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第一話 謎の鍵が示す先
【四)最後の言葉
しおりを挟む逝ってしまった。
源じぃとは、もう会えないのか。いつもの皺くちゃな笑顔はどこにもない。
真っ白なベッドで眠る血の気のない顔があるだけ。
「源じぃ」
呼びかけても返事はない。手を握ってもなんの反応もない。氷のような冷たさが伝わってきただけ。それなのに、自分の頬に伝わる涙はどこかあたたかかった。
どうして、逝ってしまったの。
心が痛い。
眠っているだけなのではとも思える源じぃをじっとみつめていると、一瞬微笑んだ気がした。気のせいだってことは頭ではわかっているのに、微笑み返してしまった。
そうだ、悲しんでばかりじゃいけない。
笑顔で見送ってあげなきゃ。それでも、涙は零れて落ちる。笑わなきゃ。
「源じぃ。ありがとうね」
自然とそんな言葉が飛び出していた。
両親と兄が来たのはそんなときだった。父も母も兄も涙を流していた。源じぃを看取ることができたのは自分だけ。それはしかたがないことだ。
できることなら、もう少しだけ旅立つのを待ってくれたらみんなで見送ることができたのに。
力ない笑みで最後の言葉を残して息を引き取った源じぃが思い出される。
遼哉は再び源じぃの顔を見遣ると、「源じぃ」と声をかけた。
最後のあの言葉はいったいなんだったの。そう問いかけたかった。
『あの部屋を、あの子たちを頼むぞ。おまえが気に入っていた招き猫の下だ。そこに鍵はある。遼哉に任せたからな。みんな、仲良くな』
謎ある言葉だった。
ふと夢でのことが脳裏に蘇る。源じぃの言葉だけを考えれば、ある意味正夢だったのだろうか。
それにしても部屋って。あの子たちって。鍵ってなんだ。
頼むって言われても、どうすればいい。
鍵と言われても、どこの鍵なのかもわからない。
遼哉は涙目のまま首を捻り考え込んだ。
「鍵だ。覚えているだろう」
不意に耳元で囁かれてビクッとする。空耳か。声のしたほうに目を向けても、誰もいない。まさか、幽霊。
源じぃの声のようだった。そんなことってあるのだろうか。
鍵か。そういえば、子供の頃になにかなかっただろか。
「魔法の鍵だぞ」
まただ。
どこだ、どこにいる。
いったいどうなっている。自分はおかしくなってしまったのか。それとも、本当に幽霊がいる。もしかしたら、自分の中の記憶の声ってことも。
わからない。
魔法の鍵か。
確かそんな言葉を子供の頃に話していたような。ただ、どこの鍵かは記憶にない。そういえば、夢で見た小人も知っているような。記憶違いだろうか。
ああ、ダメだ。
何か思い出しかけたのに、靄がかかってしまった。
子供の頃に見た景色が一瞬見えかけたのは、単なる妄想だろうか。
あれはまだ小学校に入学する前だ。たぶん。ワクワクした気持ちだけが胸の奥底で膨らんで、再び萎んでいった。
源じぃの最後の言葉だ。有耶無耶のままにしてはいけない。
おそらく、源じぃの家のどこかの部屋を開ける鍵なのだろう。
遼哉は家の間取りを必死に思い出す。鍵のかかる部屋ってあっただろうか。部屋じゃないのか。金庫とか宝箱みたいなものの鍵だろうか。いや、部屋を頼むと話していた。どこかの部屋の鍵のはずだ。いくら考えても答えは出てきそうにない。
行ってみないことには、何もはじまらないか。
どちらにせよ、葬儀を済ませてきちんと見送らなきゃいけない。
すべてはこれからだ。
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