨花はもう一度涙を拭い、「よろしくお願いします」と微笑んだ。
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