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第一話 謎の鍵が示す先
【三十一】驚きがここに
しおりを挟むグレンが足元へやってきて身体を擦りつけてくる。
こいつは謎だ。謎猫だ。
「グレン、おまえは猫だよな。普通のどこにでもいる猫だよな」
思わず、そう声をかけていた。何をしているんだか。
上目遣いで不思議そうな顔をするグレンが愛らしくて抱きしめたくなる。本当に抱きしめようとしたら、きっと逃げるだろう。ここは我慢。
「おまえは癒しそのものだな」
こいつが物の怪のわけがない。
遼哉は頬を緩ませてグレンの首筋を撫でた。どう見てもどこにでもいる猫だ。この愛らしい顔は怪しげな化け猫ではない。不思議な猫ではあるけど物の怪ではないと信じよう。
そうだとしたら、やっぱり源じぃの幽霊がここにいるのか。
「源じぃ、どっかにいるのか」
源じぃの部屋をグルッと見回して問い掛ける。
「ああ、もう面倒だ。遼哉にだけは話してしまおう」
突然の声とともにひんやりする空気が部屋に流れ込んできて、ビクッとする。
今の声は、源じぃ。
空耳じゃない。そう思った瞬間、目の前に源じぃが現れた。
口をポカンと開けて、動きを止めた。これはいったいどういうことだ。えっと、えっと。
思考が停止してしまう。
夢か。違う。現実なはず。それなら、源じぃが亡くなったこと自体が夢か。それも違う。確かに葬儀を執り行った。
それじゃ、幽霊。本物の幽霊。
瞼を擦り、もう一度見遣る。いる。間違いなくいる。はっきりと見える。
嘘だろう。自分は霊感が強かったのか。いや、そこじゃない。幽霊って本当にいるのか。
「どうした。鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているぞ」
「だ、だって。源じぃはもう」
「まあ、そうだな。いわゆる幽霊ってやつだ。どうやら、未練があると成仏出来ないらしい。ずっといたのだぞ。気づかなかったか」
「まったく」
「まあ、そうだろうな」
「源じぃ、俺、俺」
「おいおい、泣くでない」
「だって。会えるなんて思わなかったからさ」
源じぃは抱きしめてくれた。幽霊なのにぬくもりを感じる。本当に幽霊なのか。幽霊って身体が透けて通り抜けてしまうはずだ。そんなこと今は考えることじゃない。こうして源じぃと再会できただけで十分じゃないか。
足元ではグレンが身体をスリスリしている。
「まあ、なんだ。遼哉には感謝しているんだぞ。まさか、ハルさんをこんなにも早く連れてきてくれるとは思っていなかったからな」
「なんだよ、地下室にもいたのかよ。なら、出て来てくれればよかったじゃないか」
遼哉は涙を拭って文句を言った。
「ははは。確かにな。出ていこうと思ったんだが、どうにも気恥ずかしくてな。情けないものよ。けどな、三人揃ったときには姿を現そうと思っていたのだぞ。そうそう言っておくが、姿を現すことも骨が折れるんだぞ」
「そうなのか。いや、ちょっと待って。源じぃがいるなら、自分で伴治さんに話して仲直りすればいいんじゃないのか」
「いやいや、それは無理な話だ。骨が折れると言ったばかりであろうが。これは遼哉の仕事だ。このお題を解決したとき、いいことが待っているはずだぞ。な、面白いゲームだろう」
何が面白いゲームだ。なんでもゲームにすればいいってもんじゃない。
亡くなっても、そんなことするのか。どれだけ好きなんだか。
それに骨が折れるって言うけど、そんなに難しいことなのか。まあいいか。付き合ってやろう。というか一緒にいたい。実は心が踊っている。
子供の頃が蘇ってくる。よく謎解きゲームで遊んだものだ。
懐かしい。そう思ったら、また目頭が熱くなってきた。
「おいおい、しかたがないな。遼哉はどうやら涙もろいようだな」
源じぃの手が頭に触れる。
あたたかい。本当に不思議だ。撫でられている感触がある。
そうだった。いつもこうやって慰めてくれた。子供の頃に戻ってしまった気分だ。
「源じぃ。俺、頑張るからさ」
「ああ、わかっている。だが、あまり気負わずにな」
「うん、ありがとう」
「まあ、なんだ。遼哉なら出来ると信じている。頼んだぞ。そろそろ限界だ。こうして姿を現すのも疲れる。休ませてもらうからな。またな」
そう言葉を残して源じぃは消えた。
そうなのか。幽霊をやるのも体力がいるってことなのか。体力って表現は変か。霊力なのか。もしかしたら、幽霊の姿を見ることが出来るのって見るほうも見られるほうも力が必要なのかもしれない。
何気なくグレンのほうへ目を向けて釘付けになる。
嘘だろう。何かの冗談か。これこそ夢か。
グレンが、グレンが踊っている。
身体をクネクネさせている。どう見ても踊っている。しかも人形も一緒に踊っているじゃないか。いったいなにを見ているのだろう。
山吹色の人形と目が合うと笑いかけてきた。
あっ。グレンを抱き上げて揺らせている源じぃの姿が薄っすら見えた。
そういうことか。驚かせないでほしい。まったく。
「そうそう、グレンを家の中に入れたのも私なんだよ」
源じぃは高らかに笑って、消えていった。
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