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第一話 謎の鍵が示す先
【十四】謎めいた猫(一)
しおりを挟むあっ、暖房消し忘れた。
危ない、危ない。電気の無駄だ。エアコンを止めなきゃ。
家に戻り靴を脱いだところで、思い直す。帰って来て冷え切った部屋に入るのも嫌だ。行って帰ってきてもたいして時間はかからないだろう。ならば、エアコンはつけっぱなしのほうがいい。
どうせまた暖房をつけなきゃいけないわけだし。オンオフをするよりもつけっぱなしの方が電気代はかからないなんて話も聞いたことがある。本当なのかわからないが、今はそうだと信じよう。
よし、そのまま決定。
靴を履き出かけようとしたとき、突然猫が足元へ飛んできた。
えっ、猫。なんで。
どこから入り込んで来たのだろう。昨日はいなかったはず。いや、ずっとこの家にいたのか。そんなはずはない。しばらくこの家には人はいなかったのに猫が生きていられるはずがない。ならば、さっき自分と一緒に玄関から入ったってことか。
灰色の猫が両前足を揃えて上目遣いでみつめてくる。
ずいぶん人馴れしている。
やっぱり、源じぃの飼い猫なのか。それはないはず。
「おまえ、どこから来たんだ」
灰色猫はただみつめてくるだけ。返事をするわけないか。
なんだろう。こいつ、可愛いやつだな。自然と口許が緩み、気づくと頭を撫でていた。なんて愛らしい目をしているのだろう。
あれ、この猫。見覚えがある。どこでだろう。気のせいだろうか。
あっ、ダンス猫か。
いやいや、あれは夢だ。似ている猫なんてたくさんいる。でも、灰色の猫はあまりいないか。ロシアンブルーだろうか。それとも雑種。
灰色猫は足に擦り寄って来て小さく鳴いた。
おそらく、どこかの飼い猫だろう。外に出さなきゃ。灰色猫を抱き上げて、一緒に外へ出る。凍てつく風が頬を突き刺してくる。
「おまえも寒いよな。早く家に帰れよ」
灰色猫に目を向けると瞬きをした。なんだか外に放り出すことが可愛そうになってしまった。だからといって家に置いていくわけにもいかない。
きっと大丈夫だ。飼い主のところに帰るだろう。
地面に灰色猫を下ろすと「じゃあな」と声をかけて歩き出す。
チラッと背後を見遣ると、灰色猫は門柱あたりでじっと座って見送っていた。しかも、手を上げて振りはじめた。違う、よく見ろ。あれは後ろ足を上げて毛繕いをしているだけだ。
ああ、もう。どうにも気になり立ち止まる。このまま行ってしまっていいのか。
戻るか。いやいや、大丈夫だ。きっと。
後ろ髪を引かれる思いで再び歩き出す。仕方がないことだ。そう思っても、やっぱり気になってしまう。遼哉は、心の中で『大丈夫だ』と繰り返し言い聞かせて振り向くことなくコンビニに向かった。
野良猫は寒さにも強いはず。
以前、雪の中を散歩する野良猫を目にしたことがある。あいつも、きっとそういうタイプの猫だ。猫はこたつで丸くなるって歌は間違っている。たぶん。まあ、あれは歌だし事実を述べているわけじゃないだろう。だからって、あの歌を否定しているわけじゃない。って誰に言い訳しているのだか。
いや、でも……。
猫ってもともと南方の動物だって話も小耳に挟んだ気がする。やっぱり、寒さには弱いのかも。ああ、ダメだ。余計なこと考えるな。そもそも本当に南方の動物なのか。そんな話どこで聞いたのだろうか。覚えていない。知ったかぶりをした人の戯言かもしれないじゃないか。
あの猫は大丈夫。今頃、他所の家にいって暖を取っているはずだ。
そうだ、あの猫はロシアンブルーかもしれないだろう。見た目はそんな感じだ。あれ、あいつは青い瞳だったろうか。違ったような。なら、あいつは違う種類の猫なのか。
どうだったっけ。よく思い出せない。そもそも、青い瞳だからロシアンブルーだったけ。違っただろうか。
わからない。
どっちでもいい。きっとロシアンブルーの血を引く猫だ。目の色は気にすることはない。それなら、寒さに強いはず。そういうことにしよう。
ああ、本当に冷える。猫よりも自分のほうが凍えてしまう。手の感覚がなくなりそうだ。さっさと朝飯買って帰らなきゃ。遼哉は身体を丸くしてコンビニへと急いだ。
「気をつけるんだぞ」
えっ、誰。
まさか猫が……。
そんなはずはない。空耳だ、きっと。そうそう、何も聞えなかった。聞こえるはずがない。猫が口を利くわけながいじゃないかと走り出す。
んっ、待てよ。さっきの声は源じぃの声に似ていなかったか。馬鹿を言うな。猫だろうと源じぃだろうとどっちにしろありえないことだ。それなら、物の怪とか幽霊とかか。
馬鹿馬鹿しい。冬に物の怪とか幽霊とかは出ない。なんの根拠もない考えを持ち出して納得し、寒さに身体を縮こまらせて駆けて行く。
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