23 / 29
こいつが仙人?
しおりを挟む
「あれれ、おまえどうしちまった。赤子になっちまったのか。こりゃ凄い。やりがいがあるってもんだ」
ミーヤがゆっくりと下ろしてくれて声の主に目を向ける。
眩しい。目に光が飛び込んできて目の前に誰がいるのかわからなかった。これは後光か。違うのか。
「なんだ、なんだ。眩しかったか。おいら輝いているもんな。なんて嘘、嘘、カワウソだ。暗い中からいきなり外に出りゃそうなるさ」
今の言葉ってまさか。
「ねぇ、あんたが仙人様だったの。違うでしょ」
「なんだおいらが仙人らしくないっていうのか。まあそうだろうな。だがおいらが仙人だ。見かけだけで判断するんじゃないぞ。いいな」
「わかったわよ」
「あはは、真面目なこと言っちゃった。美月ちゃん、笑顔、笑顔。美月ちゃんは笑ったほうが可愛いんだからさ」
なんだ、こいつ。見かけで判断するなと言っているがそんな問題じゃない。話し方だけでも仙人だとは思えない。賢は手を翳して眇め見る。光に少しずつなれていくと目の前の仙人の姿がはっきりしていく。
やっぱり、こいつだったか。
「おっ、やっと目が慣れてきたか。どうだ、おいらが仙人だ。やっぱりおまえは夢を持っていたじゃないか。夢を捨ててなんていなかったじゃないか」
夢月楼街で会ったコツメカワウソが本当に仙人なのか。
「嘘だろう。何かの冗談だろう」
「な、何を言う。おいらが正真正銘偉い仙人だ。カワウソだけど嘘じゃないぞ」
またダジャレか。やっぱりこいつはカワウソと嘘を絡めて言う癖がついているみたいだ。単に好きなだけって話もあるか。
「話し方といいその見た感じといいどうみても仙人じゃないだろう」
「ダメだな。わかっていない。目で見たものだけで判断してはダメだ。だから絵に輝きがないんだ。真のアーティストになれないんだ」
「なんだと、おまえに何がわかる」
「ちょっと待って。賢、話せるの」
えっ、話せる。美月は何を言っている。
んっ、あれ。そういえば。
「あーーー、えーーー。そのーーー。思ったことが言える。凄い」
賢は普通に話せることに心が躍った。もしかして赤ちゃんの姿にも変化が起きたかもと思ったがそこについての変化はなかった。残念。
コツメカワウソが咳払いをひとつして「おいらの力だ。崇めろ」と胸を張ってドヤ顔をしていた。こいつ、どう考えても仙人とは思えない。
「おまえ凄いな。よしよし」
ミーヤがコツメカワウソの頭を撫でていた。
「こら、やめろ。おいらは仙人だぞ。まだわからないのか」
もしかして怒っているのか。不思議なのだが見た目の可愛らしさのせいか怖くない。声も子供っぽいせいもあるのかもしれない。威厳の『い』の字も感じられない。
「なんだ、なんだ、なんだ。顔を擦り付けるな」
どこにいたのかパンがコツメカワウソに寄り添っていた。
パンはミーヤに抱き上げられて自分のそばに下ろされた。
「パン、おまえはやっぱり自分と一緒にいないとな」
パンは小さく鳴くと頬擦りしてきた。
うっ、なんだか臭い。もしかしてコツメカワウソの臭いがついたのか。あいつ、風呂に入っていないだろう。
「おい、今おまえ変なこと考えただろう。例えばおいらが臭いとか」
「よくわかったな」
「むむむ、馬鹿にしたな。おいらは仙人だ。臭いなんか気にするな」
仙人と臭いとどう関係するのだろう。よくわからないこと言う。というか臭いと認めているんじゃないか。
それにしてもこうして会話できるってやっぱりいいな。
「ねぇ、ちょっと。そんな話はどうでもいいでしょ。賢が立派な画家になれるにはどうしたらいいのか話なさいよ」
美月がコツメカワウソを睨んでいた。
「あっ、はい」
完全にビビっている。仙人なら何を言われてもドンと構えていればいいのに。
「それじゃ、うーん。ダメだ。ちょっと待っていろ」
コツメカワウソが背を向けて肩を上下させた。何をしているのだろう。
「うわっ」
白煙が立ち込めてコツメカワウソの姿が消える。
「急に何するのよ。驚かせないでよね」
美月は煙を振り払い怒鳴り散らしていた。ミーヤはというと目を瞑り咳き込んでいた。パンも同じだ。
白煙が薄らいでいくとコツメカワウソの姿はなかった。消えたと思ったのだが違った。目の前に白鼠が鎮座していた。手には木の枝、頭には魔法使いみたいな三角帽子を被っていた。
「うむ、どうだ。これがおいらの真の姿だ。コツメカワウソの姿は借りの姿。気づかなかっただろう」
「わかるわけがないでしょ。馬鹿じゃないの」
「美月、言い過ぎ」
「ふん、いいのよ。こんな仙人に賢を預けられないわ。私が賢の夢を叶える手段を考えてあげる」
「馬鹿者。おいらでなければ無理だ。さっきも言ったが見た目で判断しているうちは『夢は夢のまま』だ。わからないのか」
「だからわからないって言ってんでしょ」
「おいらはおまえには言ってない。そっちの、賢だったか。おまえに話しているんだ」
美月は白鼠が手にしている木の枝で頭を叩かれてムッとした顔をしていた。
「自分ですか」
「そうだ。おまえだ。自分だけの物の見方を養え。何に関しても興味、好奇心、疑問を持て。見たものだけじゃなくその裏側に隠れたものを感じろ。自分なりの答えをつくるのだ」
なんだ、この感じは。さっきまでコツメカワウソには感じなかった風格がある。小さくなったのになぜだろう。言葉も心に突き刺さってくる。
こいつは本物の仙人なのかもしれない。
賢は仙人の言葉を深く感じ入った。
「そうだ、忘れていたおいらは『天琥』だ。よく覚えておけ」
『アマク』って名前か。それにしてもさっきまでのおちゃらけた感じはどこへいったのだろう。これが本当の姿ってことか。なんだか脇汗が噴き出てきた。
「ほら、美月。おまえも王族ならきちんと礼儀というものを身につけろ」
「痛い。なんで叩くのよ」
「おまえが丁度叩きやすい場所にいるからだ」
「なによ、それ。仙人でしょ。それこそ礼儀がなっていないんじゃないの」
美月はまたしても撓った木の枝でぶたれていた。
「ああもう、暴力反対」
天琥が再び枝を振り上げたのを見て堪らず止めに入った。
「止めるのが遅い。紳士たる者、淑女に優しくあれだ」
「おまえが言うな」
「うるさい、美月は黙れ。今の言葉は美月には適応しない。美月は淑女ではないからな」
天琥は何を言っているのだろう。矛盾しているだろう。
あっ、まずい。美月の顔が真っ赤になっている。目もつり上がっている。天琥、殺されちまうんじゃないのか。
「おい、ちょっと待て。冗談だ、冗談だって」
やっぱりこいつは仙人とは思えない。
美月に追い回される天琥の姿は威厳もなければ風格もない。
ミーヤがゆっくりと下ろしてくれて声の主に目を向ける。
眩しい。目に光が飛び込んできて目の前に誰がいるのかわからなかった。これは後光か。違うのか。
「なんだ、なんだ。眩しかったか。おいら輝いているもんな。なんて嘘、嘘、カワウソだ。暗い中からいきなり外に出りゃそうなるさ」
今の言葉ってまさか。
「ねぇ、あんたが仙人様だったの。違うでしょ」
「なんだおいらが仙人らしくないっていうのか。まあそうだろうな。だがおいらが仙人だ。見かけだけで判断するんじゃないぞ。いいな」
「わかったわよ」
「あはは、真面目なこと言っちゃった。美月ちゃん、笑顔、笑顔。美月ちゃんは笑ったほうが可愛いんだからさ」
なんだ、こいつ。見かけで判断するなと言っているがそんな問題じゃない。話し方だけでも仙人だとは思えない。賢は手を翳して眇め見る。光に少しずつなれていくと目の前の仙人の姿がはっきりしていく。
やっぱり、こいつだったか。
「おっ、やっと目が慣れてきたか。どうだ、おいらが仙人だ。やっぱりおまえは夢を持っていたじゃないか。夢を捨ててなんていなかったじゃないか」
夢月楼街で会ったコツメカワウソが本当に仙人なのか。
「嘘だろう。何かの冗談だろう」
「な、何を言う。おいらが正真正銘偉い仙人だ。カワウソだけど嘘じゃないぞ」
またダジャレか。やっぱりこいつはカワウソと嘘を絡めて言う癖がついているみたいだ。単に好きなだけって話もあるか。
「話し方といいその見た感じといいどうみても仙人じゃないだろう」
「ダメだな。わかっていない。目で見たものだけで判断してはダメだ。だから絵に輝きがないんだ。真のアーティストになれないんだ」
「なんだと、おまえに何がわかる」
「ちょっと待って。賢、話せるの」
えっ、話せる。美月は何を言っている。
んっ、あれ。そういえば。
「あーーー、えーーー。そのーーー。思ったことが言える。凄い」
賢は普通に話せることに心が躍った。もしかして赤ちゃんの姿にも変化が起きたかもと思ったがそこについての変化はなかった。残念。
コツメカワウソが咳払いをひとつして「おいらの力だ。崇めろ」と胸を張ってドヤ顔をしていた。こいつ、どう考えても仙人とは思えない。
「おまえ凄いな。よしよし」
ミーヤがコツメカワウソの頭を撫でていた。
「こら、やめろ。おいらは仙人だぞ。まだわからないのか」
もしかして怒っているのか。不思議なのだが見た目の可愛らしさのせいか怖くない。声も子供っぽいせいもあるのかもしれない。威厳の『い』の字も感じられない。
「なんだ、なんだ、なんだ。顔を擦り付けるな」
どこにいたのかパンがコツメカワウソに寄り添っていた。
パンはミーヤに抱き上げられて自分のそばに下ろされた。
「パン、おまえはやっぱり自分と一緒にいないとな」
パンは小さく鳴くと頬擦りしてきた。
うっ、なんだか臭い。もしかしてコツメカワウソの臭いがついたのか。あいつ、風呂に入っていないだろう。
「おい、今おまえ変なこと考えただろう。例えばおいらが臭いとか」
「よくわかったな」
「むむむ、馬鹿にしたな。おいらは仙人だ。臭いなんか気にするな」
仙人と臭いとどう関係するのだろう。よくわからないこと言う。というか臭いと認めているんじゃないか。
それにしてもこうして会話できるってやっぱりいいな。
「ねぇ、ちょっと。そんな話はどうでもいいでしょ。賢が立派な画家になれるにはどうしたらいいのか話なさいよ」
美月がコツメカワウソを睨んでいた。
「あっ、はい」
完全にビビっている。仙人なら何を言われてもドンと構えていればいいのに。
「それじゃ、うーん。ダメだ。ちょっと待っていろ」
コツメカワウソが背を向けて肩を上下させた。何をしているのだろう。
「うわっ」
白煙が立ち込めてコツメカワウソの姿が消える。
「急に何するのよ。驚かせないでよね」
美月は煙を振り払い怒鳴り散らしていた。ミーヤはというと目を瞑り咳き込んでいた。パンも同じだ。
白煙が薄らいでいくとコツメカワウソの姿はなかった。消えたと思ったのだが違った。目の前に白鼠が鎮座していた。手には木の枝、頭には魔法使いみたいな三角帽子を被っていた。
「うむ、どうだ。これがおいらの真の姿だ。コツメカワウソの姿は借りの姿。気づかなかっただろう」
「わかるわけがないでしょ。馬鹿じゃないの」
「美月、言い過ぎ」
「ふん、いいのよ。こんな仙人に賢を預けられないわ。私が賢の夢を叶える手段を考えてあげる」
「馬鹿者。おいらでなければ無理だ。さっきも言ったが見た目で判断しているうちは『夢は夢のまま』だ。わからないのか」
「だからわからないって言ってんでしょ」
「おいらはおまえには言ってない。そっちの、賢だったか。おまえに話しているんだ」
美月は白鼠が手にしている木の枝で頭を叩かれてムッとした顔をしていた。
「自分ですか」
「そうだ。おまえだ。自分だけの物の見方を養え。何に関しても興味、好奇心、疑問を持て。見たものだけじゃなくその裏側に隠れたものを感じろ。自分なりの答えをつくるのだ」
なんだ、この感じは。さっきまでコツメカワウソには感じなかった風格がある。小さくなったのになぜだろう。言葉も心に突き刺さってくる。
こいつは本物の仙人なのかもしれない。
賢は仙人の言葉を深く感じ入った。
「そうだ、忘れていたおいらは『天琥』だ。よく覚えておけ」
『アマク』って名前か。それにしてもさっきまでのおちゃらけた感じはどこへいったのだろう。これが本当の姿ってことか。なんだか脇汗が噴き出てきた。
「ほら、美月。おまえも王族ならきちんと礼儀というものを身につけろ」
「痛い。なんで叩くのよ」
「おまえが丁度叩きやすい場所にいるからだ」
「なによ、それ。仙人でしょ。それこそ礼儀がなっていないんじゃないの」
美月はまたしても撓った木の枝でぶたれていた。
「ああもう、暴力反対」
天琥が再び枝を振り上げたのを見て堪らず止めに入った。
「止めるのが遅い。紳士たる者、淑女に優しくあれだ」
「おまえが言うな」
「うるさい、美月は黙れ。今の言葉は美月には適応しない。美月は淑女ではないからな」
天琥は何を言っているのだろう。矛盾しているだろう。
あっ、まずい。美月の顔が真っ赤になっている。目もつり上がっている。天琥、殺されちまうんじゃないのか。
「おい、ちょっと待て。冗談だ、冗談だって」
やっぱりこいつは仙人とは思えない。
美月に追い回される天琥の姿は威厳もなければ風格もない。
0
あなたにおすすめの小説
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる