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第一話 謎の鍵が示す先
【三】気になる言葉
しおりを挟む「遼哉、あとのこと頼んだぞ」
源じぃは、いったい何を言っているのだろう。というか、入院していたはずだ。どうしてここに。
病院なのか、ここは。
そうじゃない。目に映るのはいくつもある大きな本棚だ。
うわわっ、本が落ちてくる。
両脇に聳え立つ本棚から本が雪崩のように落ちてくる。なぜだ。さっきまで一冊も本なんてなかったはずだ。どこから湧いて出た。
このままだと本に押しつぶされてしまう。
源じぃ、そこにいるのだろう。ギュッと天に向かって手を伸ばして救いを求めた。
源じぃ。いないの。
誰か。誰でもいい。た、助けてくれ。
「大丈夫だ、本は味方だ。自分を信じるのだぞ」
えっ、味方。
何を言っている。そんなことよりも助けてくれ。
源じぃの顔が覗き込み、すぐに消えた。その直後、分厚い事典が脇腹に直撃した。
顔を顰めて、脇腹を押さえ込み呻き声をあげた。
あれ、ここは。
上体を起したとたん、脇腹に激痛が走る。
んっ、源じぃは。本棚は。
すぐ横にはベッドがあった。夢を見ていたのか。そうなのか。
なるほど、ベッドから落ちたのか。まったく情けない。
やっぱり夢だったのか。脇腹を押さえつつ、立ち上がると部屋を出た。
静けさがあたりを包み込んでいる人の気配のないリビング。『おはよう』と声をかける相手がいない空っぽの部屋は寒々しくて寂しい空気が漂っているだけ。
父も母も兄もいない。昨日も帰ってこなかったようだ。そんなんじゃ身体を壊しかねない。忙しいのはわかるが、身体を休めるのも仕事のうちだろうに。
両親は、小さな出版社を経営している。
厳しい現状にも関わらず、試行錯誤してなんとか持ちこたえてはいる。
はたして大丈夫なのだろうか。兄もだが自分も働いている。兄は自社メディアを作っていろんな面で貢献しているようだ。
自分は……これといって何もしていない。
雑用ばかりだ。
大学受験に失敗して、そのまま両親の出版社で働くことにした。働きたくて働いているわけじゃない。父も母も気乗りがしない自分に仕事を任せようとは思わないのだろう。そんな気持ちでいることを見抜いているはずだ。
嘆息を漏らして項垂れる。何をしているんだか。寝ている場合じゃないだろう。わかっているが、どうしようもない。
何かやりたいことがないのだろうか。遼哉は天井をみつめて吐息を漏らす。何も思いつかない。
考えても仕方がないか。
時計の針は七時少し前。そろそろ準備して会社に行かなきゃ。あの会社での居場所があるのか疑問だが、欠勤するわけにもいかない。
それにしても、変な夢を見てしまった。
キッチンへ向かい、ひんやりする水道の水を一口飲むと徐に背後に目を移す。
誰もいないか。一瞬、期待をした自分が馬鹿らしい。
小人と踊る猫がそこにいたらよかったのに。源じぃが微笑んでいたらよかったのに。
いるはずがない。わかっている。でも、リアルだった。
ふと夢で見た源じぃの言葉が脳裏を過る。
妙な胸騒ぎを感じた。
『遼哉、あとのことを頼んだぞ』の言葉が頭の中をグルグル回って離れなくなる。会社よりも病院に向かうべきだろうか。
そのとき、電話が鳴った。
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