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20号室 午前二時に光る瞳
しおりを挟む今日は残業もなく定時で帰れる。
「保、お疲れさん」
「お疲れ様です」
物流倉庫での夜勤を終えて車に乗り込み、エンジンをかける。ひとつ大きく息を吐き、徐にラジオをつける。ベイエフエムのいつもの女性DJの声に頬を緩ます。さてと、帰ろう。
いつもと同じ真夜中の道。
夜勤か。正直、昼間の時間に働きたい。というか最初はそうだった。なのに、夜勤に回されてしまった。文句を言ってもしかたがない。夜勤は断りたかった。けど声に出た言葉は『頑張ります』だった。
そんなこと思い出すな。
ラジオからは聴いたことのない曲が聴こえてくる。
あれ、ここはどこだ。
赤信号で止まり、街並みを眺めて小首を傾げた。おかしいな、いつもの道を走っていたはずなのに。街灯もない暗い街並みが目の前にある。どう見ても記憶にない道だ。青信号になったもののまっすぐに進んでいいのかわからない。
俺は少しだけ車を走らせて側道へと車を止めた。こういうときは、カーナビだと思ったのだがなぜか画面が歪みなんの反応もしない。
「どうなっているんだ」
独り言を呟き、背凭れに身体を預ける。
「うっ」
突然、こめかみに鈍痛が走った。軽くかぶりを振り、眉間に皺を寄せて何気なく時計を見遣る。午前二時を少し回ったところだ。早く帰らなきゃ。そう思い、ハンドルに手をかけたとき、唸り声のような風が吹く。助手席側のほうからガサガサと草が揺れて、ビクッと身体を震わせる。
嫌だな、この感じ。
助手席側の窓から揺れる草が窺える。
んっ、あれは鳥居か。荒れ放題の草むらの先に隠れるように確かに鳥居らしきものがある。こんなところに神社があるのか。なぜかその鳥居から目が離せなくなった。心の中では早く車を動かせと叫んでいるのに、足はアクセルを押そうとしない。
ごくりと生唾を呑み込み、ハッとなる。
二つの赤く光るものが灯った。あれは目か。
ダメだ、早く車を。頼むから。額から玉のような汗が流れ落ちる。なぜだ、目が離せない。
気が付くと俺は車から降りて腰まである草の中を掻き分けて鳥居に向けて歩みを進めていた。
馬鹿、よせ。身体が勝手に動いてしまう。
「こっちへ来い」
女性の凛とした声が脳に響き渡る。
嫌だ、行きたくない。
「そうだ、こっちだ」
鳥居まであと一メートルとなったとき、白い手が飛び出して俺の左手首を鷲掴みにした。
ダメだ、俺はもう終わりだ。恐ろし過ぎて声も出ない。
そのとき突然雷が鳴り響き大粒の雨が叩き付けてきた。
「タモツ」
身体を突き抜けていくような背後からの声にビクンとなった。気が付くと車の中に俺はいた。女性DJの声が聴こえている。
名前を呼ぶ声は五年前に亡くなった父の声だった。助けてくれたのか。それとも夢だったのか。いや違う、赤黒くなった手の痕が俺の左手首に残っていた。
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