本の御魂が舞い降りる

景綱

文字の大きさ
26 / 161
第一話 謎の鍵が示す先

【二十六】何かが気にかかる

しおりを挟む

「ねぇ、そろそろ上に戻らない。ちょっと身体が冷え切っちゃったし」

 小海の言う通りだ。ここは外とあまり気温が変わらない。いつの間にか指先も冷たくなって痛みも感じはじめている。

「じゃ、行こうか」

 遼哉は手を擦り合わせながら、階段の方に向かい「あれ」と足を止めた。

「どうしたの?」
「いや、階段の上が塞がれちまっているんだよ」
「嘘でしょ」

 小海は駆け寄ってきて呆然と上を眺めている。

「おや、おかしいねぇ」

 ハルも上に目を向けて首を傾げている。
 何がどうなっている。

「ねぇ、この階段。なんかおかしくない。何か違う」
「違うって、何が」

 小海が指を差している。
 あれ、階段って木製だったっけ。よく見れば腐りかけているところがある。確かに違う。こんな古い階段じゃなかった。コンクリート製だった。

 何がどうなっている。そうだ、扉もないじゃないか。
 くるりと回れ右をして、遼哉はその先に目を向ける。一つの扉をみつけた。
 なるほど、そういうことか。

「きっと、これはハルさんが話していた昔の階段じゃないのかな。記憶間違いじゃなかったんだよ。源じぃは封印したんだよ。そして、新たな階段を作ったんだ、向こう側に」
「なるほどねぇ。源蔵さんも面倒なことを。けど、源蔵さんらしい」
「ねぇ、そんなことよりお祖母ちゃんも遼哉も早く上に行きましょうよ。私、もう限界。ほら、グレンたら先に行っちゃったわよ」

 少し開いた隙間に爪を引っ掻けて器用に扉を開けていた。
 グレンも限界だったのだろうか。可愛らしいお尻をふりふりさせて、階段を上がっていく。そのあとを小海が続く。遼哉もハルの手を引き暖かい部屋へと歩みを進めた。

「生き返るねぇ」

 ハルの言葉に口元が緩む。小海も同じように笑っていた。グレンはというと、ベッドの上で丸くなっている。ベッドの上が一番暖かいのかもしれない。
 丸くなるグレンを見ていたら、ふいに頭の中に肉まんが浮かんできた。

「あっ、肉まん食べてない」
「えっ、なによ突然」
「ごめん、コンビニで肉まんを買おうとしていたのを思い出しちゃってさ」
「それ、いつの話?」
「えっと、今朝の話」
「もう、遼哉のバーカ」
「これこれ、そんなことを言ってはいけないよ」

 小海はハルにたしなめられて申し訳なさそうに頭を下げている。
 そんな小海がこっちを睨みつけてきた。その顔を見たハルが「まったく、いけないねぇ」と小海に説教をしはじめる。と言っても、本気で叱っているわけではなさそうだ。笑みを浮かべて、面白がっているみたいだ。

 ふと視線を感じてそっちを見遣ると、グレンが薄目を開けて尻尾をパタパタさせていた。もしかしたら『人間って馬鹿だな』なんて思っているのかも。それとも、『うるさくて寝られやしない』と文句を言っているのだろうか。

「さてと、ちょっと長居をしてしまったから、そろそろおいとましましょうかね」
「あっ、そうですか。すみません、なんだかドタバタしてしまって」
「いいんだよ。楽しかったものねぇ」
「それなら、よかったです」

 ハルは何とも言えない良い笑顔をしている。可愛らしいお婆ちゃんだ。

「それと、伴治さんのことなんだけどねぇ。またあとできちんと話しましょうかねぇ」
「はい、よろしくお願いします」

 ハルはお辞儀をして帰ろうかと小海を促した。
 小海はハルの言葉に頷き「遼哉、じゃまたね」と手を振った。

「ああ、今日は悪かったな」
「そう思うんだったら、もうちょっとしっかりしてよね」

 遼哉は頷き、一緒に玄関までついて行く。
 いつの間にか、足元にグレンも来ていた。きちんとお見送りするなんて賢い猫だ。

「あら、銀ちゃんも来てくれたの。今日はありがとうねぇ。楽しかったよ。また来るからねぇ。あっ、銀ちゃんじゃなかった。グレンちゃんだったねぇ」
「もう、お祖母ちゃんたら」
「昔のことを思い出したら記憶が混ざってしまったよ。それじゃ、行きましょうかねぇ」

 ハルと小海が手を振って門を出ていく。
 なぜか、また肉まんのことを思い出して慌てて二人を追った。

「そこまで送っていくよ。どうしても肉まんが食べたいからコンビニ行くついでにさ」
「まったく、しょうがないんだから」

 自分もそう思う。けど我慢出来ないときがある。
 ハルは口に手を当てて笑いを堪えていた。

 んっ、いま誰か呼んだかと振り返ると、グレンが門柱のところに置物のように座っていた。空耳か。グレンが呼ぶはずがない。
 それにしても可愛い奴だ。そう思ったとき、門柱の陰に隠れる人の姿が見えた気がした。泥棒か。戻って確認したほうがいいいだろうか。いやいや、目の錯覚だ。きっと。もし、見知らぬ人がいたら、グレンがあんなに落ち着いていないだろう。

「遼哉、どうかした」
「んっ、なんでもないよ」
「そう。それじゃ私たちはあっちだから。コンビニは向こうでしょ」
「ああ、それじゃまた」

 小海とハルは右に、自分は左だ。

「本当に今日は楽しませてもらったよ」
「いえいえ、こちらこそ。寒いですからお身体に気をつけてくださいね」
「お気遣い、どうも。それじゃねぇ」

 遼哉はハルにお辞儀をして小海にもう一度「またな」と手を振った。
 それにしても寒い。手を擦りダウンジャケットのポケットに入れる。何気なく振り返り二人の背中をみつめた。声は聞こえないが、仲良さそうな雰囲気が伝わってきた。いったい、何を話しているのだろう。

 地下室でのことだろうか。それとも、懐かしい源じぃたちとの思い出話だろうか。
 源じぃ、天国で楽しんでいるかな。源じぃの頼み、ちゃんと叶えるからなと空を見上げて誓った。

 そういえば、あの手紙。どこか引っ掛かるんだよな。ハルと小海は気づかなかったのだろうか。何も言っていなかったから気づいていないってことか。

 いったい、何に引っ掛かっているのか。
 いくら考えても答えは出てきそうにない。家に帰ったらもう一度手紙を読み返してみよう。
 待てよ、気になるのは手紙なのか。

 あの人形。

 そういえば御魂三人衆が復活するとか手紙に書いてあったけど、あれはどういう意味だろう。本当に動くのか。ハルの言葉を信じるなら、そういうことか。
 ダメだ、考え過ぎて頭が痛くなってくる。これは寒さのせいか。
 とにかく今は肉まんだ。今度こそ買い忘れないようにしないと。余計なものは買うなよ。

 北風が首筋を通り過ぎブルッと身体を震わせた。
 あっ、そうだ。
 スーパーで何か買わないといけない。どうしようか。肉まんを諦めてスーパー行くか。ダメだ。肉まんは食べたい。それならコンビニで肉まんと夕飯の弁当を買おうか。
 明日の朝はどうする。コンビニで朝の分も買えばいいじゃないか。

 ちょっと待て。何をさっきから迷っている。馬鹿じゃないのか。
 スーパーで肉まん買えばいいじゃないか。蒸かしていないやつがあるだろう。家に確か蒸し器あったはずだ。電子レンジでもあたためられるか。
 あれ確か何個か入っているし、そのほうがお得だろう。そのほうがいい。なんか主婦みたいなこと言っていないか。

 あっ、主婦じゃなくて主夫か。またどうでもいいこと考えている。
 ああ、寒い。
 さっさとスーパーで買い出しして帰ろう。それで決まり。
 遼哉はダウンジャケットの襟を立てて小走りでスーパーに向かった。

しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...