本の御魂が舞い降りる

景綱

文字の大きさ
30 / 161
第一話 謎の鍵が示す先

【三十】何かが変だ

しおりを挟む

 おそらくグレンは部屋を出た瞬間、駆け出したのだろう。
 尻尾をピーンと立てて走り行くグレンの姿が頭に浮かび、口許を緩ませた。

 なんでそんなこと浮かんだんだろう。グレンの気持ちが伝わってきたのか。尻尾を立てているときって喜んでいるんだっけ。喜ぶようなものが源じぃの部屋にあるってことか。
 そうと決まったわけじゃない。単なる想像だ。
 とにかく、グレンを探そう。

「グレン、いるのか」

 廊下はこの先で直角に曲がっている。先はここからでは見えない。源じぃの部屋はその先だ。
 やっぱりいるとしたら、源じぃの部屋か。
 遼哉は源じぃの部屋へ足を向けた。

 チラッと窓の外を眺めて立ち止まる。月が綺麗だ。そう思ったところで身体が震えた。
 こんなところずっといたら風邪を引いてしまう。早いところ源じぃの部屋に行こう。カーテンを閉めて、一歩踏み出したところでグレンが顔を出す。やっぱり、源じぃの部屋にいっていたのか。

 何かくわえている。なんだろう。
 グレンは上目遣いでみつめてくると、銜えたものを前に落とした。

 紙切れだ。何か書かれている。
 しゃがみ込み、紙切れを拾いハッとする。


『グレンのことで気にかかることがあるだろう。それもそのうちわかることだ。気にせずにいることだ。
 それはそうと遼哉、いろいろとありがとうな。
 今言えることはそれだけだ。
 ハルさんは、変わらず優しいな。

 源蔵より』


 どういうことだ、これ。
 源じぃの手紙はまだあったのか。
 違う。これはおかしい。今、書いたみたいじゃないか。

『変わらず優しい』だなんて。まるで、ハルと会ったみたいな文言だ。

 さっきまで地下室のどこかにいたのか。もしかしてあの場所は別な場所に通じているとか。あの世と繋がる部屋とか。考え過ぎか。それならこの手紙はなんだ。源じぃの幽霊がいるのか。
 遼哉はあたりに目を向けた。

 いないか。って、幽霊が見えるはずがない。霊感はない。見えないとしても、ここにいるとしたら。そうだ、もしかしたら源じぃは部屋にいるのかも。
 馬鹿なことを考えてしまった。そんなはずはない、よな。
 ああ、頭がおかしくなりそうだ。

「なあ、グレン。おまえが書いたわけじゃないよな」

 またしても馬鹿なことを。猫が書くはずがない。馬鹿馬鹿しくて笑えてくる。
 じっとグレンをみつめて、廊下の先へと視線を移す。

 妙にこの先にある部屋が気になった。一応、源じぃの部屋に行ってみるか。
 遼哉は歩みを進め、ふすま戸を勢いよく開けた。
 静まり返る部屋があるだけだった。

 いるわけがない。わかりきっていたじゃないか。それなら、この文章はなんだ。
 手紙を読み返して、天井へと目を向ける。
 源じぃ、会いたいな。

 カタン。
 何だ今の音。ちょっと待て。今、何か動かなかったか。ゆっくり顔をそっちへ向けていく。
 嘘だろう。すぐに視線を逸らして黙考する。

 見てはいけないものを見てしまった。目の錯覚だ。そうだ、そうに違いない。もう一度見ればわかることだ。きっと、何もない。
 恐る恐る目を向けていくと、そこには黄色の人形があった。なんで、こんなところにあるのだろう。やっぱり、動いたってことか。目の錯覚じゃないのか。

 そうか、グレンがここへ置いたのか。それだったら納得出来る。いろいろと疑問はあるがそういうことにしておこう。余計なこと考えるな。動くはずがない。

しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

処理中です...