本の御魂が舞い降りる

景綱

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第一話 謎の鍵が示す先

【二十七】ハルの家の火乃花

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「小海、あったよほら」
「えっ」
「懐かしいねぇ。ごめんよ、こんなにほこりが被ってしまって」
「お祖母ちゃん、この人形がそうなの?」
「そう、これが私の貰ったもらった色の人形だよ。源蔵さんはこの人形のこと『火乃花ほのか』だと言って渡してくれた。本当に懐かしいねぇ」

 あれ、嘘でしょ。
 今、この人形笑わなかった。そんなはずはない。目の錯覚だ。
 本当にそうだろうか。光ったような気もする。
 ハルは気づかなかったのだろうか。聞いてみようとして口を閉ざす。人形が笑うなんてことはない。
 そうそう、そんなことありえない。
 気のせいだ。

「小海、どうかしたかい」
「えっ、別になにも」
「そうかい。ならいいけど」
「ねぇ、お祖母ちゃん。この人形って、なんだか古そうよね」
「そうだねぇ。確か源蔵さんが江戸時代の頃のものじゃないかなんて話していたような。ちょっと修復したって言っていたかねぇ」

 どうしたのだろう。遠い目をして。

「お祖母ちゃんこそ、どうかしたの」
「いや、その。ちょっと思い出してね。この子たちは人形じゃなくて本なんだって源蔵さんが話していたねぇ。けど、どう見ても人形だろう。変だよねぇ。記憶違いだろうか」

 小海は人形をまじまじと見た。どうみても本ではない。
 ひっくり返して背中を見てもこれといって何もない。中に本が入っている感じもない。人形型の本カバーってこともなさそうだ。

「これ、どうみてもただの人形だよ」
「そうなんだけどね。源蔵さんの思い込みでそう話したんだろうか」

 ハルはじっと人形をみつめていたかと思うと、「あっ」と声を漏らした。

「そうだ、本の御魂だ。やっぱり本が人形の姿に変わっているのかもねぇ。なぜかそう思えてきたよ」

 小海はハルと人形を交互にみつめて、首を捻った。
『本の御魂』って何か思い出したのだろうか。遼哉のところで話していた本のことかな。小海はもう一度、首を捻って人形を眺めた。
 本が人形になるなんてことあるんだろうか。

 あっ、目が。いやいや、違う。目の錯覚だ。動くはずがない。
 日本人形ってちょっと苦手だ。霊的なものがあるようでちょっと怖い。そう思うから、動いたように見えてしまうのかも。きっとそうだ。

 本当にそう言い切れるのだろうか。この世の中、科学で解き明かせないことがあってもおかしくはない。ううん、おかしい。いや、でも。
 頭の中にいろんな考えがグルグル巡る。

 江戸時代に作られたものだとしたら付喪神になっている可能性だってあるのか。
 もう、何を考えているの。付喪神って作り話でしょ。実際にはそんなことあるはずがない。命が宿るなんて。
 背筋に悪寒が走り、身体を震わせた。

「小海、どうかしたかい」
「えっ、あ、なんでもないよ」
「ならいいんだけどねぇ。それにしても可愛いねぇ、この子。巫女さんの衣装がよく似合っていると思わないかい」
「そうだね」

 確かに似合っている。よく見れば可愛い顔をしている。怖くなんてない。そう、怖くなんてない。

「本当に悪いことをしてしまったよ。ずっと押入れに仕舞い込んでいたなんて」
「お祖母ちゃん、この人形は三体あるって話していたよね」
「そうだよ。あと一体は伴治さんのところにあるはず。捨てていないといいんだけどねぇ」
「源蔵さんに会わせてあげたいね」
「そうだよねぇ」

 ハルはそう頷くと、人形を手にして電話のところへ行き受話器を手に取った。
 どうやら伴治のところへ電話しているようだ。連絡先を知っていたのか。
 小海は様子を窺っていたが、話をする様子はなかった。留守だったのだろうか。

「お祖母ちゃん、またあとでかけてみたら」
「そうだねぇ。いっそのこと家に行ってしまおうか」

 ハルはそう口にするとすぐに玄関に行き、くつこうとした。

「ちょっと、今行くの。明日にしたほうがいいんじゃない」

 小海はハルを引き止めて手を取った。チラッとこっちに目を向けて何かを考えているような顔つきになるハル。

「そうだねぇ。明日のほうがいいかもしれないねぇ」

 外からはだいだい色の光が差し込んできていた。そのうち暗くなってくるだろう。小海はハルの手を取り、居間へと戻る。

「火乃花とまたお話できたらいいんだけどねぇ」

 ハルが小声でそんなことをつぶやいていたのを確かに耳にした。人形と話だなんてやっぱりハルは認知症なのだろうか。いやいや、そんなことないはずだ。どうなんだろう。ハルの言動を見守るしかないか。

 あっ、人形が笑った。
 ダメだ、自分こそ頭がおかしくなっているのかも。

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