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第一話 謎の鍵が示す先
【三十四】本の御魂の火乃花
しおりを挟む「お祖母ちゃん、学校から帰ったら予定通り伴治さんのところに行くからね」
「そうかい。うまくいくといいんだけどねぇ」
「そうだね」
ハルは「力を貸してくれるかい」と赤色の巫女姿の人形に話しかけていた。あっ、赤じゃなくて緋色だったっけ。それよりもハルが気にかかる。
まさか本当に認知症なのだろうか。人形に話しかけるなんて。どうしたらいいのだろう。
「火乃花。お願いだよ」
あれ、おかしい。目の錯覚だろうか。今、人形が笑ったような。
嘘でしょ。自分も頭が変になってしまったのだろうか。
そんなはずはない。それなら、今見たのは何。疲れているのだろうか。
「私の出番ね」
何、しゃべった。
違う、違う。空耳だ。人形が話すはずがない。
自分はどうしてしまったのだろう。
「そうかい、手伝ってくれるのかい。『本の御魂』の物語のように活躍しておくれよ。頼んだからねぇ」
「ええ、任せて」
やめて、やめて。
耳を押さえて頭を振る。
「どうしたんだい。小海」
「お、お祖母ちゃん。私、なんか変なの。そ、その人形が」
「おや、小海にも聞こえたかい。それなら、変なんかじゃないよ。不思議な人形ではあるけどねぇ。付喪神らしいんだよ。源蔵さんがそう話していたのを思い出すねぇ。ずっと忘れてしまっていたけど。まさか復活するだなんて本当にうれしいよ。押入れの暗いところに閉じ込めてしまって本当に申し訳ないよ。ごめんよ」
ハルは火乃花の頭を撫でて謝っていた。
「気にしなくていいわよ。また、あの二人と会えるんでしょう」
「樹実渡と流瀧のことかい。そうだね。ああ、なんだか懐かしいねぇ」
何、この展開。
これって現実。夢の続きを見ているのだろうか。付喪神って本当にいたの。あっ、人形が手を振っている。これは振り返さないといけないの。
小海は顔のこわばりを感じつつ、なんとか笑みを浮かべて手を振り返した。
なんだかとんでもない事実に突き当たってしまったみたい。それこそ、本の中の世界みたい。
ということは、遼哉のところの人形も今日行く予定の伴治さんのところの人形も動くってことなのだろうか。命が宿っているってことなの。
夜な夜な動き回る日本人形を想像して、身体をブルッと震わせた。
目の前の人形は笑っている。人形とは思えないくらい自然な笑みだ。そう思うと怖い話に登場する日本人形とは違う。怖さは感じられない。可愛いとさえ思える。緋色の衣装が良く似合っている。小さいだけで、本物の巫女さんみたい。
考えてみれば夜な夜な歩き回る日本人形だって、怖い存在とは言えない。何かを伝えたいだけかもしれない。寂しいだけかもしれない。呪われていることもあるかもしれないけど、固定観念に囚われてはいけない。
「小海、時間は大丈夫かい」
えっ、時間。
時計を見遣り、急いで鞄を手に取り振り返って手を振る。
「遅刻しちゃうから行くね」
「いってらっしゃい」
ハルの笑みと火乃花の笑みに見送られて家を飛び出した。
走りながら、頭の中でいろんな考えが駆け巡る。
実際に命が宿る人形がいるだなんて。人形というか付喪神だっけ。付喪神って妖怪だったろうか。ああ、もう。何がなんだかよくわからなくなってきた。世の中、何が起こるかわからない。それだけは確かなこと。
なんだろう。いろんなことを想像したら、楽しくなってきた。
テストが終わったら即、帰宅しよう。
北風が首筋を通り過ぎて、ブルッと身体を震わせた。
そうだ、急がなきゃ。
『小海の馬鹿』
自分に活を入れて、落ちていた走るスピードをあげた。
考え事している場合じゃない。
それにしても今日は本当に寒い。あったかい飲み物でも飲みたいな。
ココアなんか最高かも。
ふと遼哉の家で飲んだココアを思い出してにやけてしまった。
馬鹿、馬鹿。何を考えているの。遼哉はただの幼馴染でしょ。
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