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第二話 悲しき本の声
【六】物思いにふける小海
しおりを挟む小海は帰っていくクラスメイトに手を振り、窓の外の風景をぼんやりと眺めた。
この学校ともあと数ヶ月でお別れか。
授業は正直楽しくないけど、ちょっとだけ寂しい。
なんなのだろう、この気持ち。やりたくない勉強をする必要がなくなりせいせいしているはずなのに。就職も決まっているし、言うことなしでしょ。違うのだろうか。何かやり残したことがあるのだろうか。
思いつかない。
本当はもっと勉強したかったとか。
すぐに頭を振り、それは絶対にないと強く否定する。
寂しいと思うのは、やっぱりみんなと会えなくなるからだろうか。きっと、そうだろう。呑気に馬鹿話もできなくなるからだろう。
進学クラスの人達はちょっと自分たちとは違う世界にいる感じだけど。授業より自分の勉強やっている人も多いみたいだ。そう考えると先生が可愛そうになってくる。
就職か。きちんと勤まるだろうか。仕事をする自分の姿があまり想像出来ない。それでもきっと大丈夫だろう。だって知り合いの会社だし。
「小海、何をボーッとしているのよ」
「えっ、あっ、火乃花か」
まだいたんだっけ。
「何よ、なんか文句でもある」
「いや、別に」
「まあいいわ。そんなことより早くしないと、朋美が帰ってしまうわよ」
そうだった。何をしているんだか。どれだけ自分の世界に浸っていたのだろう。嫌になる。
「もう、小海ったらダメダメね」
火乃花には言われたくない。
とにかく急がなきゃ。立った拍子に椅子をガタンと倒してしまい、振り返りハッとなる。まだ教室に人がいた。
火乃花との会話を聞かれた。どうしよう。少し考えて大丈夫だと思い直す。火乃花はポケットの中だ。姿は見られていない。きっと、独り言だと思われているだろう。それはそれで最悪だ。あまり話したことのない大人しいクラスメイトだし、声をかけづらい。
まあいいか。変な人だと思われたっていい。
小海は苦笑いを浮かべて「脅かして、ごめん」とだけ謝り、鞄を持ち教室をあとにする。
知美と話さなきゃ。本も返さなきゃいけない。
会ってくれるだろうか。火乃花のこと思い出して、逃げちゃうかもしれない。
火乃花には絶対に顔を出さないようにと釘を刺しておいた。もちろん、黙っているようにも伝えた。素直に聞いてくれるか不安だけど。
さてと、朋美はいるだろうか。
隣のクラスを覗いたが、姿は見えなかった。
帰っちゃったか。そりゃそうだ。
どうしようか。伴治の家によって朋美の家を教えてもらおうか。そこまでしなくてもいいか。
そういえば、伴治はなんで朋美たちと住んでいないのだろう。よその家のことをとやかく言えないけど気になってしまう。
伴治のことだから、何か勘違いからすれ違いになってしまったのかも。
ダメダメ。余計なお世話だ。詮索はしないにしよう。
「世の中、うまくいかないものよね」
「何言っているの。火乃花がいけない……。いや、なんでもない」
火乃花のせいにしちゃいけない。いや、実際に火乃花のせいなんだけど、そんなこと口にしちゃいけない気がした。
「何よ。そこまで言ったら最後まで話なさいよ。私が何をしたっていうのよ」
「いいの。本当になんでもないから」
「ふーん、そう、ならいいけど」
今日はこのまま帰ろう。本は、明日返せばいい。
「火乃花、明日は学校に来ちゃダメだからね」
「なんで、なんで、なんで」
ポケットの中で暴れながら文句たらたらの火乃花になんだか笑えてきた。
「なんでもよ」
「ふん、どうせ私は邪魔ですよぉ」
いじけちゃったみたい。
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