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第一話 謎の鍵が示す先
【二】おかしなことばかり
しおりを挟むいったい何を見ているのだろう。
本当に、あいつは猫なのか。
おかしなことにステップを踏んでいる。前後に運ぶ後ろ足に、両前足を左右に振る姿はどこか盆踊りを思い浮かべてしまう。あれはボックスステップなのか。
猫界のダンサーなのか。馬鹿な、そんな非現実的な話があるか。
遼哉は口を半開きにして呆然と眺めていた。
あっ、笑った。違う。目の錯覚だ。
目を擦り、もう一度見遣ると猫は踊りながら後退していきパッと姿を消した。ムーンウォークを連想してしまう。
遼哉は軽く頭を振り、小さく息を吐く。
見るべきはそこではない。猫が消えた。その事実をどう考える。
いや、待て。一度冷静になれ。よく考えてみろ。答えは明白じゃないか。
猫が消えたというのは間違いだ。スポットライトの光の枠外に行っただけだ。おそらく、奥の方に猫はいるのだろう。そう思った瞬間、突然明かりがなくなり再び漆黒の闇の世界が訪れた。
視線を彷徨わせて様子を窺う。
何も見えない。音もしない。暗さのせいか寒気を感じる。心細くもなっていく。
「なあ、猫。いや、猫さん。いるんだろう」
遼哉はそう呟いていた。
誰でもいいから、一緒にいてほしかった。
その思いが伝わったのか、闇が打ち破られて光に包まれた。思わず手を翳して瞼を閉じる。閉じた瞼の裏にぼんやりと光の残像が映り込んでいた。
目が痛い。眩し過ぎだ。それとも、強く瞼を閉じたせいか。
んっ、なんだ。物音がする。なんの音だろう。
コツン、コツンとの音が鼓膜を軽く揺さぶっていくる。
靴音だろうか。誰かいるのだろうか。一歩も動いていないのだから、自分の靴音ではない。
ゆっくりと瞼を開き、眇め見るとぼんやりとだがあたりの景色が映り出していく。ここはなんの部屋だろう。ぼやけた景色に首を捻る。あれは本棚か。たくさん並んでいる。図書館。違うか。棚はあるが、何も置かれていないみたいだ。
少しずつ目が慣れ始めたところに声が飛ぶ。
「あんた、高宮家の者なの?」
女の子の声だ。不思議なことに、足元から声がする。寝転がりながら話してでもいるのか。そんな行儀の悪いことするだろうか。まだ眩しさに慣れていない瞳には、赤い小さな者の姿が映り込んでいた。そんな馬鹿なと小首を傾げた。
「そんな言い方は失礼ですよ。ここにいるってことはきっと高宮家の人間ですよ。そうですよね」
今度は男の子か。またしても足元から声がする。目の端からぼんやりと青色の小さなものが現れた。何が起きているのだろう。
「そんなことより、おいら腹減った。なんか食い物ないのか」
もうひとりいるのか。今の声も男の子だ。同じく足元から声はする。今度は黄色か。
徐々に焦点があっていき、それぞれの形を成していく。足元で話すおかしな奴らはいったい何者だろうかと目を向けて、顔が強張った。
慣れてきた目に映ったのは、小人だった。
幻か、これは。
猫の背中に乗った赤と青と黄色の昔の人が着るような服を着た小人がそこにいた。上目遣いでみつめてくるその姿がなんとも愛らしい。そうだ、この服は確か水干とか言わなかっただろうか。女の子は巫女さんみたいだ。
あまりにも可愛らしくて、自然と頬が緩む。
触りたいとの衝動に駆られて、小人たちへと近づこうとしたときに誰かが右肩を押してきた。
身体がぐらりと傾いていく。もう一人いたのかと押された手の先へと顔を向けると、ひとりの老人の姿が映った。
源じぃ。
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