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第一話 謎の鍵が示す先
【九】不思議な鍵
しおりを挟む黄色の淡い光を纏った本が浮かび上がり、美味しそうな匂いが鼻を掠めていく。これは煮物の匂いだろうか。遼哉はごくりと唾を呑み込み、黄色の本に手を伸ばす。すると、赤色の光を纏った本が浮かび上がり、伸ばした手を軽く叩かれた。
何が起きているのだろう。
なんだか見ているだけでワクワクしてくる。あれ、今度は青色の光を纏った本だ。なんだかこっちは張り詰めた緊張感がある本だ。背筋をピンと伸ばしたくなってくる。
不思議だ。
黄、赤、青の三冊の本が揺れている。
あっ、源じぃだ。
しわくちゃな顔をして微笑んでいる。次の瞬間、三冊の本がグルグルと回りはじめて三冊の本が玉と変わった。三色の玉は速さを増していく。いったい何を見せられているのだろう。この鍵がこの映像を見せているというのか。
首を傾げてじっとみつめていると、突然破裂音が鳴り響き三つの玉が弾け飛ぶ。
赤と青の玉が窓の外へと飛び去り消えた。黄の玉だけが目の前に浮遊をし続けている。何かを訴えかけてでもいるようだ。
あれ、源じぃはどこへ行ったのだろう。いない。
あっ。
浮遊していた黄の玉がストンと床へ落ちたかと思ったら、溶け込むように消え去ってしまった。同時に手に持っていた鍵を落としてしまった。
床に落ちた鍵をじっとみつめて、ふぅーと息を吐く。
この鍵は普通の鍵じゃないのか。落ちた鍵をみつめて黙考する。仄かに光っている。なぜだ。
瞬く光をみつめていると、頭の中に一瞬何かの映像が浮かんだ。
すぐに消えてしまったが光のせいなのか、不思議とどこの鍵だか知っているはずだと思えてきた。
あれ、今自分は何を見ていたのだろう。また幻を見たというのか。ここは、自分の部屋だ。
そうだ、鍵。
床に落ちた鍵を拾い、黙考する。早くこの鍵を使う場所をみつけなくては。
そういえば、源じぃが使っていなかっただろうか。そうだとしたら、源じぃの部屋にこの鍵を使うべき何かがあるのかもしれない。
隠し部屋、もしくは隠し金庫か。行ってみよう。
源じぃの部屋は玄関から廊下を左に進んだ奥だ。襖を開けると八畳間の畳部屋が目に映る。一目見て金庫らしきものはないとわかる。あるものは仏壇と本棚と円形のちゃぶ台。あまり物を置かない人だったことを思い出す。
|《床》の間に枯れかけた花が花瓶にあった。鍵を使うような物は見当たらない。掛け軸の裏とか。ちょっと期待したが普通の壁があるだけだった。
遼哉は嘆息を漏らして、もう一度部屋をグルッと見回してみた。押入れの中も布団が入っているだけだ。居間に何かあるのだろうか。それとも六畳間の客間か。
考えうる場所を隈なく探してみたものの、結局鍵を使うべき場所はどこにもなかった。
自分の部屋に戻り、ブルッと震えた。頬や手先、それに足先も冷たくなっていることに気づき暖房をつける。指先の感覚が鈍くなってしまった。
エアコンを見遣り早く暖かくなれと願う。
結局、鍵の使う場所はわからないまま。本当にこの家にこの鍵を使う場所があるのだろうか。
緑青色に錆びついた鍵のことを考えると、かなり古い代物だろうと予測出来る。寝転がりふと、天井をみつめる。まさか天井裏にあるとか。
念のため調べてはみたものの天井裏に入れる場所はなかった。天井を壊せば別だが、そこまでする必要はないだろう。
いったい、この鍵はどこで使うのだろう。
源じぃは、自分にどうしてほしいのだろう。もっと詳しく話してくれればよかったのに。そういえば源じぃは謎解きをさせたがる人だった。今回もそうなのか。死ぬ間際まで謎解き問題を出さなくてもいいだろうに。
もしそうだとしたら、ヒントはどこかにあるはずだ。もう一度見回してみたが、それらしきものをみつけられなかった。完全に行き詰まってしまった。
お手上げだとベッドに寝転がる。
部屋が暖かくなってきたせいか瞼が重くなり大欠伸をしてしまう。
疲れが溜まっているのかも。再び大きな欠伸をして瞼を閉じた。
そうだ、あとで枯れた花を捨てておこう。そう思いつつも睡魔に勝てず、そのまま夢の世界へ誘われていった。
あれ、焚き火だ。
緑の葉の屋根が揺れて、サササと葉擦れの音を奏でた。目の前には木々の間から望む湖が映る。
ここはどこだろう。源じぃの家だったはず。
あっ、そうか。これは夢だ。きっと。
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