本の御魂が舞い降りる

景綱

文字の大きさ
8 / 161
第一話 謎の鍵が示す先

【八】緑青の鍵

しおりを挟む


 ひとりになり、急に静けさが増した。この胸が締め付けられるような感じはなんだろう。誰もいないってこうも静かになるものなのか。それに寒い。
 外とそれほど変わりない寒さかもしれない。いや、外より寒いかも。
 なぜだろう。すきま風か。

 あたりに目を向けて、首を捻る。冬だし、古い家だから仕方がないか。
 んっ、視線を感じる。何かがいるのかも。まさか、それはないか。きっと、気のせいだ。
 自分、ひとりしかいない。

 ひとりか。

 源じぃは、ここでずっとひとり暮らしていた。どんな気持ちでいたのだろうか。なんだか心苦しくなってくる。気がつくと溜め息を吐いていた。

『源じぃ、ごめんな』

 源じぃのためにも頑張らなきゃいけない。この家で。
 託された鍵もある。その鍵が何を意味しているか定かではない。果たして源じぃが思い描いている結果になるのかわからない。
 自分に出来ることなのか。
 とにかくやり遂げなくては。

 鍵は招き猫の下にあるって話していた。確か、自分が使っていた部屋の窓際にあるはずだ。
 大きく息を吸い込み吐き出す。
 改めて家の中を見回して、頬を緩ませる。
 なんだか懐かしい匂いがする。この匂いは、源じぃがここで過ごしてきた証みたいなものかも。まぶたを閉じれば、すぐそこにいるような。声が聞こえてくるような。それは幻想でしかない。

 瞼を開ければ現実が押し寄せてくる。ぬくもりのない空間がここにある。小海を帰さなければよかっただろうか。いやいや、それは違う。
 いつまでも感傷に浸っていてはいけない。前に進もう。

 玄関からまっすぐ進んで突き当り右が自分の部屋だった。
 もちろん鍵はかからない部屋だ。ゆっくりと扉を開けると窓から暖かな日差しが入り込んできて思わず笑みを浮かべた。懐かしい。けど、前もって運んでもらっていた段ボール箱の荷物が思い出を掻き消している。

 積み上がった荷物以外は、四年前にここを出ていったそのままの景色だった。
 勉強机、文机、テレビとテレビ台にしている棚、小さなテーブル、ベッド、当時読んでいた本が並んだ本棚。本は重いから残していったのを思い出す。意外と綺麗になっている。きっと源じぃが掃除していてくれたのだろう。いつ戻ってきてもいいようにしてくれていたのだろう。

 なんだか、ウルッときてしまう。
 本棚の本に目が留まり涙を拭う。中学生の頃に読んでいた本だ。あの頃は推理小説をよく読んでいた。三毛猫が活躍するやつだ。

 今ではあまり推理小説を読んでいない。好みって変わるものなんだな。すぐ隣には空の本棚もあった。東京で使っていたものだ。本はあの段ボール箱に入っているはず。
 ファンタジー、時代小説、日常の謎のミステリー、ホラーといろんなジャンルの本があそこには入っている。

 なんだか本が読みたくなってきた。
 待て、待て。違うだろうと頭を振り、鍵のことを思い出す。
 目的の招き猫は文机の上にいた。窓際だと思ったのに、違っていた。
 四年も経てば記憶違いも起こるってものだ。紫色の小さな座布団に鎮座している姿を見遣るとどこか
『おかえり』とでも言っているような気さえする。

 それにしても、この招き猫なんか変わっている。灰色の招き猫って見かけない気がする。何か意味があるのだろうか。待てよ、源じぃの作品だったろうか。記憶が定かではない。
 灰色の招き猫か。ふと夢に出てきた猫を思い出す。確かあいつも灰色だった。まさか、急に踊り出すなんてことは……ないか。

 馬鹿なことを考えてしまった。
 招き猫を持ち上げると座布団の上に鍵はあった。なんだか緑青ろくしょう色にびついている。この鍵はいったいどこのものだろう。

 鍵を手に取った瞬間、ピリッとしびれを感じた。同時に頭の中に映像が流れ込んでくる。
 なんだ、これは。

しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢はご病弱!溺愛されても断罪後は引き篭もりますわよ?

鏑木 うりこ
恋愛
アリシアは6歳でどハマりした乙女ゲームの悪役令嬢になったことに気がついた。 楽しみながらゆるっと断罪、ゆるっと領地で引き篭もりを目標に邁進するも一家揃って病弱設定だった。  皆、寝込んでるから入学式も来れなかったんだー納得!  ゲームの裏設定に一々納得しながら進んで行くも攻略対象者が仲間になりたそうにこちらを見ている……。  聖女はあちらでしてよ!皆様!

愛とオルゴール

夜宮
恋愛
 ジェシカは怒っていた。  父親が、同腹の弟ではなく妾の子を跡継ぎにしようとしていることを知ったからだ。  それに、ジェシカの恋人に横恋慕する伯爵令嬢が現れて……。  絡み合った過去と現在。  ジェシカは無事、弟を跡継ぎの座につけ、愛する人との未来を手にすることができるのだろうか。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

私は私で幸せになりますので

あんど もあ
ファンタジー
子爵家令嬢オーレリーの両親は、六歳年下の可憐で病弱なクラリスにかかりっきりだった。 ある日、クラリスが「オーレリーが池に落ちる夢を見た」と予言をした。 それから三年。今日オーレリーは、クラリスの予言に従い、北の果ての領地に住む伯爵令息と結婚する。 最後にオーレリーが皆に告げた真実とは。

【完結】氷の令嬢は王子様の熱で溶かされる

花草青依
恋愛
"氷の令嬢"と揶揄されているイザベラは学園の卒業パーティで婚約者から婚約破棄を言い渡された。それを受け入れて帰ろうとした矢先、エドワード王太子からの求婚を受ける。エドワードに対して関心を持っていなかったイザベラだが、彼の恋人として振る舞ううちに、彼女は少しずつ変わっていく。 ■《夢見る乙女のメモリアルシリーズ》2作目  ■拙作『捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る』と同じ世界の話ですが、続編ではないです。王道の恋愛物(のつもり) ■第17回恋愛小説大賞にエントリーしています ■画像は生成AI(ChatGPT)

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...