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第二話 悲しき本の声
【五】困惑
しおりを挟む「こらー、小海。苦しいじゃない」
「本当にごめんね。けど、気づかれるわけにいかないから」
火乃花はムスッとした顔をして腕組みをした。
「ふん、まあいいわ。けど、鬼を取り逃がしたことはまずいわ」
なんだか偉そうだ。鬼だなんて本気で言っているのだろうか。取り逃がしただなんて、どこにいたっていうの。まさか、本当に美里のことを鬼だなんて言っているのだろうか。どう見ても美里は鬼じゃない。伴治みたいに怖い顔でもないし。それどころか、美人の部類に入る。まったく、どこをどう見たらそうなるのだろうか。
「火乃花、なんでそんなに鬼、鬼って騒ぐのよ」
「だって、あいつは鬼だったじゃない」
「美里のことを言っているの。あんな綺麗な顔の鬼なんていないわよ」
「いる。意外と鬼は美形が多いんだから。心の奥底に渦巻く怨み、辛みがいずれ顔にも表れるだろうけど」
「そうなの」
「そうだ、心の歪みは顔に如実に表れるんだから」
火乃花はひとり頷いている。そっちじゃなくて、鬼は美形が多いってほうのこと言ったんだけど。まあいいか。
美里が鬼。
まさか、それはないでしょ。そんな感じには見えなかった。見た目じゃわからないってことなのか。もしかして、心の中に鬼がいるってことなのか。いやいや、そんなはずはない。きっと、火乃花の勘違いだ。そうとは言い切れないのだろうか。
小海は溜め息を漏らして、教室に足を向ける。
あっ、そういえば朋美に自分の名前を言っていない。やってしまった。これじゃ遼哉のこと強く言えないじゃない。しっかり者のつもりでいるのに。
「ねぇちょっと、あれ」
「もう、何よ」
火乃花が指差す先を見ると、一冊の本が落ちていた。
手に取ると『虹鳥』とのタイトルが書いてあった。
図書室で借りてきた本じゃないみたいだ。どこにも図書室を示す印がない。もしかしたら、朋美が落としていったのかもしれない。
「これは、いじめ問題をテーマにした本ね」
「そうなの。火乃花は知っているの」
「本から伝わるものを感じるだけ。けど、内容とは別に悲しみを感じる」
「どういうこと」
「さあね。さっきの子の想いかもよ」
想い。
「朋美さんが悲しんでいるって言いたいの」
「それは、わからない」
朋美はやっぱり何か悩み事があるのかも。そうだとしたら、どうすればいいのだろうか。出来ることがあるのだろうか。
あっ、早く教室に戻らなきゃ。
***
朋美は教室へ戻り、自分の席につく。
吐き気が込み上げるくらい心臓がバクバクいっている。口から心臓が飛び出してしまいそうだ。
いったい、自分は何を見たのだろう。
幻だったのだろうか。話しかけてきたあの子も本当にいたのだろうか。何を話したかも忘れてしまった。赤い衣装を着た人形が確かにいた。しかも、動いていた。目が合った気もする。笑った気もする。小人だったとでも言うの。そんなことって。
なんだろう。あの人形、知っているような。気のせいだろうか。それとも夢で見たのだろうか。
考えているうちに、頭の片隅にある記憶が徐々に顔を出してくる。
赤い衣装。巫女の衣装。
本だ。
朋美はさっき見たような人形が活躍する話を読んだことがあった。うろ覚えだが確かに読んだ。あれは祖父の家だったろうか。そういえば、さっきのあの子が祖父の知り合いだとか話していたような。
人形か。祖父の家にも似たような人形があった記憶もある。
でも、でも、でも。動くはずがない。
そう、人形は動かない。きっと、幻を見たんだ。
いろいろと考えを巡らせていくうちに、心臓の鼓動も緩やかになっていった。
チャイムが鳴り、我に返り顔をあげた。
次は現国だったっけと教科書とノートと筆記用具を取り出す。おもむろに顔を上げて前の黒板をじっとみつめていたら、美里が教室に走って入ってくる姿が目に映る。そんな美里と目が合ってすぐに視線を逸らした。
こっちへ歩いて来る。席はこっちじゃないのに。
どうしよう。来ないで。
通り過ぎる瞬間、「放課後、わかっているわよね」とだけ呟き席のほうへ歩いて行った。
放課後……か。
朋美は目の前が真っ暗になったような錯覚に陥った。
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