29 / 161
第一話 謎の鍵が示す先
【二十九】不思議な猫グレン
しおりを挟む
靴がひっくり返るのも構わず勢いよく家に入り、キッチンのテーブルに三つの袋を置くと踵を返して再び外へ。
家の裏へと進み小さな庭に来たところで「グレン、どこだ。帰ったぞ」と声をかけた。グレンは門柱のところで見送ってくれた。外にいるはずだ。
それなのにいない。どこに行ってしまったのだろう。
どこか近所の家にでも避難しているのだろうか。猫は気まぐれだからな。とは言え、気にかかる。
まさか、家の中にいるのか。そんなことあるだろうか。猫が玄関扉を開けて。
遼哉はすぐに妄想を振り払う。ありえない。
あいつが普通の猫ならそうだろう。
思い出せ、グレンがいつの間にか部屋にいたことがあっただろう。まさかとは思うけど、絶対にないとは言えない気がしてきた。
外で探すのを諦めて、自分の部屋に向かう。果たしてグレンはいるのだろうか。
半信半疑でゆっくりと部屋の扉を開けていく。
いた。なぜだ。やっぱりグレンは物の怪か。猫又か。見た感じはどう考えてもどこにでもいる猫だ。
首を傾げて、グレンを見遣る。
物の怪のわけがない。そうだ、普通の猫だ。
人の気も知らないで、呑気なものだ。
ベッドの上で丸くなって寝息をたてている。心配して損をした。
もう一度、グレンをみつめて考え込んだ。
こいつは、どうやって家の中に入ったのだろう。猫専用の出入り口はなかったはず。さっきも外回りを探しているとき、見た感じそれらしき出入口はなかった。もちろん、玄関扉にも猫専用出入り口はついていない。
いくら考えても答えが出てきそうにはない。それならば考えるのはよそう。
夕飯の準備でもするか。と思ったけど、おかずは出来合いのもの買ってきてしまったからやることといったらご飯を炊くくらいか。さっさと米を研いでゆっくりしよう。
そうだ、グレンを問い質してみようか。もしかしたら、人の言葉を話せるのかもしれない。能ある猫は爪を隠すって言うじゃないか。
それを言うなら『鷹』だろうって指摘した奴は誰だ。って何をひとりでツッコミ入れているんだか。
んっ、待てよ。能ある猫は爪を隠すってことわざはあったはずだ。違っただろうか。
そんなことはどうでもいい。
「グレン、ちょっと話があるんだけど」
部屋に寝ているグレンの目の前に顔を持っていく。グレンは薄目を開けて再び閉じてしまった。
「おい、グレン。言葉がわかるんだろう」
遼哉は頭をガシガシ撫でた。
グレンは、やめろとばかりに手を掴みかかってきた。
一瞬ハッとしたが、痛くはなかった。柔らかな肉球が心地いい。そう思って、もう一度頭をガシガシ撫でつけるとグレンの爪が手の甲に突き刺さった。
「いてっ」
やり過ぎてしまったか。
「ごめん」
素直にグレンに謝罪する。いったい自分は何をしているのだろう。
グレンは素知らぬ顔して毛繕いをし始めている。
あっ、そうだ。キャットフードを買い忘れた。失敗した。腹は減っているはずだ。
「なぁ、グレン。腹減ったよな」
あれ、反応しない。いや、したか。チラッとだけこっちを見た。この感じは空腹じゃないってことか。
減っていたら、ご飯を強請るはずだ。
どうしてだろう。近所で食べているのだろうか。さっきも外に出ていたし。とりあえず、水だけでもあげようか。キッチンから手頃な茶碗を取り出して水を入れてグレンのもとへ引き返す。
グレンは茶碗に鼻先を近づけて、ヒクヒクと匂いを嗅いでいる。
「水だよ」
遼哉がそう告げると、グレンはチラッとだけ視線を送ってきてすぐに水を飲みはじめた。
そんなグレンの様子を見ているだけでなんだか和む。
「なあ、グレン。おまえはどやって家の中に戻っているんだ。いい加減、教えてくれよ。それに、人の言葉がわかるんじゃないのか。違うのか。それにダンスもできるんじゃないのか。物の怪なのか、どうなんだ」
水を飲みながらグレンの耳はピクピクと動きを見せている。聞いていることは間違いないだろう。ただ返事はない。
当たり前か。ここで急に話し始めたら正直腰が抜けてしまう。いや、実際には腰は抜けないだろうけど衝撃は計り知れないものがある。
遼哉は再びグレンの頭を撫でてあげた。今度は優しくそっと。
気持ち良さそうに目を細めるグレンの顔に癒された。
「なぁ、もう一度訊くぞ。腹は減っていないのか。大丈夫か」
当然だが、独り言のようになっている。グレンは何も話さない。そう思っていたら、突然身体を捩って遼哉の手を避けてベッドを下りた。どうしたのだろうと思っていると、部屋の扉前で振り返る。
どこかに行きたいのだろう。扉を開けてあげると、スルリと廊下へと出て行った。なんとなくグレンの行先が気になる。すぐにグレンを追いかけて部屋を出たのに、そこにはグレンの姿が見当たらない。
どこへ……。
消えた。嘘だろう。
遼哉はブルッと身体を震わせた。怖いからじゃない寒いからだ。そう自分に言い聞かせた。グレンは普通の猫だ。消えるはずがない。どこかにいるはずだ。
居間か。違う。客間か。違う。
源じぃの部屋だ。そこしかない。
家の裏へと進み小さな庭に来たところで「グレン、どこだ。帰ったぞ」と声をかけた。グレンは門柱のところで見送ってくれた。外にいるはずだ。
それなのにいない。どこに行ってしまったのだろう。
どこか近所の家にでも避難しているのだろうか。猫は気まぐれだからな。とは言え、気にかかる。
まさか、家の中にいるのか。そんなことあるだろうか。猫が玄関扉を開けて。
遼哉はすぐに妄想を振り払う。ありえない。
あいつが普通の猫ならそうだろう。
思い出せ、グレンがいつの間にか部屋にいたことがあっただろう。まさかとは思うけど、絶対にないとは言えない気がしてきた。
外で探すのを諦めて、自分の部屋に向かう。果たしてグレンはいるのだろうか。
半信半疑でゆっくりと部屋の扉を開けていく。
いた。なぜだ。やっぱりグレンは物の怪か。猫又か。見た感じはどう考えてもどこにでもいる猫だ。
首を傾げて、グレンを見遣る。
物の怪のわけがない。そうだ、普通の猫だ。
人の気も知らないで、呑気なものだ。
ベッドの上で丸くなって寝息をたてている。心配して損をした。
もう一度、グレンをみつめて考え込んだ。
こいつは、どうやって家の中に入ったのだろう。猫専用の出入り口はなかったはず。さっきも外回りを探しているとき、見た感じそれらしき出入口はなかった。もちろん、玄関扉にも猫専用出入り口はついていない。
いくら考えても答えが出てきそうにはない。それならば考えるのはよそう。
夕飯の準備でもするか。と思ったけど、おかずは出来合いのもの買ってきてしまったからやることといったらご飯を炊くくらいか。さっさと米を研いでゆっくりしよう。
そうだ、グレンを問い質してみようか。もしかしたら、人の言葉を話せるのかもしれない。能ある猫は爪を隠すって言うじゃないか。
それを言うなら『鷹』だろうって指摘した奴は誰だ。って何をひとりでツッコミ入れているんだか。
んっ、待てよ。能ある猫は爪を隠すってことわざはあったはずだ。違っただろうか。
そんなことはどうでもいい。
「グレン、ちょっと話があるんだけど」
部屋に寝ているグレンの目の前に顔を持っていく。グレンは薄目を開けて再び閉じてしまった。
「おい、グレン。言葉がわかるんだろう」
遼哉は頭をガシガシ撫でた。
グレンは、やめろとばかりに手を掴みかかってきた。
一瞬ハッとしたが、痛くはなかった。柔らかな肉球が心地いい。そう思って、もう一度頭をガシガシ撫でつけるとグレンの爪が手の甲に突き刺さった。
「いてっ」
やり過ぎてしまったか。
「ごめん」
素直にグレンに謝罪する。いったい自分は何をしているのだろう。
グレンは素知らぬ顔して毛繕いをし始めている。
あっ、そうだ。キャットフードを買い忘れた。失敗した。腹は減っているはずだ。
「なぁ、グレン。腹減ったよな」
あれ、反応しない。いや、したか。チラッとだけこっちを見た。この感じは空腹じゃないってことか。
減っていたら、ご飯を強請るはずだ。
どうしてだろう。近所で食べているのだろうか。さっきも外に出ていたし。とりあえず、水だけでもあげようか。キッチンから手頃な茶碗を取り出して水を入れてグレンのもとへ引き返す。
グレンは茶碗に鼻先を近づけて、ヒクヒクと匂いを嗅いでいる。
「水だよ」
遼哉がそう告げると、グレンはチラッとだけ視線を送ってきてすぐに水を飲みはじめた。
そんなグレンの様子を見ているだけでなんだか和む。
「なあ、グレン。おまえはどやって家の中に戻っているんだ。いい加減、教えてくれよ。それに、人の言葉がわかるんじゃないのか。違うのか。それにダンスもできるんじゃないのか。物の怪なのか、どうなんだ」
水を飲みながらグレンの耳はピクピクと動きを見せている。聞いていることは間違いないだろう。ただ返事はない。
当たり前か。ここで急に話し始めたら正直腰が抜けてしまう。いや、実際には腰は抜けないだろうけど衝撃は計り知れないものがある。
遼哉は再びグレンの頭を撫でてあげた。今度は優しくそっと。
気持ち良さそうに目を細めるグレンの顔に癒された。
「なぁ、もう一度訊くぞ。腹は減っていないのか。大丈夫か」
当然だが、独り言のようになっている。グレンは何も話さない。そう思っていたら、突然身体を捩って遼哉の手を避けてベッドを下りた。どうしたのだろうと思っていると、部屋の扉前で振り返る。
どこかに行きたいのだろう。扉を開けてあげると、スルリと廊下へと出て行った。なんとなくグレンの行先が気になる。すぐにグレンを追いかけて部屋を出たのに、そこにはグレンの姿が見当たらない。
どこへ……。
消えた。嘘だろう。
遼哉はブルッと身体を震わせた。怖いからじゃない寒いからだ。そう自分に言い聞かせた。グレンは普通の猫だ。消えるはずがない。どこかにいるはずだ。
居間か。違う。客間か。違う。
源じぃの部屋だ。そこしかない。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる