満月招き猫

景綱

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百万円の家を考える

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 ベッドに寝転がり天井を眺めた。
 百万円の家か。アルバイト生活の自分でも買える金額だ。冗談のような売値だけど本当のことなのだろうか。白昼夢でも見ていたってことはないはず。何を気にしている。ありえないだろう。悪徳不動産屋って可能性だってある。
 今度不動産屋に行ってみようか。外から様子を窺うだけでもいい。不動産屋の評判を聞くって手もあるか。悪徳不動産屋だとしたら何か問題が起きているだろう。ネットにも書かれているはずだ。
 スマホを片手に『二道不動産屋・評判』とのキーワードで検索してみた。

 えっと……。
 これといって悪い評判はないか。トラブルが起きた様子もない。
 悪徳不動産屋じゃないのか。
 んっ、これは。

『残念。百万円で家が買えると思ったのにな。リーフォーム済みで綺麗だったから本当に悔しい。招き猫が選ぶとか言っていたけどきっとどこかにカメラでも仕込まれていたんだわ。売り主さんがNG出したんだわ。もう、私のどこがいけなかったんだろう』

 間違いなくあの招き猫があった家のことだ。
 他にも同じようなブログをみつけた。
 なるほど。本当に百万円で買えるのか。だからこそ売り主が厳しい目で住人を選んでいるのだろう。何を基準に選んでいるのだろう。まだ買い手がみつかっていないってことは全員NGだったってことか。
 自分のようなアルバイト生活をしているパッとしない人間を選ぶはずないか。

 ふいに占いのことが頭を過る。
 いやいや、あの占いが当たっているはずがない。そうだろう。
 いい加減な占いだ。

 ああなんで気になるんだろう。わざわざ百万円出さなくたってここに家がある。あそこはここからそんなに離れていない。車だったら十分か十五分くらいで着くだろう。そう考えたら買う必要がない。
 引っ越しする必要はない。
 一人暮らししたい気もするけど。するのなら東京に近いほうがいい。あんなところ意味がない。そう思うのにどうしても頭から離れない。あの招き猫が気にかかる。
 あの家が占い師の話していた引っ越し先だとしたら。
 違う。そんなわけがない。
 ああ、もう。ムシャクシャする。賢は頭をグシャグャにしてベッドを叩く。

『運命に変化をもたらす』
『間違った選択をしたら最悪の運命を辿る』
『白猫』
『カラフルな招き猫』

 頭の中に占い師の言葉が浮かぶ。美月と言っただろうか。
 もしもあの占いが当たっているとしたらどうする。
 本当に運命の歯車は動きはじめているのだろうか。この家に何か起きるのか。引っ越しせざるを得ない状況に陥るのだろうか。それはなんだ。
 火事か。地震か。雷でも落ちてくるのか。それとも何か落下してくるとか。まさか飛行機が。それはないか。
 明日だろう。
 うっ。
 腹の上にパンが乗って来た。

「どうしたパン」

 パンは腹の上で香箱座りをして目を閉じていた。寝るのかよ。頭を撫でて話しかける。

「なあ、パン。おまえ占いとか信じるか」

 無言のパン。
 返事をするはずがない。

「そうだ。パンはカラフルな招き猫が住む人を選ぶなんて話を知っているか。一応同じ猫だろう」

 チラッとだけ目を開けたがすぐにまた寝てしまった。
 知っているはずがないか。知っていたとしても話せないか。パンが突然人のようにゆっくり立ち上がり話しはじめたらと思うと震えがくる。ホラーだ。我が家の飼い猫は猫又でしたなんてことはない。まだ二歳だ。猫又になりようがないだろう。

 百万円の家か。
 どうにも気になってしまう。もしもあそこに住めたのなら何かいいことがあるのだろうか。自分の年齢で家主だろう。そう考えたら魅力的だ。

 待てよ、実はあの家は事故物件とかって話はないだろうか。
 賢はスマホ片手にもう一度あの家のことを調べはじめた。
 これといって情報はなかった。買った後に幽霊騒動なんて嫌だ。その前に買えるかどうかわからない。招き猫が住人を選ぶんだろう。実は幽霊に強そうな人を選んでいるとか。それとも幽霊がいても気づかない人を選ぶのか。そんなこと見ただけでわかるはずがないか。
 まったく何を考えているのやら。
 今、家を買う必要なんてないだろう。

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