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19号室 家に憑く者(後半)
しおりを挟む「あら、美月ちゃん。どうしたの」
母が先にみつけてくれた。母の顔を見て、ホッとして瞳が潤む。私は母に気づかれないようにすぐに涙を拭いいつもの笑顔を見せて母に駆け寄った。
一緒に帰れば、大丈夫だ。そう思う反面、また門柱に睨み付ける顔があったらどうしようとの思いも湧いてくる。家に近づいてくると心拍数が上がってきてしまう。
大丈夫、きっと大丈夫。
母のあとに続いて門柱を通り過ぎるときにチラッと見たが、そこには顔はなかった。当たり前だ。あるはずがない。やっぱり何かを見間違ったのだろう。そう思っても何かがモヤモヤしていた。
その夜、どうにも気になって私は父と母に門柱の顔の話をした。けど、信じてくれなかった。ソラの死のショックで変なものが見えた気がしただけだと。
そうなのかもしれない。けど……。
私はいつも通りベッドに入って寝た。けどすぐに眠れなかった。つい考えてしまう。
ソラはもういない。寝ていたクッションも処分してしまった。カケルもいない。もしかして、あの般若の面も犬の死に関係しているのだろうか。そんなことあるはずがない。本当にそうだろうか。
なかなか眠れずに気づけば深夜二時を回ってしまった。
あれ、どこかで物音がする。カタカタカタと。
どこからするのだろう。
薄暗い部屋を見回して見る。音の出所がわからない。外からだろうか。窓から外を見遣ると、庭に人影があった。えっ、誰。後姿のようだ。
お稲荷様にお参りしているみたい。こんな夜中に。しかも、人の家にお参りしに来るだろうか。
その人影が揺れた。人とも思えない動きだ。ハッとした。まさか幽霊。その瞬間、振り返り目を光らせて睨み付ける老婆がいた。
「ひぃ」
すぐに窓から離れてベッドへ飛び乗り布団を被って目を閉じた。あの顔は門柱で見た般若だ。なんで、なんで、なんで。私は何も見なかった。そうよ、見ていない。早く寝なくちゃ。お願いだから、こっちに来ないで。
カラン……カラン、カラン。
突然、音が耳の傍で鳴り響く。何、この音。
チリリン、リンリン、チリリリリン。
やめて、お願いだから。鈴の音が頭の中に鳴り響く。
そのとき、窓が突然開け放たれて風が押し寄せてきた。
「いやーーーーー」
思わず叫んでいた。
目を閉じているはずなのに般若の面が目の前にニュッと現れて、「二度と犬を飼うな。さもなくば取り返しのつかないことが起こるぞ。狐神を脅かすな」としわがれた声で囁かれた。
「ごめんなさい。もう飼いません。だから、許してください。ごめんさない」
目に涙を溜めて必死に謝った。
「美月、大丈夫」
父の声に顔をあげると般若は消えて、父と母の顔がそこにあった。
私は父に抱きつき、声をあげて泣いた。
*
その後、近所のおばあさんに話を聞くことが出来た。おそらくお稲荷様を祀ったご先祖様が出てきたのだろうと話された。狐神の嫌いな犬を飼ったせいだと話した。
「美月ちゃんも嫌なことされたら怒るだろう。それと一緒さ。きっと犬が怖かったんだねぇ。狐さんのこと好きになってあげれば美月ちゃんを守ってくれるねぇ」
確かにそうだ。狐は怖くて仕方がなくあんなことをしてしまったのだろう。そう考えると申し訳なく思った。謝らなきゃと思った。
それ以来、犬は飼わないことにした。庭のお稲荷様に手を合わせることも毎朝欠かさずにした。心から謝罪の言葉も告げた。そのおかげなのか、おかしなことが起きることはなくなった。きっと許してくれたのだろう。そう信じたい。
あの般若は本当にご先祖様だったのだろうか。狐神が化けて出てきたという可能性もある。ただそれを確かめる術はない。
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