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10号室 手紙(前半)
しおりを挟むあっ⁉
突如、少女が飛び込んできた。いや、違う。ぶつかってきたというべきだ。曲がり角とは思わぬ展開が待っているものだ。ぶつかった拍子に抱きしめてしまうとは。
俺の心臓がドクンと跳ね上がる音を耳にした。もちろん、俺自身の心臓の音だ。少女の鼓動が身体に伝わってきたわけじゃない。本当にそうか。少女との密着具合からしたら鼓動が伝わることもあるかもしれない。いったい何を考えている。ちょっとは冷静になれ。舞い上がっている場合じゃない。
所謂、これは出逢い頭にぶつかるというちょっとした事故だ。決して俺が突然少女を抱き寄せたわけじゃない。まわりに誰もいなかったことに感謝すべきだろう。通行人がいたら、白い目で見られていたはずだ。それに変態ではないと断言しておこう。
それにしても黒髪が綺麗だ。微かに鼻腔を擽る心地よい香りもいい。
俺は何を考えている。これじゃやっぱり変態だ。犯罪に片足を踏み入れていると指摘されてもおかしくない。
少女のぬくもりにハッとなりすぐに回した腕を緩めてスッと一歩後退すると「ごめん」と謝った。悪いことをしたわけではない。これは不可抗力だ。けど、ここは謝るべきだ。だから、これでいい。
少女は左右に軽く頭を振り「私こそ」と呟いた。
よかった。少女は俺のこと変態とは思っていないようだ。
紺色のブレザーにチェックのスカート。胸元にはリボンも見える。どこかの高校の制服だろう。俯き加減の少女は、なんとなく顔色が悪く映った。具合でも悪いのだろうか。もしかして今ぶつかったことがショックで具合を悪くしたってことも。いやいや、考え過ぎだ。ならば、血色の悪い感じは何を意味するのだろうか。どうにも嫌な考えが浮かんでしまう。
「あの、大丈夫? 体調でも悪いの?」
そう声をかけたが、少女は「大丈夫です」とか細い声で話すとお辞儀をして小走りに駆けていってしまった。
本当に大丈夫なのだろうか。
走り去る少女の背中をみつめつつ、なぜか心が騒めいた。知り合いってわけじゃないから気にすることはないと言えばそれまでだが。
んっ、どうしたのだろう。
だいぶ先まで走っていった少女が急に立ち止まったかと思うと突然振り返り会釈してまた駆け出した。ふと笑みが浮かぶ。好きになってしまいそうだ。だがすぐにかぶりを振って考えを改める。
いい年したオヤジが女子高生とだなんて犯罪じゃないか。どう考えたって父親と娘くらいの年の差がある。今時、そんな夫婦もいることはいるが。いやいや、ありえない。そんな思いに囚われてしまった俺自身を罵倒する。変な想像するものじゃない。
ただあの青白い顔色は気にかかる。あれは『死相』かも。
俺は嘆息を漏らして今頭に浮かんだ考えを振り払った。走れるのだから問題はないのだろうという最終判断を下し少女のことは忘れることにした。
あれ? なんだろう。
足元に何かが落ちている。手に取ってみると、それはヘアクリップだった。少女が落としたのかもしれないと、視線を走り行く少女へと向けたところすでに姿は消えていた。
返そうにもどこの誰なのかわからない。捨てるわけにもいかず、持ち帰ることにした。
家路に着き、とりあえず机の抽斗にヘアクリップを入れる。そんなに高いものでもなさそうだから捨ててしまってもいいのかもしれない。一瞬悩んで、やっぱり保管しておこうと思い直す。もしかしたら、また出逢うこともあるかもしれない。近所だったらありえることだ。
だが、それきり少女と出逢うことはなかった。そして、時が経つとともに少女との記憶は頭の片隅に押しやられていった。
***
一年の時が経ったある日、ポストに一通の手紙が届いた。ただ差出人の名前がない。
小首を傾げて、誰からだろうと思案する。
『三間真司様』との綺麗な文字が一瞬光って見えてドキッとした。どうにも嫌な予感がする。開けずにゴミ箱に捨ててしまおうか。けど、もし大事な手紙だったらと思うと無下に扱えない。裏面に名前を書き忘れただけってこともある。
開ければわかることだ。
俺は開封して一枚の便箋を取り出して目を向けると、ハッとして身体を硬直させた。
『誰か助けて!』
赤い文字が飛び込んできた。文字が生きているかのように浮き上がってくる。すぐさま便箋を放り投げた。ありえない。俺は疲れているのかもしれない。
それにしてもあの赤い文字は、まさかとは思うが血文字じゃないだろうな。
放り投げた便箋は俺のほうにその赤い文字を見せつけている。背筋がゾクゾクッとした。
いったいなんなんだ。こんな手紙、誰が送り付けてきた。
ごくりと生唾を呑み込み、便箋を拾うとすぐにぐしゃぐしゃと丸めてしまった。気持ち悪さが込み上げてくる。悪戯だとしたら相当な悪趣味な奴だ。
おや、何か他にも文字が。
ぐしゃぐしゃにしてしまった便箋の裏側にも何か文字が見えた。ゆっくりと開いてみれば、ウェブサイトのURLのような文字列が記されてある。
パソコンに一瞬目を向ける。確認すべきだろうか。うーん、やっぱり余計なことはするべきじゃない。トラブルに巻き込まれるのは嫌だ。でも、悪戯じゃなく誰かが助けを求めているってこともあるのではないか。いや、それはな
いような。考えが二転三転してしまう。
俺の心は、絶対に確認なんかするべきじゃないと警笛を鳴らす。
無視したほうが賢明だ。果たして、常識ある人物がこんなことをするだろうか。無記名で、『誰か助けて!』との言葉のみを残す。その裏側にURLと思われる文字列が。冷静に考えて怪しむべきだろう。普通じゃない。
ネットで記入されたURLを開いたとたんウィルスに侵される可能性大だ。もしくは詐欺グループの仕掛けた罠で金銭を要求させられるかだ。どっちにしろ、いいことがないだろうと判断し手紙はゴミ箱行きとなった。
無視することが正解だったのだろう。数日経っても特に悪いことも起こらず平凡な日々を過ごした。だが、一週間経ったときまたしても手紙が届いた。まったく同じ『誰か助けて!』の言葉と裏側にURLが記されたもの。
いったい誰だ。性懲りもなくこんな馬鹿げたことをする奴は誰だ。詐欺とかじゃなくただの悪戯なのだろうか。俺を嫌いな誰かの仕業なのか。思い当る節はない。
そんなことより、意味がわからない。この手紙を出すことで何に面白味を感じているのかさっぱり理解出来ない。俺が怖がるとでも思っているのか。恐怖に慄く顔が見たいというのか。確かに怖いと言えば怖い。この先、良からぬことが起こる可能性も否めないのだから。
やはりこの手紙はゴミ箱行きだ。
その一週間後にも、更に一週間後にも同じように手紙は届いた。いつになったら終わるのか。手紙が届くというだけで、特におかしなことは何もない。
この手紙が意味することは何か。つい考えてしまう。本当に誰かが俺に助けを求めているというのか。それならば、名前と住所を書いてよこせばいいだろう。それとも、あのURLで何かのサイトを開けば答えが分かるとでもいうのか。
気になる。けど、足を踏み入れてはいけない気もする。
どうすればいい。
ゴミ箱に捨てた手紙に目を向ける。ダメだ、無視だ。それが一番だ。俺はそう自分に言い聞かせた。
ところが、その翌日事態は動き出した。
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