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第一話 謎の鍵が示す先
【八】緑青の鍵
しおりを挟むひとりになり、急に静けさが増した。この胸が締め付けられるような感じはなんだろう。誰もいないってこうも静かになるものなのか。それに寒い。
外とそれほど変わりない寒さかもしれない。いや、外より寒いかも。
なぜだろう。すきま風か。
あたりに目を向けて、首を捻る。冬だし、古い家だから仕方がないか。
んっ、視線を感じる。何かがいるのかも。まさか、それはないか。きっと、気のせいだ。
自分、ひとりしかいない。
ひとりか。
源じぃは、ここでずっとひとり暮らしていた。どんな気持ちでいたのだろうか。なんだか心苦しくなってくる。気がつくと溜め息を吐いていた。
『源じぃ、ごめんな』
源じぃのためにも頑張らなきゃいけない。この家で。
託された鍵もある。その鍵が何を意味しているか定かではない。果たして源じぃが思い描いている結果になるのかわからない。
自分に出来ることなのか。
とにかくやり遂げなくては。
鍵は招き猫の下にあるって話していた。確か、自分が使っていた部屋の窓際にあるはずだ。
大きく息を吸い込み吐き出す。
改めて家の中を見回して、頬を緩ませる。
なんだか懐かしい匂いがする。この匂いは、源じぃがここで過ごしてきた証みたいなものかも。瞼を閉じれば、すぐそこにいるような。声が聞こえてくるような。それは幻想でしかない。
瞼を開ければ現実が押し寄せてくる。ぬくもりのない空間がここにある。小海を帰さなければよかっただろうか。いやいや、それは違う。
いつまでも感傷に浸っていてはいけない。前に進もう。
玄関からまっすぐ進んで突き当り右が自分の部屋だった。
もちろん鍵はかからない部屋だ。ゆっくりと扉を開けると窓から暖かな日差しが入り込んできて思わず笑みを浮かべた。懐かしい。けど、前もって運んでもらっていた段ボール箱の荷物が思い出を掻き消している。
積み上がった荷物以外は、四年前にここを出ていったそのままの景色だった。
勉強机、文机、テレビとテレビ台にしている棚、小さなテーブル、ベッド、当時読んでいた本が並んだ本棚。本は重いから残していったのを思い出す。意外と綺麗になっている。きっと源じぃが掃除していてくれたのだろう。いつ戻ってきてもいいようにしてくれていたのだろう。
なんだか、ウルッときてしまう。
本棚の本に目が留まり涙を拭う。中学生の頃に読んでいた本だ。あの頃は推理小説をよく読んでいた。三毛猫が活躍するやつだ。
今ではあまり推理小説を読んでいない。好みって変わるものなんだな。すぐ隣には空の本棚もあった。東京で使っていたものだ。本はあの段ボール箱に入っているはず。
ファンタジー、時代小説、日常の謎のミステリー、ホラーといろんなジャンルの本があそこには入っている。
なんだか本が読みたくなってきた。
待て、待て。違うだろうと頭を振り、鍵のことを思い出す。
目的の招き猫は文机の上にいた。窓際だと思ったのに、違っていた。
四年も経てば記憶違いも起こるってものだ。紫色の小さな座布団に鎮座している姿を見遣るとどこか
『おかえり』とでも言っているような気さえする。
それにしても、この招き猫なんか変わっている。灰色の招き猫って見かけない気がする。何か意味があるのだろうか。待てよ、源じぃの作品だったろうか。記憶が定かではない。
灰色の招き猫か。ふと夢に出てきた猫を思い出す。確かあいつも灰色だった。まさか、急に踊り出すなんてことは……ないか。
馬鹿なことを考えてしまった。
招き猫を持ち上げると座布団の上に鍵はあった。なんだか緑青色に錆びついている。この鍵はいったいどこのものだろう。
鍵を手に取った瞬間、ピリッと痺れを感じた。同時に頭の中に映像が流れ込んでくる。
なんだ、これは。
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