本の御魂が舞い降りる

景綱

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第一話 謎の鍵が示す先

【十六】謎めいた猫(三)

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 灰色だから、グレーか。それは安易過ぎるか。グレ、グレン、グレタ、ググ、グー、グム、グラリン。うーん、名前考えるのも難しい。
 どの名前がいいだろうか。

 よし、グレンだ。それがいい。なんとなく格好いい。

「なあ、おまえの名前だけど。グレンでいいか」

 灰色猫はチラッと薄目を開けて再び閉じた。今の感じはいいよってことか。違うか。どっちかというと、どうでもいいって感じか。
 まあいい。グレンにしよう。

「グレン、いい名前だろ。そう呼ぶからな」

 灰色猫は床を掃除するみたいに左右にゆったり尻尾を滑らせていた。

「決まりだな」

 ふと猫に話しかけている自分がおかしくて、頬を緩ませた。誰かが見ているわけじゃない。問題ない。
 そういえばさっきの尻尾の振り方は嫌だとの意思表示だったろうか。機嫌がいいときの尻尾の振りだったろうか。どっちだったろう。
 まあいい、嫌でも『グレン』で決まりだ。

 そう思ったが、念のため考えた名前を全部呼んでみた。
 ゆっくりと名前を呼んでいくと、グレンの名前だけ反応した。やっぱり、グレンで決まりだ。

 あれ、何かやることなかったっけ。えっと、あっそうだ。
 鍵だ。地下室探しだ。

 いったいどこにあるのだろう。小海の話だとどこかにあるはずだ。探さなきゃ。
 居間に行くと、一気に身体が冷えていく。この温度差は身体に悪い。風邪を引いてしまいそうだ。ブルッと身体を震わせて鍵を手に取り、オッと声をあげそうになった。まるで氷だ。鍵の冷たさに身体の芯まで冷え切ってしまう。少しばかり手が痛い。ここまで冷え込んでいるとは。

 一旦、自分の部屋に避難しよう。
 ああ、ここは天国だ。他の部屋も暖房つけるしかない。
 待てよ。他の部屋にエアコンついていただろうか。源じぃの部屋にはストーブがあったか。他の部屋は暖房がないのだろうか。
 ずっと暖かなこの部屋にいるわけにもいかない。

 意を決して凍てつく世界へ旅立とう。なんて大袈裟な。馬鹿なこと考えていないで、さっさと地下室を探そう。何気なく足元に目を向けると、グレンが馬鹿にしたような顔でみつめていた。

「なんだよ」

 グレンにそう文句を言ったところで返事はない。実際のところ、何を思っているのかわからない。猫と話ができたらいいのに。
 さてと、もう一度居間へ行こう。

「ううう、寒い」

 そうそう、暖房だ。どこかにあるはず。この寒さの中、暖房無しでは暮らせない。それは源じぃも一緒のはずだ。

 おかしい。エアコンは見当たらない。
 やっぱりないのか。身体を振るわせて、居間を出ようとしたとき壁にあるスイッチに目に留まる。電気のスイッチなのか。それにしては数が多過ぎる。
 近づいてよく見れば、スイッチの上に『床暖房』と書かれていた。
 なるほど、この家には床暖房があったのか。

 遼哉は迷わずスイッチをオンにして、源じぃの部屋に向かう。
 部屋に一歩入ったとたん、ほんのわずかだが足の裏にあたたか味を感じた。ここも床暖房が設置されているようだ。なら、エアコンがついている自分の部屋だけ床暖房がないのか。念のため客間にも行ってみたら、やはりあたたかかった。
 遼哉は、自分の部屋に戻り床を確かめてみたが予想通り床暖房にはなっていない。なんでだろう。金銭的な問題か。小首を傾げて黙考したが答えは出てこなかった。

 エアコンがあるから、問題はない。
 それにしても、他の部屋は床暖房だけで冬を乗り越えられるのだろうか。少しは寒さをしのげるか。ないよりはましだ。

 腰を下ろして、重ねられた段ボール箱に目を向ける。そういえば、そのままだった。過去に読んだ本の詰まった本棚と一冊も本のない小さな本棚が目に留まる。なんとも寂し気だ。よし、本を並べよう。

 んっ、何かが違う気がする。
 あっ、鍵だ。

 まったく自分ときたら。すぐに大事なことを忘れてしまう。この頭の中には脳みそが詰まっていないんじゃないだろうか。小海がいたら、また嫌味言われてしまう。
 ふと窓を見遣り、ホッと息を吐く。いるわけがない。まだ学校に行っている時間だ。
 とにかく、今自分がすべきことは地下室への扉を探すことだ。

「なあ、グレン。おまえ、もしかして地下室のありか知らないか」

 返事を待ってみたが、もちろん何も答えてはくれない。尻尾をパタパタするだけ。聞こえてはいるようだ。
 果たしてどこに地下室への扉はあるのだろうか。
 謎はそれだけではない。そこにいるグレンだ。
 こいつはいったいどこから家に入ってきたのだろう。この二つに何か関係があるのかもしれない。そう思ったが、関係ないかとすぐに考えを改めた。グレンが妖怪のたぐいでないことを祈ろう。

 んっ、もしかして異世界からグレンは来たとか。すでに扉は開かれているとか。何を考えているのやら。そんな非現実なことがあってたまるか。疲れているせいで変なことを考えてしまうのだろう。きっとそうだ。

 物凄く眠いのがその証拠だ。
 遼哉は大口を開けて欠伸をした。そういえば三時間くらいしか寝ていなかった。
 少し仮眠をとるか。

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