46 / 161
第二話 悲しき本の声
【四】朋美と話そう
しおりを挟むどうしよう。何を話そう。鼓動が速まっていく。
小海は軽く胸を叩いて落ち着けと自分に言い聞かせた。
ふいに流瀧の言葉が脳裏に蘇る。
『まずは考えてから行動してください』
そんなことわかっている。本当に、そうだろうか。さっき反省したばかりだ。
火乃花のこと言えないな。
似たもの同士なのかも、自分と火乃花って。いやいや、そんなことない。たぶん。
もうどうにでもなれ。とにかく朋美ときちんと話さなきゃ。
「あの」
「あっ、ごめんね。ここじゃなんだから、ちょっと外で話さない」
朋美は頷き、一緒に図書室を出た。
「話ってなんですか」
「何ってことはないんだけどね。朋美さんのお爺ちゃんと私のお祖母ちゃんって知り合いでね。朋美さんのこと知って気になっちゃってさ」
こんな感じで大丈夫だろうか。まあ、嘘は言ってないし大丈夫だろう。いや、ダメだ。それとなくではない。これじゃ。
「そうなんだ」
「本好きなんだね」
「まあね」
「私は、本は苦手なんだけどね。よかったら、友達になってくれないかな」
「いいけど、私といてもつまらないと思うよ」
「つまらない?」
「だって、本の話ばかりだもん」
本の話か。つまらないだろうか。
遼哉の顔が浮かぶ。
つまらなくない。遼哉が楽しそうに話す本の話を聞くの結構好きだ。きっと、朋美とも楽しく話せるはず。
「つまらなくはないよ。たぶん。読むことは苦手でも、話を聞くのは嫌いじゃないから」
「そう。けど、私に関わらないほうがいいと思う」
「それってどういうこと」
「うーん、それは……その。えっ、な、なに。う、嘘でしょ」
朋美は突然、目を見開き訳の分からないことを口走り走り去ってしまった。
「ちょっと、どうしたの」
どうしたのだろう。朋美の視線が下に向いていた。
小海は下を見遣り納得した。火乃花が小首を傾げている。じっとしていられなかったのか。溜め息を漏らして、火乃花をみつめる。
目が合うと、火乃花は「私、何か悪いことしたの」と小首を傾げていた。
朋美はどう思ったのだろう。お化けとでも思っただろうか。小人と思っただろうか。人形が動いたと思っただろうか。
どちらにせよ、最悪だ。きっと朋美は自分を避けてしまうだろう。その前に『関わらないほうがいい』なんて口にしていた。あれはどういう意味だろう。
今はそんなこと考えている場合じゃない。作戦失敗だ。作戦と言えないくらいの行き当たりばったりだったけど。
火乃花に目を向けて嘆息を漏らす。どうにかしなきゃ。
「ねぇ、ところであの子はなんで走っていっちゃったの」
嘘でしょ。まさか、本当に気づいていない。火乃花を見て驚いたからでしょ。ああ、もう。可愛いその目で見られたら、『火乃花のせいよ』なんて言えない。
「なんでだろうね」
「うーん、わかった。鬼よ、どこかに鬼がいるんだわ」
火乃花は壁を蹴り飛び上がると肩に飛び乗ってあたりを見回している。
「ちょっと、ダメでしょ。おとなしくしていて」
「小海、黙れ」
それはこっちの台詞だ。
「感じる、感じる。鬼の気だ。退治せねば」
「えっ、鬼の気?」
「臭う、臭う、臭う。嫌な焦げ臭いが漂っている。どこだ、鬼」
ああ、もう。鬼となると、性格が変わっちゃうんだから。
何が鬼よ。いるわけがないでしょ。
伴治のときみたいに勘違いしているんだろう。でも、万が一ってこともあるのか。火乃花は付喪神だ。人にわからない何かを感じられるのだろうか。
いやいや、ない、ない。鬼なんてそれこそおとぎ話の世界のこと。
とにかく火乃花をポケットに戻さなきゃ。誰かに見られたら、どう答えていいかわからない。
「火乃花、いいから戻って」
「あっ、いた。あいつだ。あいつが鬼だ。抹殺だ」
「えっ」
振り返った先にいたのは、見覚えのある女子生徒だった。
あれ、美里じゃない。中学のとき一回だけ同じクラスになったことがあった。佐々木美里だ。あまり親しくはないが顔は知っている。
「よし、鬼退治だ。行くぞ」
火乃花が飛び降りようとしたところを小海はうまく捕まえてポケットに押し込んだ。まったく何を考えているの。どう見たって鬼じゃないでしょ。
「ねぇ、今、小人みたいなのいなかった」
「えっ、そう。気のせいじゃないかな」
「そうかな。いたような気がするんだけど、おかしいな」
ここは知らないと言うしかない。美里はあたりをしばらく探していたが、「目の錯覚よね」と呟きこっちに向き直った。ポケットに入れたことには気づかれなかったようだ。
「小海、久しぶりね」
「そうね」
「ところでさ、新島朋美って知っている」
「え、新島さん」
「そう」
「さっきまで図書室にいたけど」
「そうなんだ」
そのときチャイムが鳴った。午後の授業が始まる。急がなくちゃ。
「美里、授業始まっちゃうから行こう」
美里は頷くと、「じゃあね」とだけ言って先に行ってしまった。
それはそうと美里は朋美と友達なのだろうか。
「もごもご、ぐがぁ」
火乃花をポケットの上から強く押さえつけていたことに気づき、力を抜きポケットを覗き込む。
「ごめん」
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密
藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。
そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。
しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。
過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!
【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜
加瀬 一葉
ファンタジー
王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。
実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?
過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる