本の御魂が舞い降りる

景綱

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第一話 謎の鍵が示す先

【二十九】不思議な猫グレン

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 靴がひっくり返るのも構わず勢いよく家に入り、キッチンのテーブルに三つの袋を置くときびすを返して再び外へ。
 家の裏へと進み小さな庭に来たところで「グレン、どこだ。帰ったぞ」と声をかけた。グレンは門柱のところで見送ってくれた。外にいるはずだ。
 それなのにいない。どこに行ってしまったのだろう。

 どこか近所の家にでも避難ひなんしているのだろうか。猫は気まぐれだからな。とは言え、気にかかる。
 まさか、家の中にいるのか。そんなことあるだろうか。猫が玄関扉を開けて。
 遼哉はすぐに妄想を振り払う。ありえない。
 あいつが普通の猫ならそうだろう。

 思い出せ、グレンがいつの間にか部屋にいたことがあっただろう。まさかとは思うけど、絶対にないとは言えない気がしてきた。
 外で探すのをあきらめて、自分の部屋に向かう。果たしてグレンはいるのだろうか。
 半信半疑でゆっくりと部屋の扉を開けていく。

 いた。なぜだ。やっぱりグレンは物の怪か。猫又か。見た感じはどう考えてもどこにでもいる猫だ。
 首を傾げて、グレンを見遣る。
 物の怪のわけがない。そうだ、普通の猫だ。

 人の気も知らないで、呑気のんきなものだ。
 ベッドの上で丸くなって寝息をたてている。心配して損をした。
 もう一度、グレンをみつめて考え込んだ。

 こいつは、どうやって家の中に入ったのだろう。猫専用の出入り口はなかったはず。さっきも外回りを探しているとき、見た感じそれらしき出入口はなかった。もちろん、玄関扉にも猫専用出入り口はついていない。
 いくら考えても答えが出てきそうにはない。それならば考えるのはよそう。

 夕飯の準備でもするか。と思ったけど、おかずは出来合いのもの買ってきてしまったからやることといったらご飯を炊くくらいか。さっさと米を研いでゆっくりしよう。
 そうだ、グレンを問いただしてみようか。もしかしたら、人の言葉を話せるのかもしれない。能ある猫は爪を隠すって言うじゃないか。
 それを言うなら『鷹』だろうって指摘した奴は誰だ。って何をひとりでツッコミ入れているんだか。

 んっ、待てよ。能ある猫は爪を隠すってことわざはあったはずだ。違っただろうか。
 そんなことはどうでもいい。

「グレン、ちょっと話があるんだけど」

 部屋に寝ているグレンの目の前に顔を持っていく。グレンは薄目を開けて再び閉じてしまった。

「おい、グレン。言葉がわかるんだろう」

 遼哉は頭をガシガシ撫でた。
 グレンは、やめろとばかりに手を掴みかかってきた。

 一瞬ハッとしたが、痛くはなかった。柔らかな肉球が心地いい。そう思って、もう一度頭をガシガシ撫でつけるとグレンの爪が手の甲に突き刺さった。

「いてっ」

 やり過ぎてしまったか。

「ごめん」

 素直にグレンに謝罪する。いったい自分は何をしているのだろう。
 グレンは素知らぬ顔して毛繕いけづくろをし始めている。
 あっ、そうだ。キャットフードを買い忘れた。失敗した。腹は減っているはずだ。

「なぁ、グレン。腹減ったよな」

 あれ、反応しない。いや、したか。チラッとだけこっちを見た。この感じは空腹じゃないってことか。
 減っていたら、ご飯を強請ねだるはずだ。
 どうしてだろう。近所で食べているのだろうか。さっきも外に出ていたし。とりあえず、水だけでもあげようか。キッチンから手頃な茶碗を取り出して水を入れてグレンのもとへ引き返す。
 グレンは茶碗に鼻先を近づけて、ヒクヒクと匂いを嗅いでいる。

「水だよ」

 遼哉がそう告げると、グレンはチラッとだけ視線を送ってきてすぐに水を飲みはじめた。
 そんなグレンの様子を見ているだけでなんだか和む。

「なあ、グレン。おまえはどやって家の中に戻っているんだ。いい加減、教えてくれよ。それに、人の言葉がわかるんじゃないのか。違うのか。それにダンスもできるんじゃないのか。物の怪なのか、どうなんだ」

 水を飲みながらグレンの耳はピクピクと動きを見せている。聞いていることは間違いないだろう。ただ返事はない。
 当たり前か。ここで急に話し始めたら正直腰が抜けてしまう。いや、実際には腰は抜けないだろうけど衝撃は計り知れないものがある。

 遼哉は再びグレンの頭を撫でてあげた。今度は優しくそっと。
 気持ち良さそうに目を細めるグレンの顔に癒された。

「なぁ、もう一度訊くぞ。腹は減っていないのか。大丈夫か」

 当然だが、独り言のようになっている。グレンは何も話さない。そう思っていたら、突然身体をよじって遼哉の手を避けてベッドを下りた。どうしたのだろうと思っていると、部屋の扉前で振り返る。

 どこかに行きたいのだろう。扉を開けてあげると、スルリと廊下へと出て行った。なんとなくグレンの行先が気になる。すぐにグレンを追いかけて部屋を出たのに、そこにはグレンの姿が見当たらない。
 どこへ……。
 消えた。嘘だろう。

 遼哉はブルッと身体を震わせた。怖いからじゃない寒いからだ。そう自分に言い聞かせた。グレンは普通の猫だ。消えるはずがない。どこかにいるはずだ。
 居間か。違う。客間か。違う。

 源じぃの部屋だ。そこしかない。

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